page.2「ピンぼけエルフの大冒険」

 話は、少し遡る。



 新幹線、電車を乗り継ぎ、およそ3時間。

 樂羽このはは今、石巻の道の駅へと降り立った。

 それも、両親同伴でもないのに。



「んーっ。

 空気が、美味おいしい。

 それに、このアイスも。

 田舎も、捨てたもんじゃないね。

 流石さすが、満足度2位。

 スマートだね。

 正に、この私が堪能する為に生まれ、存在しているような美食だね」

「(コクッ、コクッ)」

「いや、ツッコんでよ。

 恥ずかしいじゃん。

 スマートじゃない」



 訂正。

 一人ではなかった。

 しっかり者の妹、月星つくしが、保護者として同行してくれていた。

 といっても、というのも、奇っ怪だが。



「あの……。

 こ、月星つくし、ちゃん……。

 ……ありが、とう」

いよ、別に。

 私も個人的に、興味がったし。

 姉さんの言う『先生』が、どんな人なのか。

 やっぱり、『百聞は一見にかず』だよね。

 ただでさえ、私は日帰りだし。

 長期滞在予定の、姉さんと違って」

「で……でも……」

「そ、れ、に」



 なおも罪悪感に押しつぶされそうな樂羽このは

 その頭を、月星つくしが撫でる。



「『可愛かわいい子には旅をさせよ』。

 っていうけども。

 こんな可愛かわいい姉さんに、一人で遠出なんてさせられないよ。

 次にいつ、こっちに来るのか知らないし。

 おうちが色々とアレで、姉さんも、さぞかし大変だろうけどさ。

 私には、遠慮なんか、しちゃ駄目ダメだよ?

 ちゃんと、なんでも、正直に言うし、頼むんだよ?

 いこと? 姉さん」

「が……頑張るっ……」

「真面目だなぁ。

 そこまで深刻に捉えなくても平気だよ。

 でも、ありがと。

 嫌いじゃないよ。

 姉さんの、そういう所」



 樂羽このはの鼻に付着したクリームを取り、ペロッと舐める月星つくし



 ほんの数ヶ月だが一応、年上ではある手前。

 樂羽このはは、面目丸潰れで、居た堪れなくなった。

 そんな彼女を見て、月星つくしは笑った。



 食べ終わった頃。

 二人の前に、一台のバイクが止まった。



 メット・オフし現れたのは、同い年くらいのハンサム。

 彼は、バイクから降り、ゆっくり二人に歩み寄る。



「初めまして。

 俺は、市城いちじょう 灯頼ひより

 君達が、日明たちもりさんたち

 俺、日明たちもりさんのお父さん、シュウにぃとは、家が近所で、昔馴染みなんだ」

「……被った……」

なにが?」

「な、なんでもないっ!

 ……です」



 月星つくしの独り言に切り込むも、躱される灯頼ひより

 そのまま肩身を狭くする月星つくし

 気にはなったが、言われた通り、灯頼ひよりは話を戻す。


 

「今日は、シュウにぃに頼まれて、迎えに来たんだ。

 ほら……タカにぃの家、山奥だし。

 女子高生が歩きってんじゃ、厳しいだろうから」

「へぇ。

 今時、めずらしいスマートさんですね。

 恩に着ます」

「……」

「ん?

 なにか言いたそうですね?」

「いや、ごめん。

 なんか、思ってたより話しやすそうだなって。

 もっと、こう……取っ付きにくいかな、って」

「ありがとございます。

 く言われます」

本当ホント、ごめん。

 で、も一つ、ごめん。

 乗せて行きたいのも山々だけど。

 見ての通り、二人乗りなんだ。

 で、察しの通り、俺は運転しなきゃだから。

 最初に連れて行けるのは、一人だけで」

「そうですね。

 だったら、姉さんをず案内してください。

 見るからに料理したそうに、ウズウズしてるので。

 私は、平気です」

「つ、月星つくしちゃん……」



 申し訳さそうにする樂羽このは

 そんな彼女に月星つくしは、いつも通り機械的に、かすかに微笑ほほえむ。



「丁度、もう少し散策、散財したい所だったんだ。

 なんせ、最初で最後の旅行かもだし。

 それに、飽きたら、自力で登ってくよ。

 その方が、スマートにもつながるし」

「……悪い。

 助かるよ、日明たちもりさん」

「『月星つくし』でいです。

 同じ名字が二人もたんじゃ、紛らわしいので」

「分かった。

 じゃあ、月星つくしさん。

 かならず、迎えに来るから」

「いっ……今の、いっ!!

 具体的には、『セカイ系のラスト』っぽいっ!!

