第6話


その声色からは感情が読み取れない。まるで機械音声のように淡々と言葉を紡いでいく彼女を見て何故だか嫌な予感がした。

「──私、先輩のことが大好きです」……えっ!?今、何て言ったんだ……?聞き間違いでなければ私のことが好きだと言っていたような……いや、あり得ないな。きっと何かの間違いだ。だって俺とこの子には何の接点もないのだから……でも本当にただの勘違いだったらどうすればいいのだろうか?そうだ、こんな時こそあれを使えばいいんだ!そうすればきっと間違いないことが分かるはず……うん、そうに違いない!という訳でさっそく試してみようと思う。それでは早速実行してみるとしようか──『解析』発動!! ******「ふぅ、良かった……」

自分の思い違いだったことに安堵して一息つく。だがまだ気を抜く訳にはいかない。何故なら問題は解決していないからだ。むしろここからが本番と言っても過言ではないだろう。なぜなら俺が彼女を振ったことになっているからだ。まぁ確かにあの場面ではそういう対応をした方が正解だったのかもしれないけどな……と思い返しているとあることに気付く。それは何故か彼女に見覚えがあるということだ。それもつい最近どこかで会ったような気がするのだ。一体どこで会ったんだっけ……?う~ん、思い出せない……仕方ない、また今度誰かに聞いてみることにしよう。それより今は目の前の問題を解決することが先決だからな。さて、どうしたものかと考えていると不意に袖を掴まれた。そちらを見ると上目遣いでこちらを見つめる少女が目に入る。その瞬間、頭の中で“パチン”と音がした気がした。それと同時に頭の中にかかっていた靄のようなものが晴れていく感覚を覚えた後、一気に記憶が甦ってきた。そして全てを思い出したところで口を開く。「ああ、思い出したよ。君は確か──」そこで一旦言葉を切ると今度はしっかりと彼女の目を見つめてこう告げた。「──以前、公園で泣いていた子じゃないか」

そう、この子は以前にも会ったことがあるのだ。その時の様子から察するにおそらく何か悲しいことがあったのだろう。その証拠にその時のことを思い出すだけで今でも泣いてしまいそうになるくらいだ。それは今も変わらないようで今にも泣きそうな表情をしている。それを見た俺は無意識に手が伸びていた。気付けばそっと頭を撫でていたのだが、彼女は嫌がることなく受け入れてくれたようだった。そのことにホッとしながら続けてこう告げる。

「大丈夫だよ。もう君を悲しませるものは何もないからさ」

そう言うと安心したのかゆっくりと目を閉じたかと思うとそのまま眠ってしまったのだった。******それからしばらくの間、起きるまで撫で続けたあと優しく揺り起こすと彼女を起こしてあげた。するとまだ寝ぼけているのかボーッとしたまま動こうとしない。その様子を見てクスッと笑うと小さく呟いた。

「──やっぱりまだまだ子供だなぁ……」

どうやら相当深く眠っているらしい……と思った矢先、ハッと目を覚ますと顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯いた後でこう言った。

「あ、あの……先輩っ!ご迷惑をおかけしてすみませんでした!!」

そう言って深々と頭を下げてくる。そんな姿に苦笑しつつ気にしていないことを伝えると彼女は心底ホッとした表情を浮かべた後にもう一度お礼を言ってきた後、そそくさとその場を後にしたのだった。その後、教室に戻ってくると何やらクラスの皆がザワついていたので何があったのか尋ねてみることにする。すると一人の女子が興奮した様子で駆け寄ってきた。そしてその勢いのままとんでもないことを言い出したのである。その内容はなんと先程の女の子が俺に告白したというものだったのだ。それを聞いた瞬間、一瞬耳を疑ったが何度聞いても答えは同じだった。そして改めて考えてみるとあの時の彼女の様子はどこかおかしかった気がする。いつもの元気がなくてしおらしかったというか何と言うか……とにかくそんな感じだったのだ。だから恐らく誰かと間違えているのだろうと思い本人に確認したところあっさりと白状したのですぐに誤解を解くことが出来たのだった。

「そ、そうだったんですか……あの、ごめんなさい!」

そう言って頭を下げる少女を見ながら疑問を口にする。「それにしても何でそんなことをしたんだ?」

すると少女は頭を上げずにこう答えた。「実は……先輩に一目惚れしてしまったんです」……え、何だって?思わず聞き返してしまう俺だったがどうやら冗談ではないらしい。その証拠に顔を上げると真剣な眼差しを向けてきた彼女が言葉を続ける。

「先輩は覚えていらっしゃらないかもしれませんが私は一度、先輩とお会いしたことがあるんですよ」

そう言われて記憶を探ってみたがやはり心当たりはない。だけどどうしてだろう……彼女の顔を見ていると懐かしい気分になってくるのは……。そんな風に考えているといきなり手を握ってくる少女。その行為に驚きつつも決して嫌ではなかった。むしろ温かくて安心するような気がしてずっと握っていたいと思ってしまうほどだ。これは一体何なのだろうか?この不思議な気持ちは一体……そう思っていると突然彼女はこんなことを言い始めた。

「あっ、そろそろ昼休みが終わりますね!名残惜しいですがこれで失礼しますね!ではまた明日、ここで待ってますから!」

そう告げると手を振りながら去っていく少女を見つめながら俺は思った──あの子の笑顔はこんなにも素敵だったのか……と。そして同時に確信する。今の彼女は初めて会った時とは違うのだと……その理由までは分からないがとにかく何かが違っているような気がした。

******「……ふぅ、やっと終わったか」

授業が終わると同時に伸びをする。するとそれを見た友人の一人が声を掛けてきた。

「お疲れさん、これからどうするんだ?」

「うーん、特に予定もないし帰るかな」

「そっか、じゃあ一緒に帰ろうぜ」

そうして帰宅の準備を済ませると二人揃って教室を後にする。そして校門を出ると途中で別れてから一人になったところで不意に声を掛けられた。

「あの、すみません!」

声のした方を向くとそこには先程出会った例の少女が立っていた。その表情を見る限りただ事ではなさそうだがどうしたのだろうか?少し考えた後、返事をすることにした。

「どうかしたの?」

すると彼女は申し訳なさそうな顔をしながらこんなことを言ってきた。

「その、一つお願いしたいことがあるんですけどいいですか?」「ああ、構わないけど何をすればいいんだ?」

すると少女は少しだけ悩んだ素振りを見せた後でこう言った。

「私を先輩の家まで連れて行ってほしいんです」

その言葉に再び困惑することになった俺だがとりあえず詳しい話を聞くために近くの喫茶店へと向かったのだった。席に着くと早速話を切り出したのだが彼女はすぐに答えてくれなかった。それどころか中々口を開こうとすらしないのだ。なのでこちらから聞いてみようとしたその時、ようやく覚悟を決めたのかポツリポツリと話し始めた。

