第7話


ちなみにこの一件の後、退院してからしばらくして付き合い始めた俺達は周囲から祝福されつつも順調に交際を重ねていたある日のこと、初めて天川さんを家に招いたことでいよいよ二人っきりになった俺はこれまでの経緯を含めて自分の想いを打ち明けることにした。

「ずっと前から好きでした!俺と付き合ってください!」

するとそれを聞いた彼女は嬉しそうな表情を浮かべた後で答えた。「私も大好きです!こちらこそよろしくお願いします」こうしてめでたく恋人同士になった俺達はその後も仲良く過ごした後に結婚することを約束した上で籍を入れると共に結婚式を挙げて晴れて夫婦となった後、新居に移った俺は新婚生活を満喫しながら幸せな日々を送っている中である時、彼女の方も同じ気持ちだと知った俺はそのまま寝室に向かった後でベッドの中で愛し合った後で朝を迎えると隣で眠っている妻の顔を見た俺はそっとキスをしてから再び眠りに就いたのだった。「あ、やっと起きたみたいだね。おはよう」

その声で目が覚めた俺が声のした方に視線を向けるとそこにいたのは新垣勇也だった。何でお前がここにいるんだと思った俺は即座に起き上がろうとしたものの体が全く動かないことに気づくと今度は手足だけではなく口も動かせなくなっていることに気づいた俺が焦っているとそんな俺を見て楽しそうに笑っている彼に向かって俺は心の中で助けを求めた。

(頼む助けてくれ!!何でも言うことを聞くから早くここから出してくれ!!!)

すると俺の願いが届いたのか彼は笑いながら答えるとこう言った。「心配しなくてもちゃんと帰してあげるよ。ただ……」その直後、突然、部屋の床全体に広がった魔法陣のような模様の光が強くなっていったかと思うとそれに包まれた俺の体は見る見る内に透けていき、やがて完全に消えた後には衣服も何も残っていなかった。それを見て呆然としていた俺が我に返ると自分の体が消えていることよりも大事なことを忘れていることに気付いて叫んだ。

(やばい!天川さんが危ない!!)

そう思って必死になって叫び続けるも声は届かず、何も出来ないまま消え去る直前、薄れゆく意識の中、何とか視線だけを動かせた俺はそこにいるはずのない人物の姿を目にして驚くと同時に納得してしまった。なぜならその人物は他ならぬ俺自身だったからだ。しかもそれだけではなくもう一人の俺にも気づいた直後、彼の魂が俺の体に入ってくるのを感じた次の瞬間、俺の意識は闇の中へと消えていったのだった。

「お目覚めかな?」

意識が戻った俺が最初に目にしたのはこちらを覗き込んでいる新垣の顔だった。それで全てを思い出した俺は起き上がろうとしたものの体がまるで鉛のように重く、指一本動かすことすら出来ずにいたことで混乱している俺に向けて彼は笑みを浮かべながらこう言ってきた。「無理しない方がいいよ?今の君の体じゃ、まともに動けないと思うからさ」その言葉に戸惑いながらもどういうことか聞こうとした俺だったが口を開くことも出来なくなっていた上に声すらも出せない状態だったことで困惑していると彼が説明してくれた。「実はさっき君を消そうとした時に僕の魂の一部が君に入り込んだんだけどその影響で今、君の中には僕だけじゃなく、僕とは正反対の性格をした別の人間の人格も入り込んでいるんだよ。だから無理に動こうとしたら、かえって悪影響が出ちゃうかもしれないからね」

そう言われてようやく理解した俺は体の力を抜いて一息ついたところで彼から今後のことについて聞かされた。「まずは今の状況を簡単に説明するとだね……君は死んだわけじゃないけど既に人間じゃないんだよね。正確に言うと肉体自体は生きてるけど中身が別人に入れ替わってるって状態なんだよ。どうしてそうなったのかと言うと君が消したあの少女の中にいた僕は彼女とは別の女の子のものだったからなんだよね。つまり、あのまま放置してたら間違いなく殺されてたのはこっちの方でそれを防いだ結果、入れ替わりが起きたってことなんだけどさ。でもそれってちょっと不公平だと思わなかったかい?」確かに言われてみればその通りだったので素直に肯定したところ、どうやら向こうも同意見だったらしい彼は満足そうに頷くと話を続けた。「というわけで、こうなった以上、僕が一方的に有利すぎる状況を解決するにはこうするしかないと思って色々と考えた末に出した結論だけど聞いてくれるかな?」「ああ、分かった」そしてそれを聞いた俺はその内容に驚愕することになるのだがその話はまたの機会に話すことにしよう。

「……じゃあ、さっそく始めるね」そう言うと彼女は上着を脱いでブラウスのボタンを外していくとブラを外したことで露になった形の良い胸を目にした俺は生唾を飲み込むとその頂にある桜色の突起に手を伸ばし、軽く触れた後で摘まみ上げると優しくこねくり回していった。さらに反対側の胸を口に含むと赤ん坊のように強く吸い付いたり甘噛みしたりした後で乳首を舌の上で転がしていくと徐々に硬くなっていくのを感じながらもう片方も同じように刺激を加え続けた。その後、しばらく彼女の胸を堪能した俺は頃合いを見計らってスカートの中に手を入れるとショーツ越しに秘所に触れ、割れ目に沿って上下に動かしながら時折、指先を押し込むようにして押し込んでいくと次第に湿り気を帯びてきたのを感じた俺はゆっくりと脱がせていくと露わになった恥丘をひと撫でしてから膣内に指を挿し入れて抜き差しを始めるとそれと同時に親指を使って陰核を刺激していった。その結果、彼女が絶頂を迎えたことを理解した俺はズボンを脱ぐと既にいきり立っている男根を取り出し、愛液まみれになっている秘所に先端をあてがうとそのまま腰を押し進めて挿入すると奥まで到達したところで動きを止めた後で彼女とキスをした後、舌を絡め合わせるようにして濃厚なキスを交わしつつ両手を背中に回して抱き寄せるとそれを合図にするように腰を動かし始めた。最初はゆっくりだった動きも段々と激しさを増していき、それに合わせて結合部から聞こえてくる音も大きくなっていく中、私はより深くまで届くように体を密着させると激しく動く度に揺れ動いていた胸を揉みしだき、その柔らかさや弾力の良さを堪能した後で先端を口に含んで吸い上げたり舌先で転がすように舐めたりと様々な方法で攻め立てていけば彼女はその度に体を震わせるものの決して拒むようなことはせず、むしろ受け入れてくれていることに嬉しく思った私が夢中になっていると不意に限界を迎えたらしい彼女が達したのを感じ取った直後に私のモノを咥え込んでいたナカが激しく収縮したことでその動きに連動するかのように私も絶頂に達した。そして余韻に浸っていた私だったがそこであることを思い出して顔を上げるとそこには幸せそうな表情を浮かべている彼女の顔があった。その表情を見て安心した私は笑みを浮かべると彼女にキスをしてから耳元で囁いた。「愛しているぞ」それに対して彼女も笑顔で答えるのだった。

