page.3「ヘヤリーとバイクの王子様」

 数分後。

 危ない運転で、目的地に到着。

 


 ……したのはいが。

 内面も外面も整った異性どの急速スキンシップにより。

 樂羽このはの思考回路、心臓はショート寸前だった。

 


 いや、ネタの鮮度。

 神曲だけど、鮮度。

 そして、『心臓がショート』って、なに

 と、ひそかにノリツッコミ(?)する樂羽このは



日明たちもりさん。

 俺、そろそろ行くよ。

 怪我けがとか忘れ物とか、落とし物とか、い?」

「(ブンッ、ブンッ!!)」

「なら、かった。

 それと、日明たちもりさん、これ」



 ポケットから取り出したメモを、樂羽このはに手渡す灯頼ひより

 そこには、彼のRAINレインIDが書かれていた。



かったら、登録しといて。

 で、なんったら、いつでも呼んで。

 なんくても、なんでもくても、構わないから。

 俺も、なる早で駆け付けるから。

 電話もメッセも、いつでも寄越して。

 ミュートにしてるから、安眠妨害とかにもならないし。

 んじゃ、またね」

「っ!!」



 月星つくしと合流せんとする灯頼ひより

 そんな彼の両手を、気付きづけば樂羽このはにぎっていた。



 別に、月星つくしたちが期待しているようなアレコレではない。

 ただ純粋に、単純に、感謝を述べたくて。

 けど、その方法が、言葉が見付からない。



 ……いや。

 やっぱり、違う。

 と思う。



 この感情は、この『好き』は。

 母や、妹に向けているのとは、ニュアンスが異なる。

 気がする。



 だって、ようやく会えたのだ。

 昔から憧れて止まなかった、白馬の王子様のような、格好かっこくて。

 なにより、優しい人に。



 灯頼ひよりと、王子様との間に、ギャップがほとんい。

 強いて挙げるならば、乗っていたのが「白馬」ではなく「バイク」だったという点のみ。



 だが、樂羽このはは一向に構わなかった。

 バイクの王子様とて全然、りだった。

  


 このドキドキの真偽、正体はなんであれ。

 見切り発車で迷惑を掛け、自己嫌悪に陥る樂羽このは

 灯頼ひよりは、エンジンを掛けていないバイクから降り。

 彼女に、頭ポンポンした。



「『乗せて来てくれて、ありがとう』。  そう、伝えようと、してくれてる?」

「(……コクッ)」

「ありがとう。

 でも別に、感謝してもらえるほど、大したことはしてないよ。

 今日だって、バイト代とか出てないし」



 樂羽このはは、首を横に振る。

 さながら、「だったら殊更、たっとばれるべき偉業だ」、と。

 そう伝えるように。



 そんな健気な樂羽このはを見て。

 灯頼ひよりは、不意に吹き出した。



「……ごめん。

 なんか、可愛かわいいなって。

 日明たちもりさん」

「〜っ!!」



 癖っ毛をビクッと逆立て、驚く樂羽このは

 かと思えば、恥ずかしさがピークとなり、一気にヘナヘナと折れる。



 く分からないリアクションを受け。

 灯頼ひよりは、再び笑った。



「じゃあさ。

 お礼ったら、恩着せがましいけど。

 今度、俺とデー……お出掛けてしない?」

「……?」

「ほら。

 日明たちもりさん多分、こっちには、まだ不案内だから。

 だから、軽くご当地巡りでも出来できたらな、って。

 っても、今日みたいに、またバイク。

 あるいは、電車でだけど」

「〜っ!!」



 パァァァァァッ……と表情が明るくなる樂羽このは

 どうやら、願ったり叶ったりらしい。

 素直なリアクションに、灯頼ひよりうれしくなる。



「そうだなぁ……。

 ここら辺だと、やっぱ、揚げたい焼きかなぁ。

 チーズとか絶品だし、ポテトもサックサクでさぁ。

 日明たちもりさん、たい焼き、好き?」

「(ブンブンッ、ブンブンッ!!)」

「それはかった。

 本当ホントは、このまま調達したい所なんだけどさ。

 ずは、琴理ことりさん連れて来なきゃだし。

 それに、今の時間は準備中なんだよね。

 だから今度、かったら、どう?」

「(コクコクッ、コクコクッ!!)