「私、家がないんです……」

そう語る彼女の表情はどこか辛そうで見ているこちらまで胸が痛くなってしまうほどだった。だからだろうか……気付いた時にはこんなことを言っていた。

「──なら俺の家に来ればいい」「えっ!?いいんですか!?」

途端に目を輝かせる少女に苦笑しながらも頷き返すと嬉しそうにしている彼女と雑談を交わしつつ今後のことについて話し合うことになった。その結果、ひとまず今日はどこかに泊まることにして明日になったら必要なものを揃えることになったのだ。こうして話はまとまったので伝票を持ってレジへと向かうと会計を済ませて店を出た後は彼女を自宅へと案内することにした。

「そういえばまだ自己紹介をしてなかったな。俺は──」「はい!知ってますよ!先輩の名前は佐藤亮介、高校二年生で身長は170cm、体重58kg、血液型はA型、誕生日は4月30日、趣味はゲーム全般で好きな食べ物はカレーライス、嫌いな食べ物は特になし、家族構成は両親の他に姉が一人いて三人暮らし、現在は一人暮らしをしていて通っている学校は○○高等学校で部活には所属しておらずアルバイトとして近所の洋菓子店で働いているということくらいですかね!」

あまりにもスラスラと述べられたため若干引いてしまったものの気を取り直して別の話題を振ることにする。「そう言えば君の名前を聞いていなかったよね?良かったら教えてくれないかな?」

すると少女は一瞬だけ驚いた表情を見せた後で満面の笑みを浮かべてこう言った。「──私の名前は天川結愛です!気軽に下の名前で呼んでくださいね!」******それからしばらく歩いたところで我が家に到着した俺たちは門を潜って玄関を開けると中に入ろうとしたのだがその前に大事なことを聞き忘れていたことに気付いた。

「あ、そうだ。言い忘れてたんだけど今この家には俺ともう一人住んでいる人が居るんだ。だから今から会うことになると思うけど大丈夫かな?」

そう言うと何故か緊張し始めた彼女だったがやがてコクリと頷いた後、ゆっくりとした足取りで家の中に入っていくのだった。そしてリビングに繋がる扉を開けると早速声を掛けることにした。「ただいま戻りましたー」

その声に反応するように振り返った人物はこちらに気付くなり笑顔を浮かべると近付いてきて言った。「おかえり~お兄ちゃん♪」

だがすぐに異変に気付いたようで首を傾げると言った。「あれれ、そちらの女性はどちら様ですか……?」その瞬間、ビクッと体を震わせる少女を見た俺は慌てて間に入ることで宥めることにした。

「ああ、安心してください。この子とは以前ちょっとした縁があって知り合っただけなんです。それでちょっと訳ありでうちに泊めることになりまして……」そこまで言うとジッとこちらを見つめてくる妹の視線が気になって仕方なくなった俺は何とか話を続けようとするも言葉が出てこないのだった。そんな時、思わぬ助け舟を出してくれたのは以外にも彼女だった。

「えっと……初めまして!私、先輩と同じ学校でクラスメイトをしている天川結愛と言います!しばらくの間、お世話になりますのでよろしくお願いします!」ペコッと頭を下げると丁寧に挨拶をしたので俺も続くことにした。「えっと、改めまして佐藤亮介の妹の美咲です。いつも兄がお世話になってます」

そんな俺達の様子を見ていた妹が笑顔で頷いてくれるのを見てホッと一息つくことが出来たがそれも束の間のことだった。何故なら隣に立つ彼女がプルプル震えていたかと思うと次の瞬間、涙を流しながらこう言ってきたのだ。「お兄ちゃ~ん!!遂に私に妹が出来たんだね!!」……あ、どうやら感動のあまり感極まってしまったようだ。その後、落ち着いた後にお互いのことを紹介してみたところ最初は警戒していたようだが時間が経つにつれて仲良くなっていったのだった。しかしそれとは別に妹のことが気になるようでチラチラ視線を向けていたので気になった俺が聞いてみると予想外の答えが返ってきた。それは……「お兄ちゃんのことどう思ってるのかなぁって思って!」とのことらしい。それを聞いた瞬間、何とも言えない気持ちになった俺だったが同時にあることにも気付いていた。それは彼女─天川さんの存在だ。先ほどからやけに妹を気にしているようだしもしかしたら何か特別な感情を抱いているのかもしれないと思った俺は試しに聞いてみることにした。するとどうやら図星だったらしく顔を真っ赤にして俯いてしまうではないか。それを見て確信した俺は二人の関係について尋ねてみることした。もしお互いに想い合っているのならこのまま応援するつもりでいたのだがどうやらそういうわけでもないらしい。だがお互いを意識するような素振りを見せていたこともあり、もしかしてと思っていると妹も同じ考えのようでこう提案してきたのである。

「この際だし、いっそのこと付き合っちゃえば?」これには彼女も驚きを隠せなかったようだったが同時に期待を込めた目でこちらを見てくるので困り果ててしまった。そもそも恋愛経験など皆無に等しい俺にはハードルが高い問題だったのだ。それでも一応考えてはみたもののやはり無理があると判断した俺はやんわりと断りを入れることしたのだが、そこで思わぬ援護射撃が入った。何と先程まで黙っていた天川さんが後押ししてくれたのだ。そのおかげで無事、告白することに成功した俺達は晴れて恋人同士になったわけなのだが、実はこの時、俺はあることを考えていたのだった。

(まあ、付き合うといってもどうせすぐに別れることになるだろう)そう思って軽く考えていた俺だったがまさかこんな形で後悔する羽目になるなんて……この時の俺は知る由もなかった。

翌朝、目が覚めると見慣れない天井が視界に入った。それと同時に自分が何処にいるのか分からなかった俺は一瞬混乱したものの昨夜の出来事を思い出したことで納得するに至った。そう、ここは自宅ではなく彼女の家なのだ。その事実を認識した俺はベッドから起き上がると部屋を出て顔を洗いに向かった。そうして身支度を済ませた後で朝食を済ませてから登校しようと思い、リビングに向かうとそこにはすでに着替えを終えた様子の二人が待っていた。しかも何やら様子がおかしいことに気付くも敢えて気付かないフリをすることにした。理由は簡単で、下手に追求すればロクなことにならないということを知っていたからだ。だが残念ながら彼女達は違ったようで俺の姿を見るなりこんなことを言ってきた。