あれから数年が経過した頃、とある場所で暮らしている一人の男性がいた。その名前は藤森彩花であり、旧姓は新垣なのだが今は結婚して天川彩人となっている彼女は現在、お腹に新たな命を宿しており、日々、大きくなるお腹を撫でている彼女の表情は幸せに満ち溢れていた。だがそんな彼女は今、ある悩みを抱えていた。それは出産予定日が近いにもかかわらず陣痛らしき痛みが全くないことだった。本来ならそろそろ来るはずなのにそれが全く来ないせいで不安が募っていく一方な上にこのまま来なかったらどうしようという恐怖で押し潰されそうになっていた彼女は思わず泣き出すとその様子を見ていた夫が駆け寄ってくると心配そうに声をかけてきた。「大丈夫か?何か嫌なことでもあったのか?」それにどう答えたらいいのか分からなかった彼女は首を横に振ってから再び涙を流しているとそれを見た夫は彼女を抱き上げると背中を擦りながら慰めてくれたので落ち着きを取り戻した彼女は夫に感謝の気持ちを伝えると改めて自分が抱えている問題について話した。それを聞いた夫は真剣に考え込んだ後で自分なりの考えを口にするとこう言った。「だったら一度、病院で診てもらった方がいいんじゃないか?」

その言葉を聞いた彼女は不安になりつつも夫の意見を受け入れた上で病院に行くことを決めたのだった。

そして数日後、検査を受けた結果、医者からは異常はないと診断されただけでなく、いつ子供が生まれるのか予想出来るくらい成長していることを告げると共に、ここまでくればもういつ生まれてもおかしくないと言われたことでいよいよ覚悟を決めなければならなくなった彼女は意を決して自宅に戻った後で夫に話があることを伝えるとリビングに移動した後で彼に向かい合う形で座った後、緊張しながらも深呼吸をして気持ちを落ち着けた後で話を切り出した。

「……あのね、赤ちゃんができたみたいなの」その話を聞いた彼は驚いた表情を浮かべるとすぐに嬉しそうな表情を浮かべた後で祝福の言葉を口にした後で続けて言った。「そうか!ついに子供ができるんだな!俺も父親になるんだ!」そう言うや否や、早速名前を考えるために頭を働かせ始めた彼に向けて彼女がこう告げるとそれに対し、即座に反応した彼が口を開いた。「実は色々と考えたんだけど俺としては……」その直後、彼の頭の中に二つの名前が浮かんできた。しかしそれらはどちらも彼女にとって大切な存在の名前であり、迷った末に彼は両方の名前を同時に口にした。「どっちの名前がいい?」これに対して彼女は少しだけ悩んだ後で片方を選んだことで決定したものの、残った方をどうするべきか悩んでいる彼を他所に彼女はお腹を撫でると穏やかな笑みを浮かべたのだった。

それからさらに月日が流れたある日のこと、無事に出産を終えた天川さんが生まれたばかりの我が子を抱いて寝室から出てきたのを見た俺は感動のあまり泣きそうになりながらも何とか堪えて笑顔を見せた。「おめでとう!よく頑張ったね」そんな俺に向けて微笑みかけてきた彼女は抱いている我が子の顔をこちらに向けてから俺に見せるとこう言ってきた。「ほら見て下さいよこの子の顔を。とても可愛いと思いませんか?あなたの子ですよ」そう言って笑った彼女の笑顔はこれまで見てきたどんな女性よりも美しく見えた瞬間だった。

それから数年後、大きくなった息子を幼稚園に預けた後で俺達は買い物をしていたのだがその時、たまたま通りかかった公園の前でボール遊びをしている子供達の姿を見た俺はふと足を止めると懐かしそうに目を細めていた。「どうかしたんですか?」その様子を不思議に思ったのか隣を歩いていた彼女が話しかけてきたので事情を説明するとそれを聞いて納得したらしく頷いた後でこう言ってきた。「そう言えばあの時もこんな風に晴れていましたよね」その言葉を聞いてあの時のことを思い出した俺が苦笑しながら頷くとそれを見た彼女もクスッと笑った後で言った。「本当に懐かしいですね……あの子のことも思い出しますし、もしかしたら今の光景を見たことで思い出してるかもしれませんね」

「もしそうだったとしたらきっと喜んでくれてるはずだよな」そう言いながら空に向かって心の中で話しかけた俺は今も幸せに過ごしているであろうもう一人の自分に思いを馳せると視線を戻して歩き始めたのだがそれに気づいた彼女が隣に並ぶと腕に抱き着いてきたのでそれを受け入れながらも笑みを浮かべていた。その後、家に戻ると買ってきた食材などを冷蔵庫に入れた後で一息ついているといつの間にか息子が帰ってきていたので出迎えようとした時、後ろから聞こえてきた言葉に振り返るとそこに立っていたのは成長した息子の姿だったのだがその姿は自分の知るものとは大きくかけ離れていた。