 ボク、そういうの、好きぃっ!!」

「……月星つくしさん?」

なんでもないです、ごめんなさい。

 ただの持病です。

 どうか、お気になさらず」

「あ、ああ。

 分かった。

 それじゃあ、日明たちもりさん。

 いきなりで、ごめんだけど、いかな?」

「(コクッ、コクッ)」



 灯頼ひよりの確認に、うなず樂羽このは

 彼に渡された2つ目のヘルメットを受け取り、装着し。

 早速、樂羽このはもバイクに乗る。

 


 ……手をバイクに置いて。



「それじゃ駄目ダメだよ、姉さん。

 姉さんが落ちちゃう。

 ほら。もっと、市城いちじょうさんの腰に手を回さなきゃ。

 こうだよ、こう」



 樂羽このはの手をつかみ、リードする月星つくし

 突然の密着に、ドギマギする樂羽このは

 空かさず、月星つくしが耳元で補足する。



こと? 姉さん。

 男と女が、相乗りしようってんだよ?

 これはれっきとした、『デート』だよ」

「デッ……!?」

「そうです。

 大方おおかた叔父様おじさまも、そういう狙いなんだよ。

 じゃなきゃ、私達がセットで行くのを知った上で、市城いちじょうさんを単車で派遣するのは不自然だもの。

 全然、スマートじゃない。

 あの人、姉さんの彼氏作りにご執心だもんね。

 今日だって、姉さんと先生を、あわよくば引っ付けようとしてたもん。

 自分の結婚式そっちのけ、本末転倒で。

 この前、この……この私のお母さんに怒られてたし。

 っても、市城いちじょうさんは、そこまで考えてなさそうだけど。

 なんか、明らかに天然ジゴロってか、ポワッとしてるから。

 私も、同意見だよ。

 折角せっかくだし、市城いちじょうさんとイチャラブって来なさい。

 適当に合わせるから、オトすかオトされるかなさい。

 こと

 これは、妹からの命令です。

 ただし、振り落とされないようにね」

「〜っ!!」



 まただ。

 いつもの、『ラブコメ脳』が、発動してしまった。

 まだ出会ったばかりで、市城いちじょうくんのことなにも知らないのに。



 しかし、そうする他いのも事実。

 ここは大人おとなしく、義父と従姉妹いとこてのひらで転がされるとしよう。

 ただし、転げ落ちないようにだけ、けよう。



 そう覚悟を決め。

 樂羽このはは、灯頼ひよりと密着した。



「準備は、い?

 日明たちもりさん」



 話せない代わりに、灯頼ひよりの腰を軽く叩き、サインを送り。

 この方が、なにやら意味深なこと気付きづき、真っ赤になる樂羽このは



 ベンチに座り、クールにヒラヒラと手を振る月星つくしを残し。

 二人は一路、山の上に位置する世城せぎ邸を目指す。



「ふーっ……」



 二人をスマートな笑顔で見送ってから。

 月星つくしは、アイスを落とさないように気を付けながら、頬杖をついた。



「お疲れさま

 大健闘だったわね、月星つくし



 不意に、後ろから掛けられる声。

 それは、今までに一度、電話越しでだけ耳にしていた、同士から発せられた物。



 月星つくしは、ベンチに座りつつ、腰を回す。

 そこに立っていたのは、思った通り。

 出来できた、知り合ったばかりの女性。



「……仲音なこと

 たんだ」

「あら?

 悪いかしら?」

「……別に」



 明らかにブスッとして、前へと態勢を戻す月星つくし

 仲音なことは、許可も得ぬまま、空いているスペースに荷物を置き、彼女の横に座る。



「捨てられかけ女と、恋捨て女。

 お互い、難儀ねぇ」

「……一緒にしないで。

 私のは、恋愛そういうんじゃない」

恋愛にそうなる前に、捨てたからでしょ」

うるさい。

 ちゃんと、ノーマルだし。

 樂羽このはは、ただの最推し。

 ガチもリアもリハもい。

 てか、そっちは、まだ増しマシじゃん。

 愛しの先生は、仲音なことを見捨てたりしないでしょ」

「どうかしらねぇ。

 ひょっとしたら、樂羽このはとゴールするかもしれないわねぇ。

 まぁ、そしたらあたしが、そのルートを阻むまでだけど」

「……どこが、なんだか。

 向こうが、『人生をかけてる』ってことでしょ」

「それも平気よ。

 きちんと、算段はつけてるわ」

あたしの姉、幼馴染を利用するのを必要条件で、ね」

「人聞き悪いわねぇ。

 メリットなら、あなたや彼女にだってるわ」

「隠蔽、誘導しつつ。

 くもまぁ、いけしゃあしゃあと」

「……長くなりそうね。

 場所、替えましょうか?」

「賛成。

 この辺に、カラオケる?」

「案内するわ」



 早々にバチバチする二人。

 


 数分後。

 二人の女性は、カラオケにて、熾烈な口喧嘩を開始するのだった。

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