「あっ、おはようございます♪先輩♪」「おはよう、お兄ちゃん♪」

満面の笑みで挨拶をしてきた二人に同じく笑顔を向けて返事をしてから気になっていたことを聞いてみた。すると予想通りというか何と言うか……とんでもない返事が返って来たので頭を抱える羽目になった。というのも二人は同棲を始めたばかりのカップルのように仲睦まじく会話をしながら手を繋いでいたのだ。その異様な光景にドン引きしていると不意に声を掛けられたので振り返ってみるとそこに居たのはもう一人の同居人である妹の美咲だった。

「どうかしたんですか?早くしないと遅刻しちゃいますよ?」

そう告げると不思議そうに首を傾げている妹を見て少しだけ落ち着きを取り戻した俺は何でもないと言って一緒に家を出たのだった。その際、玄関先で見送る二人を見ながら思うのだった──本当に上手くいくのだろうか……?不安を抱えながらも学校に向かって歩き始めるのだった。

******家を出てから少し経った頃、後ろから付いてきている足音が気になり振り返ると案の定、天川さんの姿があったので声を掛けることにした。「えっと、どうかしたのか?」

すると彼女は慌てた様子で立ち止まると言った。「すみません!先輩と一緒に登校したくて来ちゃいました」そう言って申し訳なさそうに謝る彼女を見ていると何だか申し訳ない気持ちになってきた俺は気にしていないことを伝えると再び歩き出した。その後は他愛もない会話をしながら歩いていたのだがふと昨日出会った時のことを思い出した俺は彼女に確認することにした。「そう言えば聞きそびれてたんだけど、天川さんはどうしてうちの学校に転校して来たんだ?確か前は私立の女子校に通ってたんだよな?」

それを聞くと彼女は恥ずかしそうにしながらも理由を教えてくれた。何でも両親の都合で引っ越すことになったため知り合いもいないこの学校に通うことに決めたそうだ。ちなみに引っ越し先については教えてくれなかったが恐らくここから離れた場所にあるのだろうと考えていると今度は彼女の方から質問された。「先輩は恋人とかいないんですか?」「……いきなりだな」

突然そんなことを聞かれた俺は苦笑しつつも答えることにした。「生憎と今はそういった相手は居ないな。それに今の生活に満足してるんで当分の間は作るつもりもないよ」「それって私でも大丈夫ってことですか……?」

どこか不安そうに聞いてくる彼女を見て改めて考えてみたのだが特に問題はなさそうだったので頷くと安心したような表情を浮かべていた。それを見た俺は何故こんなことを聞いてきたのかと疑問に思ったものの追及することはしなかった。

それからしばらくして校門を潜ったところで彼女と別れることになったのだがその際に一つだけ忠告しておくことにした。「なあ、念のため言っておくけど校内では極力、俺に話し掛けないでくれよ?」それを聞いた彼女が不思議そうな顔をしているのを見た俺は詳しく説明することにした。何故なら昨日の時点で俺と天川さんが交際しているという噂が出回っているからである。そのため下手に一緒にいるところを目撃されたら面倒なことになってしまう可能性があるというわけだ。それを聞いた彼女は理解してくれたようで素直に頷いてくれた。そんな彼女の頭を優しく撫でながら微笑みかけると途端に顔を赤くしたので可愛い奴だと思いながらその場を後にしたのだった。

教室に入るといつものように自分の席へと向かった俺は鞄を置くと中から教科書を取り出して机の中に仕舞うとそのまま時間割を確認し始めた。そして今日の授業を確認する中で一時限目に体育の授業があることに気付いてどうしようか悩んでいた時、教室に入ってくるクラスメイトの姿が見えたので視線を向けるとそこにいたのは天川さんだった。彼女はこちらに気付くと嬉しそうに手を振ってきたので振り返してあげると笑顔を浮かべて喜んでいた。その様子を見ていた男子達からの殺気を感じつつも気付いていないフリをすると視線を外してやり過ごそうとしたが直後に背中に衝撃を受けたことで振り返ると天川さんの親友である藤森さんと目が合い、睨み合う形になった後で互いにフンッと顔を背け合った。そんなやり取りがあったとは露知らず、上機嫌で近付いてくる彼女を迎え入れつつ次の授業は何だったかと思い出そうとしていたその時、突如として何者かが俺の前に立ち塞がったことで視線を上げるとそこには何故か不機嫌さを隠そうともしない女子生徒が立っていた。突然のことに呆然としていると彼女は苛立ちを隠さずに口を開いた。「ちょっとあんた、どういうつもりなのかしら……?」

一体何のことなのかさっぱり分からない俺は首を傾げると再度、尋ねてみた。「一体何の話だ?」「惚けないで頂戴!あんたがあの子のことを弄んでいることは知ってるのよ!」「……ん?」

どうやら誰かと勘違いされていることに気付いた俺はすぐに誤解を解くために説明をしようとするもその前に相手が先に話を続けた。「大体、おかしいと思ったのよ……私を差し置いてあんな子を彼女にするなんて……」

どうやらこの子は俺ではなく別の誰かに恨みがあるらしいと考えた俺は誰なのか尋ねようとしたのだがそれよりも先に話を続けてきたので聞くタイミングを逃してしまった。「こうなったら何がなんでもあんたを後悔させてやるわ……!」そう言って立ち去る後ろ姿を眺めていると入れ違いになるように入ってきた担任教師から号令が掛けられたことで意識を切り替え、体育館へと移動したのだった。

******放課後になり、帰り支度をしていると今朝の一件以来、ずっと無言だった妹が話し掛けてきた。その表情はいつになく真剣なものだったことから何か重要な話があるのだと察した俺は荷物を纏め終えると妹に向き直った。それを見て頷き返す姿を見た俺は黙って話を聞くことにしたのだった。