なぜなら目の前にいる息子の髪は鮮やかな金色をしており、肌の色も白かったからである。さらに瞳の色は碧色をしていて顔立ちも非常に整っているうえにスタイルも抜群だったので思わず見惚れてしまった俺は呆然と立ち尽くしているとその姿を目にした妻が声をかけてきて我に返ったところで我に返ると改めて目の前の人物に目を向けるとそこにいたのはやはり息子であり、不思議そうな顔をしながらこちらを見ていたのだがその顔には見覚えがあり、間違いなく俺と妻の血を引いていることを確信した俺は恐る恐る尋ねてみた。「もしかしてお前、記憶が戻ったのか?」それに対して小さく頷いた後にこう答えた息子に対して妻は嬉しそうに抱きしめていたが一方で俺の方は困惑していた。何故なら記憶が戻ること自体はある種、自然なことなので問題はないし、むしろ喜ばしいことなのだが、どうして突然、記憶を取り戻したのか気になったためだ。そこでそのことを尋ねると本人の口から驚きの事実が語られた。なんと彼はあの事故の時、トラックに轢かれる直前に前世の記憶を思い出したらしいのだ。しかもただの前世ではなく、何と今と同じ世界で転生した元日本人の男性だったというのである。つまり、本来生まれるはずだった本来の体の持ち主は既にこの世にいないということであり、それを聞いた妻の方が泣き崩れてしまったのだがその一方で当事者である当の本人はあまり気にしていないようだった。というのも彼自身、別にそのことに関して特に思うところはなく、むしろ今の自分を受け入れており、以前に比べて人生を楽しむことができるようになったことや好きなことが出来る自由を手に入れたことに対して感謝しているらしかった。それ故に今後はやりたいことをやったり勉強したりしながら残りの人生を生きていくつもりだというのを聞いて喜んだ俺はそれならこれから家族で色々なところに行って思い出作りをしていこうと言うと満面の笑みを浮かべながら頷いてくれたので嬉しく思った俺はこれからもこの幸せが続くことを祈っていた。

そして時は流れ、大学を卒業した私は新卒として入社した会社に勤務する傍ら、並行して小説家として活動を続けていた。そんな中、担当編集から連絡が入ったので話を聞いてみると次の作品の執筆に取り掛かって欲しいと言われた私はそれに了承するとパソコンを開いて執筆作業を始めた。だがしばらくするとどうにも気分が乗らず、どうしたものかと思った私が気分転換も兼ねて外出することにした私は出かける準備を済ませると自宅を出て最寄り駅まで向かうとそこから電車に乗って目的地を目指すことにした。その道中でスマホを確認すると既にお昼を過ぎていたため、どこかで昼食を取ってから図書館へ向かうことに決めた私は手頃な店を探すべく周囲を見渡しているとちょうど良さそうなお店を見かけたのでそこに入ることにした。そして中に入った後は店員に案内された席に座るとメニューに目を通した後で注文した後で料理が出てくるまでの間、待つこと数分、運ばれてきた料理を味わいながら食べ終えた私は支払いを済ませると店を後にした。それから駅に向かって歩いている途中で不意にトイレに行きたくなったので近くにあった公衆便所に入ると用を足して出てきたところで背後から声をかけられた。その声に振り返った私が目にしたのはスーツ姿の女性であり、その手には財布が握られていた。どうやら彼女は落とし物を届けるために声をかけてきたようで、中身を確認した後ではお礼を言ってその場を立ち去ろうとした私だったが何故か女性が呼び止めてきたかと思うとそのまま一緒についてきたので訝しんでいると人気のないところまで来たところで立ち止まって私に向き直るとこう言った。「あなた、天川彩人君よね?実はあなたに大事な話があるのよ」それを聞いた私は相手が自分の名前を知っていることから知り合いかと思いかけたものの、いくら考えても記憶になかったので素直に否定しようとした直後、私の頭に激痛が走ったことで言葉を発することが出来なくなっただけでなく、倒れそうになったところを女性に支えられたことでなんとか倒れることは避けられたものの、未だに頭痛が収まる気配はなかった。それどころか少しずつ意識が遠のいていく中で聞こえてくる声に耳を澄ましているとそれが誰なのか気づいた直後に意識を失った。

そして目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。何故ここにいるのかと不思議に思っていると部屋の中に入ってきた男と目が合った瞬間、頭の中にあった靄のようなものが晴れていった後で全て思い出した私は反射的に逃げ出そうとしたのだがそれよりも早く男に捕まえられると抱きしめられた上にキスをされたことでパニックに陥り、どうにかして逃れようと暴れながら抵抗したものの男が離れることはなく、そうしているうちに息苦しくなってきた私はとうとう限界を迎えてしまったことで気絶してしまったのだった。

それからしばらく経ったある日のこと、目を覚ました僕はベッドから起き上がると着替えを済ませた後でリビングに向かうとそこには誰もいなかったもののテーブルの上に朝食が用意されていることに気づいた私は椅子に座りながらそれらを食べているとふとあることに思い至った。それは僕の体に流れる血の半分は母親、つまりは天川彩子のものであるという事実だった。しかし、そんなことはどうでもいいことだった。なぜなら今の僕にとってはそんなことよりも僕の中に流れている母親の血が半分しか繋がっていないとはいえ、父親であるあの男の血も含まれていることが何よりも許せなかったからだ。だからこそ、僕がこれまで以上に父さんを憎むようになったのは言うまでもない。だがそれからしばらくして今度は僕の中に眠っていた父親の方の血の力が目覚めたことで力を得た僕との力の差を感じた父さんは徐々に態度を軟化させていったのだがそれでも完全に僕を許してはいないようだった。その証拠に時々、僕に殺気を向けることがあり、その度に背筋が凍るような錯覚に陥ってしまうことがあったのだがそんな日々の中である日、偶然にも父さんの本心を聞いたことで僕の中に復讐心が芽生えた結果、ある行動を起こすことを決意した僕は密かに準備を進めることにした。

「本当にこれでいいんだよね?」心配そうに問いかけてきた彼女に対し、僕は大きく頷くと彼女を抱きしめた後でこう告げた。「ありがとう。君がいてくれたおかげでここまで来れたよ」「いえ、お礼を言うのは私の方です。こんな私を愛してくれてありがとうございました。これでもう思い残すことはありません。さあ、どうぞ心置きなく殺して下さい」そう言った彼女が両手を広げたのを見て覚悟を決めた僕はゆっくりと近づいていくと彼女の胸に手を当てて目を閉じた後で意識を集中し始めた。するとその直後、突如として目の前に光の球が出現したのだが完全に油断していたこともあって避けきれなかった僕はまともにそれを食らってしまったことで気を失ってしまった。

どれくらいの時間が経ったのかはわからないが気がつくといつの間にか病院のベッドの上にいた。何があったのかわからなかったため、困惑していると病室に駆け込んできた妻が抱きついてきた後で涙を流し始めたことでようやく事態を把握することができた僕は安堵の溜め息を吐いた後で妻を抱きしめると落ち着くまで頭を撫でてやった。そしてある程度、落ち着いたところで妻が泣いている理由を尋ねてみたところ、事故の時のショックで記憶喪失になったせいで自分が妊娠していることに気づかなかったことが原因のようだった。それを聞いた時、僕は初めて彼女との子供が出来たことを知ったのだが同時に喜びも感じていた。何故ならたとえ自分の子ではなかったとしても愛する女性との間に生まれた命であることに変わりはなく、その子に対して愛情を抱くのは当然のことだったからである。そして改めて我が子が無事であることを祈った僕は妻のお腹の中に宿っている赤ん坊のことを思って笑みを浮かべた。