 (グーッ!!)」



 うなずき、サムズアップする樂羽このは

 予想以上に親しくなれて、灯頼ひよりも顔を綻ばせる。



「じゃあ、そういうことで。

 明日は、家の手伝い、バイト入ってるけど。

 直近だと、明後日あさってが空いてるんだ。

 日明たちもりさんは、どう?」

「(コクッ、コクッ!)」

「決まり。

 じゃあ、明後日あさって

 詳しい内容や時間は、後で決めよっか。

 他にもリクエストとかったら、教えて。

 なるべく組み込めるようにする」

「(グーッ!)」



 話が纏まり、すっかりワクワク顔になる樂羽このは

 そんな彼女に再び、頭をポンポンし。

 灯頼ひよりは、今度こそ立ち上がる。



「そろそろ行くよ。

 またね、日明たちもりさん」

「(コクッ、コクッ)」



 ヘルメットを被り直し、ハンドルをにぎ灯頼ひより

 が、いつまて経ってもエンジン音が聞こえず。

 樂羽このはは、小首を傾げた。



 かと思えば、またバイクから降り。

 顔を赤くし、目を泳がせながら。

 灯頼ひよりは、げる。



「……ごめん。

 やっぱ、前言撤回」

「(ビクッ!!

 (ガクガク、ブルブルッ……!!)」

「いや、ごめん、そういうんじゃなくって!

 今のは、俺が全面的に悪かった!」



 予定をキャンセルされるのでは。

 それだけの粗相をしてしまったのでは。

 と、恐怖し、絶望しかける樂羽このは



 灯頼ひよりも、慌ててフォローに入。

 ろうとして一旦、頭を冷やし。

 落ち着いて、訂正する。



「……正直、こんなの、がらじゃないってーか。

 二人が俺を、どう思ってくれてるかは、分からないけどさ。

 その実、俺、全然、そんなんじゃないってーか……。

 イケメンでも、スマートでもないってーか……。

 身も蓋もないことを言えば、名前通り、日和ひよってるってーか、ヒヨコってーか……。

 でも……正直、ドタイプなんだ。

 シュウにぃから話聞いた時から、気になってたんだ。

 君のこと、ずっと。

 可愛かわいいなって、ニヤニヤしてた。

 そしたら、ハイヤーに抜擢された。

 期せずして、大義名分を手に入れちゃったからさ。

 俺も……ちゃんとしなきゃ、言わなきゃって。

 君みたいな子は、っとかれないだろうから、って。

 だから……だから、さ」



 樂羽このはの手を、そっと包み。

 灯頼ひよりは、意味深に見詰める。



「『お出掛け』でも、『日明たちもりさん』でもない。

 ……どうか明後日あさって、この俺と。

 ……『デート』してください。

 ……『樂羽このは』……。

 ……さん……」



 肝心な所で、最後で外し。

 先程の言葉が嘘ではないと、証明する灯頼ひより

 おかげで、樂羽このはたちまち、リラックスした。



「……樂羽このは……」

「……え?」

「……『樂羽このは』で、い……。

 ……ううん……。

 ……『樂羽このはい……。

 ……『灯頼ひより』、くん……」



 一言。

 たった、一言。

 けど、決して軽くない、大きな一歩。



 脈有りと判明し、浮足立つ灯頼ひより

 が、みっともない自分を抑え。

 はにかみながらも、答える。



「……ありがとう。

 えと……。

 こっ……『この』っ……」



 グリスが差されていないかのごとく、ぎこちない灯頼ひより

 が、彼の気持ちが伝わり。



 樂羽このはは、彼に抱き着いた。

 それも、無意識に。



「……灯頼ひより、くん……。

 ……私の、彼氏……?」

「……どうだろ。

 分からない。

 なんさっき、会ったばっかだし。

 でも……だったら、いな。

 根拠とか、いに等しいけど、さ。

 樂羽このはとなら、上手うまくやってける気がする」

「……私も……」

「ありがと。

 だから、さ。

 ずは、明後日あさって

 デートして、はっきりさせよう?」

「……うん……。

 ……デート、楽しみ……」

「……俺も」



 まだ不慣れながらも、樂羽このはを包む灯頼ひより

 


 数分後。

 二人は一旦、解散した。

 2日後にまた会えるのを、心待ちにして。

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