そして全てを聞き終えた俺はあまりの衝撃に言葉を失ってしまった。というのも今朝、俺達が登校してくる前に起きた出来事について聞いたのだがその内容というのが何とあの天川さんに彼氏が出来たというものだったのだ。それも同じ学校の男子生徒らしく、彼女の口からその人物の名前を聞いた時に思わず耳を疑ってしまったほどだ。しかもその相手がなんと俺の親友だというのだ。それを聞いて最初は何かの間違いだと思った俺だったが妹の真剣な表情を見るなりどうやら本当らしいと悟った。そこで改めて話を聞いてみるとどうやら最近になって付き合い出したらしいということが分かった。しかし何故、今まで黙っていたのか気になった俺が尋ねると返ってきた答えがとんでもない内容だったのだ。何でも最初に打ち明けたのは彼の方で、実は両想いであることを見抜いた彼が告白することで二人の仲を取り持ったのだという。つまり彼は最初から知っていたということになるわけだが一体、いつからだったのだろうかと思ったもののそれ以上に気になることがあったためそれは後回しにして尋ねることにした。そう、肝心の相手のことである。ここまで聞けば大方の予想は付くだろうがそのお相手は俺の親友なのだという。正直、頭がおかしくなりそうだったが何とか冷静さを保つことに成功した俺は詳しい事情を聞くことにした。すると驚くべきことが判明した。どうやら二人は元々、幼馴染だったらしいのだがお互いに初恋同士だったこともあって長い間、気持ちを伝えられずにいたそうだ。そんな中、彼女がとあることがきっかけで海外に留学することになり離れ離れになってしまった二人は手紙でやり取りをするうちに自然と惹かれあうようになったのだという。

ちなみに二人が初めて顔を合わせたのはお互いが小学六年生の時のことでその時は特に接点がなかったそうだが偶然、隣の席になったことをきっかけに仲良くなり、よく遊ぶようになっていったそうなのだがやがて疎遠になっていったらしい。というのも彼女には婚約者がいて将来は結婚することが決まっていたので彼とも距離を置かなければならなくなったという理由があったからだそうだ。そして中学三年生となったある日、彼女の父親が事故で他界し、その後を追うように母親が亡くなったことを知った彼女は日本に帰国することを決意したそうだ。その際、向こうの学校に退学届を出したことで晴れて自由の身になった彼女は日本に戻り、以前から住んでいた家の近くにある高校に転入して来ると同時に再会したというわけである。

話を聞き終えた俺は混乱しながらもとりあえず状況整理するべく情報を整理してみることにした。まず天川さんは幼い頃に親の仕事の都合で海外に移住して行き、向こうで暮らしていたのはいいのだが事故に遭ってしまい記憶を失ってしまう。そして帰国してから母親が亡くなったことを知ると同時に父親の転勤により引っ越して行った先で親友と出会い、親交を深めていくうちに次第に恋心を抱くようになるも自分の正体を知っている相手に言い出せなくて悩むことになるも勇気を出して彼に思いを告げることにしたそうだ。その後、無事に付き合うことになった二人はこれまで離れていた分を取り戻すかのように頻繁にデートを重ね、更に互いの両親への挨拶を済ませてから正式に婚約を交わすに至ったわけなのだがここで問題が発生したそうだ。それが彼女の転校である。何でも以前、通っていた学校の方が進学校だったためそちらに進学するか転校することになると思っていたところ両親の計らいによってこちらの学校に通えることになったため喜んで編入試験を受けた結果、見事合格したことで引っ越し先でも変わらず通い続けることが出来たわけだ。ちなみにそのことを告げられた際、真っ先に驚いたのは母親だったという。というのも母親は娘が同性と付き合っていることを知っていたにも関わらず反対せず、むしろ応援してくれていたようでそのことにとても感謝しているそうだ。それを聞いた俺は少しだけホッとした。何故ならもし彼女が男と付き合っていたとなればショックのあまり寝込んでしまっていたかもしれないからである。

そしてそれから程なくして彼女は俺の親友に想いを寄せるようになり、ついに交際を始めたことで報告してくれたのだがその際に彼から聞かされたのが彼女が記憶喪失だということを聞かされると共に自分が恋人であることを告げた上でいずれ元通りになるかもしれないことを伝えた上でこれからも彼女と過ごすことを許してくれたそうである。それを聞いた俺は親友に対して感謝すると同時に彼女の幸せのためならば自分のことなど二の次でいいと思ったので協力することにしたのだった。

******そうして話は冒頭に戻るのだがまさか彼女が俺のことを好きだったとは夢にも思わなかった。確かに言われてみれば思い当たる節がいくつもあったため納得する一方でこんな俺を好きになってくれたことに対して嬉しいという気持ちが溢れてくるのを感じた俺はその気持ちを抑えきれずにいた。だからだろうか、無意識のうちに彼女を抱き締めていた俺は耳元で囁くようにしてこう告げるのだった。「天川さん、俺と付き合ってくれないか?」その言葉を聞いた彼女は一瞬だけ体を強張らせたもののすぐに力を抜いて体を預けてくれたことで受け入れてくれたことを確認した俺は心の中で安堵のため息をつくとしばらくの間、抱き合っていたのだが不意に視線を感じたことで見てみるとそこにはこちらを睨みつけている藤森さんが立っていた。それを見た俺は咄嗟に腕の中から彼女を解放したが直後に背中へと飛びついてきた天川さんに驚いてしまった。どうやら彼女も俺に好意を抱いてくれていたようで満更でもない様子だったがさすがにこの状況で受け入れるわけにもいかず、どうしたものかと考えていた時、ふと視界に映った光景を見た俺はある提案を持ちかけることにした。「ねえ、藤森さんも一緒にやらない?」その言葉に驚く二人をよそに俺は説明を続けた。「俺もそろそろ彼女を作ってみようかと思ってね?それに君達には色々と世話になったから今度はこっちが助けてあげようかと思ってさ」「っ!べ、別に私はあんたのことなんて……!」「あらら、いいのかな~そんなこと言って?」そう言うと途端に黙り込む藤森さんを他所に続けて説明するとようやく納得してくれたのか承諾してくれたので早速、明日から始めようという話になったところで解散することになった俺達はその場で別れることにしたのだった。

帰宅途中、一人歩きながら考えていたのはこれからのことではなく先ほどのことだった。突然の出来事に戸惑ったもののどうにか平静を装ってその場をやり過ごすことに成功した俺だったが内心ではとても複雑な気持ちになっていた。というのも俺にはどうしても拭いきれない不安があったからである。それは俺がかつて犯してしまった罪に関することであり、それを思い出す度に憂鬱になるのだ。しかし今は考えても仕方がないので別のことを考えることにした俺は自宅に到着すると鞄を置いてからすぐにシャワーを浴びると自室に向かい、ベッドに寝転ぶとそのまま目を閉じるのだった。

翌日、目を覚ますといつも通り身支度を整えてから朝食を済ませると登校する前に妹の部屋を覗いてみたのだがどうやらまだ眠っているらしく起きる気配がなかったので書き置きを残しておくことにした。『すまないが今日は一緒に行けない。先に行っている』と書いたメモ用紙をテーブルの上に置いた俺は玄関を出ると鍵を閉めた後、マンションを出て駅に向かうのだった。