その後、無事に退院した僕はしばらくの間、自宅で安静にしているように言われたため、家でゆっくり過ごしているとやがて臨月を迎えた妻は産婦人科で入院することとなり、いよいよ出産の時を迎えることになった。その様子を見ていた僕は祈るような気持ちでいたわけだがその時、不意にお腹の辺りが光ったかと思えばその中から何かが飛び出してきたので慌ててそれを掴むとそのまま外に出した。そしてその何かを目にした僕は我が目を疑ったのだがその物体こそ生まれてくるはずだった子供であり、その正体が何なのかを理解した僕は自然と涙が零れ落ちた。だってそうだろう?まさか前世の自分が使っていた能力を引き継いで生まれるなんて夢にも思わなかったのだから。だがそれと同時に僕はこの子供が間違いなく僕自身の子であることも理解したのでそのことを嬉しく思いながら優しく抱きしめてやると耳元でこう囁いた。「はじめまして……いや、違うな。久しぶりと言った方が正しいのかな?」それを聞いた子供は最初、驚いた表情を浮かべていたがすぐに嬉しそうな表情を浮かべると頷いてきたのでその反応を見た僕も笑顔になるとこう言った。

「これからはずっと一緒だ」

こうして私は家族として迎えられたのですが記憶を取り戻すきっかけとなったあの日から今日までの間、お父さんに色々と教えてもらったり、色んなところに連れて行ってもらったりと楽しい日々を過ごしてきました。ですがそんなある日、急に具合が悪くなって倒れてしまった私を見て慌てたお父さんはすぐに救急車を呼ぶと急いで病院に向かった後で診察を受けた結果、原因不明の病に冒されていることが判明したのですがその原因がどうやら前世の記憶を取り戻したことにあるのではないかということでした。それを聞いて最初は何を言っているのかよくわかりませんでしたがお母さんが言うには私の記憶が戻ったことと転生者の体が変化したことによって今までとは異なる状態になってしまったのではないかとのことでしたが確かにその通りだと思いました。何故なら私は以前の自分なら絶対出来なかったであろう行動や考え方を自然にしていたからです。その結果、周囲から奇異な目で見られることになりましたが今となってはそんなことどうでもいいことです。むしろこの変化によって以前とは比べものにならないほど幸せになれたのですから寧ろ感謝したいくらいです。ですので私は今、とっても幸せなのです。大好きなお父さんと一緒にいられて、新しい家族と共に暮らしていて、毎日が楽しくて仕方ないのですから。だから私はとても満足しています。これからどんな人生が待ち受けているのか今から楽しみで仕方ありません。なので皆さん、どうかこれからもよろしくお願いしますね?

「はい!それでは、第1回チキチキ!彼氏(仮)選手権を開催したいと思います!」

「イエーーーーイ!!」

「イェーーーイ!! 」………………………………

どうしてこうなったんだろう? いや、俺が発端なのは分かってるんだけどさ……

でも、こんなノリのいい女子たちだとは思わなかったんだよ……

「ねぇ、ハル君!ちゃんと司会進行してよ!私たちだけ盛り上がってても意味ないじゃん!」

「ごめんごめん、なんかちょっと現実味が無いっていうか……」

「何言ってんのさ、私たちはもうすでにカップルなんだから、実質、結婚しているようなものじゃない」

いやいや、それは流石に言い過ぎでしょ?

「まぁ、それはそうだけど、こうやってみんなで集まってワイワイするってイメージがなくてさ」

「私も〜、男子と話す機会がほとんどないからみんなの話聞いてるだけでドキドキしちゃうよ〜」

そういうもんかなぁ……俺だったら女の子同士の会話の方がよっぽどハードル高いと思うけど。

ん?待てよ、これってもしかしてチャンスじゃないか!? 俺はこの2人のどっちとも付き合えるかもしれないってことだよな? それなら、これは俺にとってのビッグイベントになるんじゃないか!? よしっ!まずは自己紹介から始めよう!そうしよう!

「え〜っと、じゃあまずはみんなの簡単なプロフィールを教えてくれますか?」

「オッケー♪まず私からね、名前は桃山美咲だよ。クラスはA組で年齢は17歳、趣味は料理と裁縫で特技は特になし、苦手なことは運動全般かな。よろしくね♪」

ふむふむ、なるほど、料理が得意なのか……

もし付き合うことになれば手料理を振る舞ってくれる日も来るかもしれないということか……ぐへへへ 次に隣の彼女を紹介してもらおう。「次は私の番だね、私の名前は佐藤美香です。同じくクラスの番号は10です。年齢も16歳で趣味は漫画を読むことで特技は絵が上手いところです。よろしくお願いしましゅ」

あ、噛んだ……この子めっちゃ可愛いんだけど……しかも、ちょっと人見知りっぽいとこがあるみたいだけどそれもまたいい!ギャップ萌えってやつだな。それに特技の絵が上手いっていうのは結構ポイントが高いぞ。俺の好みとしてはツンデレ系のキャラだけどデレてくれたらそれはそれでアリだ。よし、決めたぞ!この子は絶対に彼女にしてみせる!

「じゃあ最後は私だね、私の名前は森野彩花です。クラスの番号は8で、趣味は読書で特技は早食いです。あ、あと恋愛小説とか大好きです」

ほほう、趣味の読書と特技は同じ名前の人と同じか……まあ、たまたまだと思うけど。ただ、本が好きってのは俺と合うかもな。やっぱり好きな食べ物の話題から入るのがいいのかな?