学校に到着し、教室に入ると既に来ていた生徒達が一斉に視線を向けてきたがいつものことだと思いつつ、自分の席に座ると荷物を纏めていると隣にやってきた天川さんが挨拶をしてきたので挨拶を返すと笑顔で話し掛けてきたので応じる形で会話を続けていたその時、突然背後から殺気のようなものを感じた俺は振り返って確認するとそこには険しい表情を浮かべた藤森さんと目があったが特に何も言ってこないので気のせいだと判断して視線を戻すとまたしても刺すような視線を感じ、振り返るとそこに立っていたのはやはりと言うべきか案の定、怒り心頭といった様子の天川さんの親友の姿があった。そんな彼女の様子に呆れつつも席に戻っていく姿を見ているだけだった俺だったがこの後、とんでもない展開になることなど知る由もなかったのである。

昼休みになるといつものように食堂へと向かう準備をしていると何故か天川さんもついてくることになり、どうしたのかと尋ねるとどうやら昼食を共にしたいということだったので了承すると嬉しそうに笑みを浮かべながらついて来る彼女の様子を眺めていたのだがそんな俺達のやり取りを見ていた周囲の面々は驚きの表情を見せると同時にざわつき始めたことに気付いた俺が何事かと思っていると隣を歩いていた彼女が小声で話しかけてきた。「あの……一つ質問してもいいかしら?」「ん?ああ、構わないよ」そう答えると彼女は周囲を気にしながら聞いてきた。「もしかしてだけど……あなたってその子のことが好きだったりするのかしら?」そう言われて思わず立ち止まってしまった俺は少し間を置いた後、答えようとしたがその前に彼女に遮られてしまった。「あ、やっぱりそうなのね。その様子だと私の予想は当たったみたいね」そう言って笑みを浮かべた彼女に対し、否定しようと口を開きかけたもののすぐに言葉を呑み込んだ俺は何も言わずに歩き出すと彼女の方を一瞥することもなく目的地である食堂に向かって歩き続けた。そしてしばらくして到着して注文した料理を受け取ると空いている席を探して座った後で食べ始めるもその間、終始無言だった。何故なら先程のことで頭がいっぱいだったからだ。何故、彼女があんな質問をしてきたのか理由は何となく分かるものの本当にそうなのか確信が持てないこともあって頭の中がモヤモヤしていた。そしてそれと同時に罪悪感にも似た感情が込み上げてくる中、チラリと横目で見ると未だに無言で食事を続けている天川さんの姿が目に入った。しかしよく見ると何やら様子がおかしいことに気付くとその原因はすぐに判明した。なぜなら彼女の口元からは涎が出ており、今にも料理を平らげてしまいそうな勢いだったからである。それを見た俺は内心、呆れながらも食べる速度を上げることにした。そうして何とか食べ終えることができた俺はホッと胸を撫で下ろすと同時に一息ついていると急に話しかけられた。「ごめんなさいね、待たせてしまって」その声に顔を上げると申し訳なさそうな表情をした彼女がこちらを見ていたので慌てて首を横に振って気にしていないことを伝えると彼女は笑みを浮かべてきた。その笑顔を見て不覚にもドキッとしてしまった俺はそれを悟られないように必死に誤魔化しつつ話を切り出した。「それで何か話があるんじゃないのかい?」「え?ええ、そうね……」そこで一度、区切ったかと思うと意を決したように口を開いた彼女はこう告げてきた。「私と付き合ってくれないかしら?」「……へ?」突然のことに思考が停止したことで一瞬、フリーズしていると再び彼女が口を開いた。「実はずっと前からあなたのことが好きだったの。だからこうして勇気を出して告白してみたんだけど返事は今じゃなくていいからじっくり考えて返事を聞かせてほしいの」それを聞いた俺は正直、戸惑っていた。何故なら今の俺は恋愛に興味がないどころか人付き合い自体、面倒だと思っているからだ。とはいえここまで言われてしまっては無下に断るわけにもいかないと思い、まずは考える時間が欲しいと言った上で返事については後日伝えるということになったのだった。

放課後、帰宅した俺は制服を脱ぐと私服に着替えるとリビングに向かうとソファーに座って寛いでいる父親と妹を見つけたため声をかけた。「ただいま。父さん、母さん」それを聞いた二人は笑顔を浮かべながらこちらを向くと口々にこう言った。「おかえり、真治君」「おかえりなさい、お兄ちゃん!」それに対して返事をすると冷蔵庫から飲み物を取り出してグラスに注ぐと一気に飲み干した。それから暫くの間、テレビを見ながら談笑していたのだがふと時計を見ると時刻は午後七時を過ぎており、それに気付いた妹が夕食を作りに行くと言ってきたことで両親はキッチンへと移動していったのだがその際に俺も手伝おうかと聞いたところ大丈夫だからゆっくりしていてほしいと言われたのでその言葉に甘えることにした俺はソファーで寛ぎながら考え事をすることにした。

そもそも何故、天川さんは俺のことを好きになったのだろうか?確かに俺は昔から勉強はできたし運動神経だって悪くはなかった。それに性格も悪くはないとは思うものの異性からモテるような容姿や能力を持っているわけではないのだから尚更不思議に思う。それに何より気になるのは俺と付き合うことが彼女にとってメリットになるのかということだ。しかし今のところ思い浮かぶものがないため、いくら考えても無駄だと判断した俺は一先ず保留することに決めてから明日に備えることにしたのだった。

翌朝、いつも通り登校した後で教室に入るなり真っ先に視線を向けたのは藤森さんだったが昨日と同じく不機嫌そうにしているだけで話し掛けてくることはなかったのでそのままスルーしつつ、自分の席に着くと鞄の中から荷物を取り出して整理し始めた。すると不意に背後に気配を感じたので振り返るとそこには天川さんが立っていたため、挨拶をすると彼女も挨拶を返してくれた後で話を切り出してきた。「ねえ、昨日のことなんだけど……」その言葉を聞いた瞬間、周囲に緊張が走ったのを感じた俺は周囲の反応から天川さんに好意を抱いているのは藤森さんだけでなくクラスの大半の男子達が同じ気持ちなのだと察して内心で苦笑いを浮かべていると構わず話し続ける彼女に耳を傾けることにした。「それで、どうかしら?」「そうだね……ちょっと時間をくれないかな?さすがに即答するのは無理だしさ」「そう、分かったわ。じゃあ、いい返事を期待しているわね」そう言って微笑むと俺の前から離れていったのを見て安心したのも束の間、すぐに別の生徒が話しかけてきたのだがその内容を聞いて思わず頭を抱えるのだった。

それは俺が授業を受けている最中の出来事だった。先生が黒板に書き込む内容をノートに写しているといきなり背中に何かが触れたので振り向くとそこにいたのは隣の席にいるはずの天川さんだった。驚いた俺が咄嗟に立ち上がると先生は俺の方を見たが何事もなかったかのように授業を再開したので再び席に座ると小声で話し掛けた。「一体、何やってるんだよ!?」「あら、静かにしないと駄目よ?それとも先生に注意されたいのかしら?」そう言われてしまった俺は仕方なく黙ることにして続きを聞くことにした。しかし次の瞬間、彼女はとんでもない行動に出たのだ。なんと机の下で俺の手を掴むと自分の胸に押し当てるようにしてきたのだ。しかもわざとやっているのか押し付けてくる力は少しずつ強くなっていき、終いには手の平全体を包み込むようにして揉み始めたものだから驚きのあまり声が出そうになったもののどうにか堪えることに成功した俺はこの状況をどうしようかと考えていた時、教室内にいる生徒全員の視線が俺達に向けられていることに気付いた。そのことに焦った俺は周囲を見渡すとほとんどの生徒達がこちらに視線を向けていることが分かったのですぐさま彼女にやめるよう言おうとしたその時、誰かが教室に入ってくる音が聞こえたかと思えば聞き慣れた声が聞こえてきたので視線を向けるとそこには藤森さんが立っていた。そしてそのままこちらに向かって歩いてくると開口一番にこんなことを言い出した。「天川さん、今すぐその手を離した方がいいと思うよ?」その発言を聞いた途端に我に返った様子の彼女は俺から手を離すと俯きながら大人しく席に座った。

それを見てホッとしたのも束の間、今度は背後から聞こえてきた声に戦慄する俺を尻目に振り返ってみるといつの間にか目の前に立っていたらしい藤森さんが鬼の形相をしながら俺を睨みつけてきたので恐怖で動けなくなった俺は冷や汗を流していると彼女は小声で話し掛けてきた。「まさかとは思うけど……天川さんと何かあったりしていないよね?」そう聞かれた俺は正直に話すかどうか迷ったものの彼女の目が本気だったことから素直に答えることにした。そしてそれを聞いた彼女が安堵の息を吐いたところでチャイムが鳴ったことで中断されたが休み時間になった途端、彼女に話しかけられたことで嫌な予感を覚えながらも話を聞くことにした。

「さっきはごめん。でも天川さんのことは本当に大切に思っているんだ」「……え?」予想外の言葉に戸惑っていると更に続けて話し始めた。「実は昔、僕の家の近くに住んでいた女の子でね。両親の都合で引っ越してしまうまで仲良くしていたんだけど小学校を卒業する前に遠くへ引っ越すことになって離れ離れになってしまったんだ。それからは連絡を取り合ってはいたものの僕が中学に入学した辺りから音信不通になってしまってね。もしかしたら僕のことなんか忘れて新しい生活を始めているのかもしれないって思っていたんだけど先日、偶然再会したことで色々話をしてみたら君のことを嬉しそうに話していたんだよ。どうやら友達ができなくて悩んでいた彼女を助けてくれていたみたいだからお礼をしたいってことだったから今日、こうして連れてきたってわけさ」それを聞いて納得した俺は彼女にお礼を言うと感謝の気持ちを伝えた。そして改めて自己紹介をすると彼女は笑顔で応えてくれた。

その日の放課後、いつものように帰宅しようとした俺の元に駆け寄ってきた藤森さんと一緒に帰ることになった俺は内心、複雑な気持ちでいっぱいになっていた。というのも以前までは彼女とはそこまで親しくなかったのだが例の噂が原因で周囲から孤立しかけていた所を助けてくれたことをきっかけに急速に仲を深めていき、今では親友と言っても過言ではない存在となっていたからだ。だからこそ彼女のことを異性として好きになりつつあったのだが一方で彼女には悪いとは思いつつも友人としては好きなのは事実だが恋愛感情を抱いていないこともまた事実である以上、告白されても断るしかないと思っているだけにどうしたものかと頭を悩ませていたのだがとりあえず今は様子を見ようと結論付けた後、自宅に到着した俺は早速、夕食の準備をしようとキッチンに向かった所でまたしても藤森さんから話しかけられた。「あのさ……真治君、何か悩みでもあるの?」突然そんなことを聞いてきたことに驚いていると彼女はこう続けた。「いや、最近ね、元気がないというか落ち込んでいるように見えたからさ。もしよかったら相談に乗ろうかなって……」それを聞いた俺は悩んだ末に思い切って打ち明けることにした。

最初は驚いていた彼女だったが真剣に話を聞いてくれたおかげでかなり気が楽になったこともあり、全て話し終えた後で礼を言うと夕食の準備に取り掛かった。その間、ずっと何かを考えていた様子だった彼女が急に真剣な表情になるとこちらを向いたかと思うとこんなことを言ってきた。「真治君、私はあなたのことが好きです」「……え?」一瞬、何を言われたのか理解できなかった俺が固まっているとそれを見ていた彼女は慌てた様子で弁明し始めた。「あ、あの、誤解しないで!これは私の本心であって決して変な意味じゃないから!ただ、これからもずっと一緒にいたいと思うくらいあなたが好きだからこうして想いを伝えようと思っただけだから!」そう言った後に恥ずかしくなったのか顔を赤くして俯いてしまった彼女を見て可愛いと思ったことで思わずときめいてしまったが何とか持ち堪えた後で返事をどうするか考えたのだが断ることに決めた俺は夕食を作ろうとしたのだがふとあることを思い出して手を止めると冷蔵庫から取り出した卵を割り、ボウルの中に入れると菜箸を使ってかき混ぜながらあることを思い出していた。それは数日前、天川さんと二人で下校した時に告げられたことだった。その内容というのは俺に好意を抱いているということだったが正直、戸惑いを隠せなかった俺はそれを直接聞いてみたところ実は小学生の頃に俺と出会っており、その時に優しく接してくれたことがきっかけで好きになったのだという。