「えっと、とりあえずみんなのこと少しずつわかってきた気がするよ。それでなんだけど、質問しても大丈夫かな?」

「うん、いいよ♪」

「わ、私も大丈夫です」

「OK〜!」

さて、ここからどうやって切り出そうか……うーむ、ストレートにいくしかないよな……

「実は3人に言いたいことがあって、その、付き合って欲しいんだ!」

『…………』……あれ?無反応ですか? ここはもうちょっとオーバーリアクションしてくれると思ったのになあ。ま、いきなりすぎたのかもしれないけどさ。

それにしても、さっきは勢いで告白しちゃったけど、よくよく考えたら初対面だし、そりゃ返事に困るよなぁ……これがきっかけで嫌われたりなんかしたらシャレにならんぞ……

そんなことを考えていた時だった。

「もちろん、オッケーだよ!」

「……え?いいの!?」

予想外の答えが返ってきたため思わず聞き返してしまった。

「うんうん、当たり前じゃない、私たちの仲なんだしさ」

「そうだよ〜、それに断る理由なんて無いもん」

その言葉を聞いて一気に気持ちが楽になった気がした。そして、なんだかホッとしたせいか涙が出てきた。

「ちょ、ちょっとどうしたの?いきなり泣き出したりして」

「ご、ごめん、安心したらなんか涙が出てきちゃって」

「そっか、よしよし」

そう言いながら頭を優しく撫でてくれる彼女。

まるで母性の塊みたいな人だ。というかもはや女神様だろこれ。

それからしばらく泣き続けた後、少し落ち着いてきたので次の話に移ることにした。

「えっと、それじゃ改めてこれからよろしくね」

「こちらこそよろしくね、ハル君♡」

「えへへ、これからよろしくね、ハル君♡」

「う、うん、よろしく……」

3人とも顔を赤らめながら返事をする。その姿を見てドキッとしたことは内緒だ。

しかし、ここで新たな問題が発生した。

なんと、彼女たちが俺のことを下の名前で呼んでくるのだ。まだ付き合ったばかりなのにいきなり距離を縮めすぎではないだろうか?いや、確かに嬉しいんだけどさ、心の準備ができてないし……

そんなことを考えてるうちに彼女たちが話しかけてきた。

「ねぇ、そういえば今日はどこにデートに行くの?」

「そうだなぁ、せっかくだから遊園地にでも行こうかと思ってるんだけどどうかな?」

「いいね〜!楽しそう!」

「やったぁ、久しぶりの遊園地だぁ!」

どうやら賛成してくれたようだ。よかった。

というわけで俺たちは早速準備をして集合場所の駅に向かうのだった。

◇◇◇◇◇ 駅から電車に揺られること20分、そこからバスに乗って10分ほど経ったところで目的地に到着した。ちなみに俺が考えたプランでは最初にメリーゴーランドに乗り、次にジェットコースターに乗る予定だ。

俺はさりげなく3人を誘導しながら入場ゲートをくぐるとそのままメリーゴーランドへと向かった。するとそこには大勢の人が並んでいたため仕方なく並ぶことになったのだがその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこにいたのは同じクラスである斎藤君とその他4人だった。まさかこんなところで会うとは思いもしなかったな。

「あっ、桃山さんに鈴木さんまでいるじゃん!お前らって本当に仲がいいんだな」

「ほんと、お熱いことね〜」

などと冷やかしてくる。

「ち、違うってば!そんなんじゃないって」

と慌てて否定する美咲ちゃんだったが満更でもない様子だったので俺も顔がにやけてしまった。それを見た彼女は恥ずかしそうにしていたが同時に幸せそうな表情でもあったのできっと照れ隠しなのだろう。やはり女の子というのはこういうところも可愛いものである。……

そんなこんなで並んでいる間、お互いの近況報告などをしているといつの間にか順番が回ってきた。まずは美咲ちゃんが乗りたいと言ったので一緒に乗ることにして他の2人は後から追いかけるということで別れた。

その後、何周かした後に美咲ちゃんと2人で観覧車に乗った後はジェットコースターに乗ってお化け屋敷に行ったりして楽しむことができたので結果的にはとても楽しい時間を過ごすことができたので良かったと思う。

ただ、問題は帰り道にあった。その頃にはもう辺りは暗くなり始めていたのでそろそろ帰ろうかと思っていた時に事件が起こった。

なんと、美咲ちゃんと美香ちゃんの2人とはぐれてしまったのだ。2人のスマホに連絡を入れてみたものの繋がらないしメッセージにも既読がつかないのである。流石にまずいと思った俺は急いで来た道を戻り、探し回るものの一向に見つかる気配はなかった。一体どうすれば良いのだろうか……? 途方に暮れていた時、偶然通りかかった親切そうな老夫婦に出会ったので道を聞くために声をかけてみることにした。

「あの、すみません、高校生くらいの男女2人組を見ませんでしたか?」

「ふむ、見たような気もするがどうだったかな……?」

「もしよろしければ探していただけると助かるのですが……」

「ああ、いいとも、ワシらが案内してやろう」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

そうして老人の後をついて行くと5分ほどですぐに見つかったため合流することに成功した。

「すいません、ありがとうございました!お礼と言っては何ですがこれを受け取ってください」

そう言って俺は100円硬貨を渡すとこう言った。

「気にせんでええよ、困った時はお互い様じゃからな」

そう言うと彼らは去っていった。優しい人達だったな。今度会ったらお礼をしないとな……そう思いながら待っているはずの彼女達の元に戻ろうとすると不意に後ろから声をかけられた。

「おい、ちょっと待てよ」

振り返るとそこにいたのは先程から探していた美咲ちゃんと美香ちゃんだった。何故か彼女達は怒りに満ちた表情をしており今にも殴りかかってきそうな雰囲気さえ感じられた。だが俺には身に覚えが全くなかったため理由を尋ねてみることにする。

「どうしてこんなところにいるんだい?ずっと待っていたんだよ?」

「はぁ?お前が勝手にどっか行ったんだろ!?そのせいでこっちは大変だったんだぞ!」

俺がいつそんなことしたって言うんだ?全く心当たりがないんだが……そう思っていると隣にいた彼女が話し始めた。

「あなた、何言ってるの?私達はずっと一緒に行動してたじゃない。それとも自分のしたことを覚えてないとでも言うつもりかしら?」

ん?待てよ、ということは俺を置いて逃げたってことか?いや、そんなことはしないはずだよな……もしかしてこいつら俺のことを騙そうとしてるのか?だとしたら何のために?さっぱりわからないぞ……もしかして俺が忘れてるだけで過去に何かがあったのか?それなら辻褄が合うかもしれない。