それを聞いた俺は信じられなかったものの実際に今、目の前にいる藤森さんの容姿や性格を考えると納得できることばかりだったので半信半疑ではあるもののその話を信じることにした。何故なら仮に嘘だとしても損をすることはないからだ。何しろ見た目に関しては言うまでもないことだが性格だって良い方だと思うし人当たりも良いため嫌われる要素がまるでない上に誰にでも分け隔てなく接することの出来る優しい心の持ち主だと分かっているからこそ嘘をついたりしないだろうと思ったのだ。

とはいえ一応、念の為に確認するつもりで質問してみると何故か頬を赤らめつつも頷いてくれたのを見た俺は嬉しく思いながらも礼を言った後で食事を始めたのだがその際、妙に視線が気になったこともあって顔を上げるとそこにはニヤニヤしている彼女の姿があった。「どうしたんだ?」そう尋ねると嬉しそうな表情を浮かべつつこう言った。「ううん、何でもないよ♪」明らかに何かある様子ではあったがそれ以上は追及せず、黙々と食べ進めているとやがて完食して片付けを終えた俺が先に風呂に入ると後から彼女が入り、暫くの間はテレビを見ながら寛いでいたが就寝時間が迫ってきたところで自室に戻ろうとしたのだがその前に呼び止められた。

一体、何の用事だろうかと思いながら振り返ると真剣な表情を浮かべた彼女がいたので何事かと思いつつ耳を傾けることにした。「あのね、真治君……」そこで一旦、言葉を切った彼女は深呼吸をしてから続きを口にした。「私、あなたのことが好きなの」「……え?」突然の告白に驚いて固まっているとその様子を見た彼女は苦笑しながらこう続けてきた。「ごめんね、いきなりこんなこと言われても困るよね?でもこれが私の正直な気持ちだから聞いてほしかったんだ。それでどうかしら?」それに対して何も答えられなかった俺が黙ったままでいると沈黙に耐えられなくなったのか立ち去ろうとする彼女を慌てて引き止めた俺は意を決して返事をすることにした。「えっと……俺も好きだよ、藤森さんのこと」そう言うと驚いた様子を見せた彼女だったがすぐに満面の笑みを浮かべたことでそれを見た俺も自然と笑みを浮かべていた。

その後、お互いに照れ臭くなった俺達はそれぞれ部屋に戻ったわけだがベッドに入った後もさっきの出来事を思い出す度に顔がニヤけてしまい、結局眠ることは出来なかった。そして翌朝、寝不足のせいで頭がボーッとする中、支度を済ませてからリビングに向かうとそこには朝食の用意をしている天川さんの姿があった。その光景を目にした俺はまだ夢を見ているような気分だったものの彼女が挨拶してきたのでそれに応じる形で挨拶をするとテーブルについて食事を摂った後で学校に向かった。その際に玄関前で見送ってくれた藤森さんとの会話を思い出した俺は彼女にお礼を言った後で改めて自分の気持ちを伝えると笑顔で応じてくれたことが嬉しかった俺は上機嫌のまま教室内へと入ったのだがその直後、予想外の事態に遭遇することになった。というのもいつもなら既に登校しているはずの藤森さんが未だに来ていなかったのだ。

一体、どうしたのだろうかと思い、周囲を見渡してみると彼女の姿がどこにも見当たらないことに加えて空席になっていることに気付いた俺は嫌な予感を覚えたことで急いで鞄を置くとトイレに向かってみたのだがそこにも居なかったことでますます不安になってきた俺だったが休み時間にスマホを確認した所、一通のメールが届いていることに気付いて中身を確認するとその差出人は天川さんだったので不思議に思った俺が開いてみるとそこにはこんな内容が書かれていた。『件名:助けて』「本文:今すぐ屋上に来てほしいの」そう書かれていたのを見た俺は即座に移動を開始した。

そして数分後、到着した俺が扉を開くとそこにいたのはやはり天川さんだったのだがどういうわけか彼女は床に倒れており、更にその上には見知らぬ男が覆い被さっていたので咄嗟に止めに入ろうとしたその時、俺の存在に気付いた男はこちらを振り向くと不敵な笑みを浮かべながらこう言ってきた。「おやおや、君はこの子のお友達かな?」その問いに頷くと男は笑みを深めながらも続けてこう言った。「そうかい、なら丁度良かった。これから二人で遊ぼうと思っていたところなんだよ」「……遊ぶって一体何をするつもりだ?」「何って……そりゃあもちろん楽しいことだから安心していいよ♪ほら、君もこっちにおいでよ♪」手招きされたことで警戒しつつも近付いていくとその瞬間、背後から強い力で殴られた俺はそのまま意識を失ってしまったのだった。

そして目が覚めた時、真っ先に視界に入ってきたのは天井ではなく俺を覗き込んでいる男の顔だった。どうやら膝枕されているような体勢で目を覚ましたらしいと知った俺は驚きのあまり言葉を失っていると彼は微笑みながら話しかけてきた。「ようやくお目覚めのようだね。気分の方はどうかな?」「……最悪だよ」「おや、そうかい?それは申し訳ないことをしたねぇ……でもまあ、それも仕方がないか。何せ君の体は今から僕と一つになるんだからね」その言葉を聞いた瞬間、恐怖を感じた俺はすぐさま逃げようとしたのだが体が全く言うことを聞いてくれなかったばかりか指一本すら動かすことが出来なかったことでパニックに陥りかけたが何とか落ち着こうとした所で彼が再び話し掛けてきた。「それにしてもまさか君が来てくれるとは思わなかったよ。てっきり来ないものだとばかり思っていたからね」「……どういうことだ?」訳が分からずに混乱しているとそんな俺を見ていた彼が面白そうに笑いながら言った。「いやね、僕は以前、君に邪魔されて痛い目に遭ったから今回は逆に君を僕の物にしてやろうと思ってさ、知り合いに頼んで君のことを調べてもらったんだよ。そうしたら色々と面白いことが分かったんでね、それで君を手に入れる為にこうして行動に移したという訳なのさ」それを聞いた俺は怒りを通り越して呆れてしまったがそれでも一つだけどうしても気になることがあったので恐る恐る尋ねてみることにした。

「……あの噂を流したのはお前なのか?」「そうだよ。あれには僕なりの目的があったからね。それを果たす為に必要なことだったからやっただけのことさ」それを聞いて唖然としてしまった俺が何も言えずにいるとそれを気にする様子もなく話を続けた。「本当はもっと早い段階で実行に移すつもりだったんだけど生憎、中々機会に恵まれなくてね。でも今日は幸いにも絶好のチャンスだったから実行することにしたんだ。