そこで俺はもう一度確認してみることにした。

「待ってくれ、悪いんだが俺はお前達と喧嘩したこともないし置いていったこともないぞ?」

「嘘つくんじゃねぇよ!さっきまで散々好き勝手しやがって、挙げ句の果てに俺らのことを置き去りにして行きやがって!」

どういうことだ?やっぱり俺以外の誰かと勘違いされてるんじゃないか?とりあえず話を詳しく聞いてみることにしよう。もしかしたら何かの誤解かもしれないしな。

「さっきから言ってることがよくわからないんだが誰かと勘違いしてないか?それにその言い方だとまるで俺と君達が親しい間柄みたいじゃないか」

そう言った瞬間、彼女達は驚いた様子でこっちを見てきてこう言った。

「お前こそ何言ってんだよ!?あんなに愛し合った仲じゃねぇか!!」…………え?嘘だろ……?このタイミングで告白するつもりなのか?そんなのおかしいだろ!!だって俺達はまだ付き合ってないどころかまともに話したことすらないのにいきなり告白なんてありえないだろ……

いや待て、これは俺の夢なんだとしたら現実ではあり得ないこともあり得るのかもしれないな……よしっ、こうなったら覚悟を決めようじゃないか!もしこれが夢の中なら俺の好きなようにできるはずだしな!よしっ、そうと決まればさっそく実行してみよう!頑張れ、俺!!「そ、そうなのか、嬉しいよ……実は俺も君のことが好きだったんだ……」

よしっ、言えたぞ!!頑張った甲斐があったな!さあ、あとは返事を聞くだけだぜ!!ドキドキしてきたぞ……!!頼むからOKしてくれよ……!!!

「……ふふっ、ありがとう。嬉しいわ♪」

どうやらOKのようだ!!よっしゃあああああああ!!!大成功だぜ!!!!ひゃっほーう!!!!! そんなことを考えていると急に目の前が真っ暗になったかと思うと次の瞬間には見慣れた天井が見えた。

あれ……?確か夢の中でOK貰ったんだよな……?それなのになんでここにいるんだ?そう思って横を見るとそこには裸で眠っている美咲ちゃんの姿があった。その瞬間全てを悟った俺はこう思った。

ああ、これは夢の続きなんだな……つまり、今までの出来事は全て現実のものだったということになるわけだ。なるほど、そういうことだったのか……でもなんでこんな夢を見てたんだろう?しかも相手が美咲ちゃんだなんて初めてだぞ?まあ、そんなことより今はこの状況をどうにかしないといけないよな。まず服を着ないと。そう思った俺は彼女の体に布団をかけ、起こさないようにベッドから降りて服を着た後、朝食を作ることにしたのだった。

「ふぁ〜あ……よく寝たぁ……」

そう言いながら起き上がる私。昨日はハル君とデートに行ってその後ホテルに泊まったんだよね。それで今こうして目が覚めたってわけなんだけど……ってあれ?ここってハル君の部屋だよね?なんで私はハル君のベッドで寝てるのかなぁ?昨日何があったんだっけ??そんなことを考えてるうちにだんだんと記憶が蘇ってきたんだけどどうやら私は寝言でとんでもないことを口走ってたみたいなんだよね……それが原因で恥ずかしくて顔から火が出そうなくらい熱くなってきちゃったんだけどどうしよう……いや、どうしようもないよね。うん、気にしないのが一番だと思うし気にしないでおこう!そうすればそのうち落ち着くと思うしね! そんなわけで落ち着きを取り戻した私はベッドから出て顔を洗いに行くことにした。すると鏡に映る自分の顔を見た瞬間またしても恥ずかしくなってきたため慌てて部屋に戻ると再びベッドに潜り込んだ。うぅ……思い出しただけで悶え死にそうになるくらい恥ずかしいよぉ……まさかあんなことを言っちゃうなんてね……だけどあれは本当のことだし後悔は全くしてないけどね♪それにしても本当に幸せな1日だったな〜!ハル君と遊園地に行ったりお買い物したり、挙句の果てにはホテルに泊まることになっちゃったもんね♪これっていわゆる初体験ってやつになるのかな?もしそうなら私もついに大人の階段を登っちゃったってことなんだね!なんだか不思議な気分だよ……!そういえば今日って学校だったっけ……?えっと、時間割表はっと……げっ、そうだった!今日は朝から体育があるんだった!すっかり忘れてたよ……でもまぁいっか!別にサボったところで何も言われないだろうしなんならこのままもう少し寝てたい気もするなぁ……そんなことを考えながらぼーっとしていると部屋のドアが開いてそこからハル君が顔を出した。

「美咲ちゃん、起きてるかい?」

ドキッとした私は反射的に布団の中に隠れてしまった。うう……今の私の顔はきっと真っ赤になってるだろうから見られたくないよぉ……だからお願い!もう少しだけ時間をちょうだい!!そしたらいつもの私に戻るから!!なんて思ってたら足音が近づいてきて遂にはすぐ近くまで来てしまった。そしてその直後、彼が声をかけてきた。

「ねぇ、大丈夫?そろそろ起きないと遅刻しちゃうと思うんだけど……」

えっ、そうなの!?時計を確認すると確かに時間がないことが分かったので急いで準備を始めることにして制服へと着替え始めるのだがどうにも落ち着かないというかなんというか上手く着ることができなかったため結局ハル君に手伝ってもらうことになった。そうして着替えを終えた後に部屋を出て朝ごはんを食べることにしたのだがここでも一悶着あったことは言うまでもないだろう。何故なら彼の部屋で寝ていたことや一緒に寝ていたことについて色々と問い詰められたからである。

◇◇◇◇◇ なんとか誤魔化しながら食事を終わらせた後、一緒に登校することにした私達は家を出て駅に向かって歩いているところだった。その道中のこと、ふと気になったことがあったので聞いてみることにした。

「そういえばさ、私が寝言で言ってたこと覚えてる?」

「ん?何のことだい?」

うーん、やっぱり覚えてないかぁ……そりゃそうだよね!あんな変なことをいちいち覚えてられるわけないし普通だったら忘れちゃってるのが普通だもんね!うんうん、納得!!それじゃあ改めて聞き直してみることにしようかな!