そういう訳でもうしばらく大人しくしていてくれないかな?そうすればきっと気持ちよくなれるはずだからさ♪」そう言い終えた直後、突然ズボンを脱ぎ始めたかと思えばあっという間に裸になった彼はそのまま俺に覆い被さってきたかと思うと強引にキスをしてきた後、舌を絡めるような激しいキスを何度も繰り返していった。そうして息が苦しくなってきたところで解放された俺が肩で息をしながら呼吸を整えているとその様子を見ていた彼は嬉しそうな笑みを浮かべながらも今度は胸に手を伸ばしてきた。するとその手つきは段々と激しさを増していき、遂には乳首を摘まんできたので思わず声を上げた俺を見てニヤリと笑った彼は今度は股間を弄り始めようとしたがそれは何とか防ぐことが出来たものの胸だけでも相当に気持ち良くて我慢するのが大変だったというのにこれ以上されたらおかしくなってしまうと思った俺はどうにかして止めさせようとしたのだがその度に口封じをされてしまうのでどうすることも出来ずにいるとやがて限界を迎えたのか絶頂を迎えた俺が盛大に精を放ったのを見た彼は満足そうに笑うとそれを手で受け止めた後で指に付着した白濁液を舐めながら恍惚とした表情を浮かべていた。

それから間もなくして我に返った俺は慌てて起き上がろうとしたのだが体に力が入らず、もがくだけに終わった挙句、彼に押さえ付けられてしまったせいで逃げることが出来なくなってしまったことに絶望していたその時、不意に何かに気付いた様子で動きを止めた彼が呟いた。「そうか……そういうことだったのか!」その直後、急に笑い出したかと思うと俺の体の上に跨ると自らの局部を無理矢理押し込んできた。そのあまりの大きさに悲鳴を上げながらも必死に抵抗しようとした俺だったが彼の腕力によってねじ伏せられてしまった俺はされるがままの状態となり、やがて全てが収まった頃には既に抵抗する気力もなくなっていたのだがそんな彼を見た彼は満足げに微笑むと腰を動かし始めた。

初めはゆっくりと動いていた彼だったが徐々にその動きが激しくなるにつれて俺もまた痛みを感じなくなっただけでなく快感を感じ始めていたことから少しずつではあるが受け入れていくようになり、最終的には自ら求めるようになっていた。その結果、ついには彼と繋がったまま達してしまい、それと同時に彼も中に出したことで俺達の結合部からは大量の白濁液が流れ出てきたがそれでもなお行為は続けられ、その後で数時間に渡って続けられた結果、俺のお腹は大きく膨らんでいた。

それを見た彼は嬉しそうに笑っていたのだがその表情とは裏腹に俺の表情は曇っていた。何故なら今の俺の中には別の誰かの魂が入っていることを知ってしまったからだ。そしてその原因となった出来事を思い出しているうちにあることを思い付いた俺はある考えを実行することにした。

翌日、目を覚ますといつものように朝食を作ってくれている天川さんの姿を目にした俺は昨夜の出来事を思い出していたがどうにか気を持ち直すと彼女が準備してくれた朝食を食べ始めた後で今日の予定について聞いてみた。すると彼女は特に何もないと答えたのでそれならデートに行こうと誘ったのだが最初こそ戸惑っていたものの最終的に頷いてくれたことで安堵した俺は学校が終わると同時に彼女を連れて街に向かうと映画館やレストラン、ブティックなどを見て回った末に最後に行き着いた場所はホテルだった。

そんな場所に連れてきた理由を説明することなく無言のまま入室した俺達は部屋に着くとすぐに抱き合い、唇を重ねた後で服を脱がせ合ったところでベッドに移動して行為に及んだ。最初は緊張からかぎこちない動きをしていた彼女も時間が経つに連れて慣れてきたのか途中から激しく求めてくるようになったこともあって俺の方も夢中になっていたが途中、ふと時計を見てみると既に夜の9時を過ぎており、夕食のことなどすっかり忘れていたことに気づいた俺は慌てて天川さんに謝ると彼女は笑顔でこう言ってくれた。「気にしなくていいよ♪だって真治君となら何時まででも続けられるもん♪」その言葉に嬉しくなった俺は彼女の要望に応えるべく一層激しく動いていくとやがて二人はほぼ同時に絶頂に達したことで疲れきった俺達はベッドの上で寄り添い合うようにして横になるとそのまま眠りについたのだった。

翌朝、目が覚めると既に起きていたらしい彼女と朝の挨拶を交わした俺は昨日のことについて謝ろうとしたがその前にキスされた上に上目遣いをしながらお願いされたことでドキッとしつつも了承した後で早速とばかりに着替えを済ませたところでチェックアウトするついでに昨日の出来事を精算しておいた。その際、料金の支払いの際、領収書を受け取った際に見た宛名の欄には「藤森彩花」という名前が書かれていたのを見て複雑な心境になっていると会計を終えた彼女に声を掛けられたので一緒に店を出た後で歩きながら話をしていたのだがその途中で偶然、見かけた公園の中に見覚えのある人物がいたので気になって近付いてみるとそこにはベンチの上で仰向けの状態で倒れている藤森さんの姿があった。その様子を見た瞬間、慌てて駆け寄った俺は息があることを確認した後で彼女を病院へと連れて行くとそのまま入院することになった。そして医師の話によると栄養失調による衰弱ということで点滴を受けているうちに元気を取り戻しつつある様子だったことが分かりホッとした俺だったのだが直後に目を覚ました彼女は何故か俺の顔を見るとひどく怯えた様子で震え出したのでどうしたものかと思っていたらそんな彼女の代わりに母親が答えてくれた。

曰く、彼女は俺のことが好きだったらしく、しかし今まで異性と付き合った経験がなかったせいでどうやってアプローチすればいいのか分からなかったらしいのだそうなのだ。それ故に思い切って告白しようと決意したまでは良かったのだがいざとなると恥ずかしくて出来なかったことや断られたらどうしようという不安もあってなかなか言い出せなかったこともあり、結果的にそれが裏目に出て倒れてしまう事態を招いてしまったというのが真相だったらしい。そのことを聞いた俺は自分がいかに鈍感だったか思い知らされることになったと同時にこんなことになるくらいならもっと早く自分の気持ちに気づいていればこんなことにはならなかっただろうと思い後悔しているとそこで母親から話し掛けられた。「そういえば真治君は彩花の彼氏なのよね?」

その問いに頷くことしか出来ない俺を見た母親は微笑みながら言った。「それならこれからもあの子のことをよろしくお願いね」それに対し、改めて頷いた俺は今度こそは何があっても守り抜くことを固く誓ったのだった。

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