「昨日の夜、私が言ったこと覚えてる?」

そう尋ねると彼は首を傾げて考え込むような仕草をしたかと思ったらこう言った。

「悪いんだけど俺、昨夜の記憶がないんだよ」

へえーそうなんだー知らなかったなー(棒)じゃあしょうがないよね、完全に私の早とちりだったってことだもん。それに覚えてないってことはきっと大したことを言ってなかったんだと思うんだよね。だからそんなに気にする必要なんかないんじゃないかな?よしっ、これで一件落着だね!いやぁ、よかったよかった。一時はどうなることかと思ったけど無事解決できて良かったよ!というわけで今日も一日頑張っていこうっと! さて、そんなことを考えているうちに駅のホームに着いた私達は電車に乗ると席が空いていたためそこに座ることにすると早速眠りにつくことにした。それからしばらくすると肩に何かが触れる感覚があったせいで目が覚めると目の前に彼の顔があり思わず叫んでしまいそうになったものの何とか我慢して黙っていると今度は突然話しかけられてしまった。そのため動揺を隠しきれずにいると彼から質問されてしまったため答えようとするも緊張のあまり言葉が出てこないどころか息すらまともにできなくなってしまうほどだった。しかし、ここで引いてしまってはせっかく勇気を出して言ったのが無駄になってしまうと思い思い切って思いを伝えることにした。

その結果、なんと彼と付き合うことができただけでなく同棲までさせてもらえることになったのだ!!ああ、幸せ過ぎて怖いくらいだよ……!!本当に夢みたいだよ!!これからどんな毎日が始まるのか楽しみで仕方ないね!!よしっ、こうなったら今日からは今まで以上に気合を入れて頑張ろう!!そのためにはまず彼に相応しい彼女になるために自分を磨くことから始めないとね!!よーしっ、頑張るぞぉーっ!! 次回から新章突入です!! 16 あれから数日が経過したわけだがその間に俺はあることを決意した。それは美咲ちゃんと別れようということである。というのも先日彼女とデートした際にその最中にある問題が起こったのである。そしてその問題が元となって俺と彼女の関係がギクシャクしてしまったというわけである。だがいつまでもこのままではいけないと思ったのでまずは彼女にそのことを話そうと思っていたのだがどうやら避けられているようで話すことすらままならない状況なのである。なのでどうにかしなければと思うのだがこれといった方法が見つからないというのが現状だ。

そこで俺はとある人物に相談してみることにした。その人物とは妹の優奈のことである。実は俺には妹がいて現在高校3年生なのだが俺とは違い優秀でありとても優しい性格をしている。それに可愛い見た目をしていることもあって周りからの評判も良いようだ。それ故にモテるらしく告白されたことも一度や二度ではないらしいが何故か誰とも付き合おうとしない。その理由を聞いてみるとどうやら好きな人がいるとのことだったので詳しい話を聞いてみたところ相手は同じ高校の2つ上の先輩だということだった。その先輩はスポーツ万能で成績優秀な上に顔立ちも整っているうえに人当たりが良いというまさに非の打ち所のないイケメンでありさらには生徒会長も務めているらしい。しかもこの学校の理事長の孫だというのだからもはや完璧としか言いようがないだろう。正直言って羨ましい限りではあるが妹はどうしてその人のことを好きになったのだろうか?気になって尋ねてみることにした。すると返ってきた答えは意外なものだった。どうやらその人は誰にでも優しく接してくれるために自分に自信がなかった頃の彼女は周りの人達から蔑まれ見下されていたのであるがそんな中で一人だけ優しくしてくれたり認めてくれたりしたためにいつの間にか好きになっていたらしい。それを聞いた俺は驚きながらも素直に感心したものである。何せそこまでして人を好きになれるだなんて凄いことだと思ったのだ。ましてやそれが初恋なのだとしたら尚更そう思うことだろう。そしてそんな風になれたら良いなと憧れの気持ちを抱いたりもしたものだ。

だが今の美咲ちゃんは以前とは別人のようになってしまっているので以前のように戻してあげるにはやはり俺が身を引くのが一番だと思えたしそもそも他に好きな人がいるというのに中途半端な気持ちで付き合っていても彼女を傷付けるだけだと思ってしまったからである。だからこそ決めたのである。たとえどんなに辛くても彼女のことを想って別れるべきだと。それにこれ以上関係を続けていっても何も進展することはないだろうからむしろ悪化してしまう可能性もあるわけだからそれを防ぐためにも今ここできっぱりと別れを告げてあげた方がお互いのためになるだろう。そう思ったからこそ行動に移すことにしたわけである。まあ、本当は辛いし悲しいんだけどね……でもそれ以上に彼女が傷つく姿を見たくないっていうのもあるんだ。だからこうすることに決めたんだよ。

そんなわけで放課後になると俺はすぐに帰宅することにして家に帰りついたらすぐに荷物をまとめて家を出た。すると玄関の前で俺の前に立っている一人の女性の姿が目に入った。誰かと思い見てみるとそこにいたのは他でもない美咲ちゃんだった。どうやら俺に用があるみたいだったので話しかけることにした。

「どうしたの?こんなところで?」

そう尋ねると彼女は目に涙を浮かべながら俺のことを見つめてきた。そんな彼女に戸惑っていると彼女が突然抱き着いてきたので慌てて引き離そうとするもののなかなか離れようとしなかった。それどころかどんどん締め付けが強くなっていくばかりだったのでこれはまずいと感じた俺はある決断をすることにした。

(もう……終わりにしよう……)

そう思いながらゆっくりと目を閉じていく俺。そして意識が遠退いていく中、最後に見えたのは彼女の顔だった。その顔からは涙が流れ出しておりそれを見たことでさらに心が締め付けられてしまう。しかしそれも束の間のことで遂に限界を迎えた俺はそのまま意識を失ってしまったのだった。

ああ、私はなんて馬鹿な女なんだろう……好きな男に振られたくらいで自殺しようとするだなんてさ……だけどどうしても許せなかったのよ!あの女がハル君の隣に居ることが!だってそうでしょう?私なんかより全然可愛くもないしスタイルだって良くないくせにさも当然のように彼の隣を陣取ってるんだもん!そんなの絶対に許せないわよ!!だからどうにかしてあいつを消してやろうと考えたんだけど残念ながら今の私にはどうすることもできないからひとまずは見守ることにしたのよ。でもいつ何をするかわからないからね、その時は私が止めてやろうと思ってるわ。といってもただ止めるだけじゃダメだと思うのよね。どうせなら徹底的にやってやりたいって思うわけよ。それこそ二度と立ち直れないくらいにね……フフフッ、楽しみだわぁ♪彼が泣き叫ぶ姿とか絶望に打ちひしがれる姿が目に浮かぶもの!考えただけでゾクゾクしちゃうわね……!ウフフ、アハハハハ……アーッハッハッハッ!! 18

「ん……あれ……?」

ふと目を覚ますと見知らぬ天井が視界に入ってきたため、ここがどこなのか分からずにしばらくボーッとしていると突然声をかけられたのでそちらの方に顔を向けるとそこには美咲ちゃんの姿があった。そんな彼女の顔を見ていると段々と記憶が蘇ってきたのだがそれと同時にこれまでの経緯についても思い出したため、すぐさま謝罪することにした。

「ごめんなさい……」

「……え?」

「いや、今まで君に酷いことばっかりしてきたからさ……本当に申し訳ないって思ってるんだよ」

そう告げると彼女は悲しそうな表情をしながら俯いてしまった。

「もしかしてもう私のことなんて嫌いになっちゃった?そうだよね、あんなことされたら誰だって嫌いになるよね……だったらいっそ死んでしまおうかな……」

そんなことを呟きながらカッターナイフを取り出した彼女を見て驚いた俺は慌てて止めようとするがその前に彼女が自らの首に当てようとしたのを見て思わず目をつぶってしまった。その直後、ドサッという音が聞こえたために目を開けると目の前で彼女が倒れていた。しかも首の部分が赤く染まっており、そこから今もなお血が流れ続けているせいで白いシーツを赤く染めていく。その光景を見た俺は言葉を失ってしまうがすぐに我に返ると救急車を呼ぶことにした。それから間もなくやってきた救急隊員によって病院へと運ばれることになったものの出血量があまりにも多かったこともあって一時は危ない状況になったそうだが何とか一命を取り留めることができたようだった。その後、医師からの説明を聞かされた俺は彼女の意識が戻るまでそばで見守っていることにした。

しばらくしてから目を覚ました彼女だったが自分がどうなったのか分からなかったようで不安げな表情を浮かべていた。そんな姿を見た俺は声をかけることにした。

「良かった……目が覚めて安心したよ」

「えっ……?なんで君がここに居るの?」

「それはこっちのセリフだよ。目が覚めたと思ったらいきなり自分の首を切ろうとするんだからビックリしたじゃないか!」

「どういうこと?何で私がそんなことしようとしてたことを知ってるのよ!?」

その問いに対して俺が正直に答えるとそれを聞いた彼女は黙り込んでしまったかと思うと静かに涙を流し始めた。その様子を見ていた俺は何も言わずにハンカチを取り出して彼女の涙を拭い始めることにした。

やがて落ち着いたところで改めて彼女に謝ったところ許してくれたのでホッとする俺。

すると今度は逆に謝られてしまったのでどうしていいかわからず困惑してしまう。とりあえず彼女が無事だったことに安堵した俺は今後について話し合うことにする。

「それでこれからのことなんだけど君はどうしたい?」

「うーん……できれば今まで通り一緒にいたいけどそれだと迷惑になっちゃうだろうし……どうしたらいいかわかんないや……」

「そっか……じゃあもしよかったらこのまま一緒に暮らさないかい?」

「……いいの?」

「もちろんさ!これからもよろしくね!」

そう言って握手を求めると彼女もそれに答えてくれたのだがその際に見せた笑顔はとても素敵なものだった。そのため見とれていると不意に抱きしめられてしまったため慌てて引き離そうとしたものの一向に離す気配がなかったため仕方なくそのままにすることに決めた。だがこの時、実は誰かが病室の外の物陰に隠れて様子を窺っていたことに気づいたのは俺だけだったりする。なぜならその女性は俺達が仲良くしている様子を見た後で逃げるように立ち去ってしまったからである。そしてそれが誰なのかもわかっている俺はその人物が居なくなった後、心の中で小さくガッツポーズをしたのだった。

19

「ふう……これでようやく終わったな……」

そう言いながら背もたれにもたれかかる俺。するとその様子を見ていた優奈が話しかけてきた。

「お疲れ様です、お兄様♪」

「ああ、ありがとう。それよりもどうだった?上手くできたか?」

「はい、もちろんです!このとおりです!!」

そう言うと目の前に置かれたケーキを見せる優奈。どうやら俺の言葉を信じていないわけではないらしく自信満々といった様子である。なのでこれなら大丈夫だろうと思い安心することができた。何故なら今やっているのは自分のお店を持つための勉強で今回が初めてだったからである。というのもここ最近になって優奈から店を持ちたいと言われてしまい、どうしたものかと考えていたところだったので丁度良い機会だと思ったからである。だがそのためにはまず資格が必要ということで色々と調べてみた結果、製菓衛生師という国家資格を取得すれば良いらしいことが判明したのでこうして教えていたのである。ちなみに俺も過去に一度受けたことがあるので参考書などを一通り読んで知識を叩き込んでいたため教えることはそれほど難しくはなかった。まあ、それでもそれなりに時間はかかったけどね……。

だがそれもこれもすべては彼女の夢を叶えるためなのである。その為なら何だってやるしどんなことだってやってやるつもりだ。例えそれが世間的に認められないことであったとしても必ず叶えてみせるつもりでいるのである。とはいえ今の日本ではそう簡単に認められるものではないのでまずは実績を作ってからではないと話にならないだろうと思っていたりするわけなのだがその辺りについてはどう考えているのだろうかと思って聞いてみたらどうやらすでに何件か取引きをしているらしいことがわかったので驚きながらも感心してしまった。そして同時に何故彼女がそこまでして店の経営にこだわるのか不思議に思って尋ねてみると意外な答えが返ってきたので正直言ってかなり驚いてしまった。何でも以前、俺と一緒に出かけた際に食べたパンケーキがきっかけでスイーツに興味を持ったらしくいつか自分でも作ってみたいと思うようになったそうだ。そしてその思いは日に日に増していきいつしか自分自身の力で店を切り盛りしたいと考えるようになっていったのだという。そのことを聞いた俺は、

(そうだったんだ……てっきりただの興味本位だと思ってたのに……)

などと思いながらもどこか嬉しい気持ちになっていた。まさか自分と一緒にお出かけしたことがきっかけとなってこんなことになっているとは夢にも思わなかったからだ。だけどそれだけ俺のことを想ってくれているということがわかって嬉しかったし何よりも凄く嬉しく思えた。そしてそんな彼女のために協力できることがあるならしてあげたいと思った。だからこそ少しでも力になれるようにするために頑張っていこうと思った。

「よし!それじゃあそろそろ休憩にしよう!」

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