第5話
90 ところで話を戻すが実は私も今、付き合っている女性がいてその人とは職場が同じであるため毎日のように顔を合わせているわけだがそんな彼女について私が知っている情報と言えば名前くらいなもので他にはほとんど何も知らないと言っても過言ではなかった。では一体、なぜ付き合い始めたのかというとそれはある日、彼女の方から告白してきたことがきっかけだった。91 最初は正直、戸惑ったものの彼女のことは嫌いじゃなかったためOKを出したところその後、晴れて恋人同士になれたというわけだがしかしながらそれでも未だにお互いの素性についてはあまり知らないままだった。とはいえ無理に詮索する必要は無いし何より今の関係が気に入っていたこともあって現状のままでいいと思っていた矢先、彼女は突如、結婚の話を持ち出してきた。92 とはいえさすがに急過ぎる展開であったためまだそこまで先のことを考える必要は無いだろうと断ろうとしたもののしかし彼女があまりにも真剣な眼差しを向けてくるものだからついつい気持ちが揺らいでしまった。そして最終的にはこちらが根負けする形で承諾するに至ったのだがそれと同時にこれから一緒に生活することになる上で必要な手続きを済ませた後、改めてプロポーズしたところ喜んで受け入れてくれたのだった。93 こうして彼女との結婚式当日を迎えたわけだが特に問題なく式は滞りなく進みついに夫婦となった瞬間、何とも言えない嬉しさが込み上げてきたのは言うまでもないことだった。94 さらにその後は籍を入れたことで苗字が変わったことにより仕事関係以外で接する機会が減り少しだけ寂しい思いをしたこともあったもののその代わりプライベートで一緒にいられる時間が増えたため結果的に言えばこれで良かったのかもしれないと思っている。
95 また余談になるが私の妻は意外にも家事全般が得意だったのでその点に関しては大いに助かっている反面、逆に私は料理などの細かい作業が苦手だったため二人で協力し合いながら生活をしていったおかげで今のところ大きな問題もなく上手くいっている感じだった。それと子供についても欲しいと思ったため早めに作ることに決め早速、病院に通い始めてから無事に妊娠することにも成功したため現在は安産祈願のお守りを授かりに神社へ参拝しに行ったり家族全員で健康的な食生活を送るよう心掛けながら過ごしている。
96 なお現在のところ出産予定日は12月10日となっており来年の2月に子供が生まれてくる予定である。そのため今から待ち遠しい気分になりつつも元気な子が生まれることを心から願っている次第だ。
97 そしていよいよ本日、妻が出産する予定となっているのだが先ほどから陣痛が始まったようで現在、入院している病院にいるため今は分娩室の前で妻が出てくるのを待っている状況だった。そんな中、看護師さんから声を掛けられたため一旦、席を外して話を聞いてみるとどうやらそろそろ赤ちゃんが生まれそうということでこれから手術が行われることになったとのことだった。98 そこでいざという時は自分も立ち会わなければならないと思い少し緊張しながらも準備を始めたもののその間、妻のことが心配になったため急いで元の場所まで戻っていった。するとちょうどその時、無事に生まれたらしく元気いっぱいな泣き声がこちらにまで聞こえてきた。その後、しばらくして医師がやってきて我が子の姿を見た途端、とても優しい表情を浮かべていたので思わずこちらもほっこりさせられた。99 ちなみに名前は女の子ということもあり花にちなんだものにしようと妻と相談した結果、春風と名付けられたためこの名前が将来、どのように成長していくのか今から楽しみである。また同時にお腹の中にいる時からずっと一緒にいたため生まれた瞬間に泣いてしまいそのまま泣き疲れて寝てしまった時も親近感が湧いたというかまるで自分の分身が生まれたかのような感覚を覚えつい感動してしまった。100 だがそのすぐ後に妻からは怒られてしまいさらにはお小遣いを減らされてしまったりもしたけれどそれも今となっては良い思い出となり非常に楽しかったという感想しか出てこなかった。
101 そんなこんなで色々あったもののようやく子育てにも慣れてきた今日この頃、突然、娘が初めて喋った言葉というのが『パパ』だったという衝撃の出来事が起こったのである。
102 その瞬間、今まで味わったことのない幸福感に包まれ天にも昇る気持ちになってしまったのは言うまでもなくまさに言葉に言い表せないほどの喜びを実感した。もちろんこれがきっかけでより一層、娘のことが愛おしくなりもはや実の娘同然の存在になったことは言うまでも無いだろう。
そしてこの気持ちを忘れないためにもこれから先、ずっと娘のことを見守っていこうと心に誓った次第である。
103
「ん? どうしたんだい、そんなに慌てて」
いつものように仕事をしていたら慌てた様子で部下の一人が駆け込んできたので何事かと思い声をかけてみたところ何とついさっき、警察から電話があったとのことなので詳しく聞いてみることにした。するとなんでも昨日、隣町で強盗事件が起こりその際に現場から逃げていく犯人を目撃した人物がいたので確認のために連絡してくれたらしいのだ。
「……なるほど、そういうことだったのか。それでその犯人はどんな奴だったんだ?」
「はい、それがどうも若い男性だったようなのですが身長は170cmくらいで痩せ型かつ黒縁眼鏡をかけていたそうです」
「ということは眼鏡を掛けた茶髪の男性、ということか……」
とりあえずそれだけの情報があれば後は何とかなるだろうと思ったものの念のためもう少し何かないかを聞いてみようとした直後、今度は別の人からこんな報告を受けた。
「あの、課長……実はたった今、入った情報なのですがどうやら事件の犯人が逃走する際に通ったと思われるルート上にあった防犯カメラに映っていた人物の顔がこちらになります」
そう言って差し出された写真を見てみるとそこには確かに見覚えがある男性が写っていた。しかも顔写真と共に名前や年齢なども記載されていたことから恐らく間違いないだろうと思いつつも一体、どうして彼があんな行動に出たのかについて疑問を抱かずにはいられなかった。
104 というのも彼はこれまで真面目一筋な人間だったため少なくとも犯罪に手を染めるような人間には見えなかったからである。しかし仮にそうだとしても動機が全く分からず余計に混乱してしまう始末だった。とはいえいつまでも考え込んでいるわけにもいかないのでとりあえず他の部署と協力して捜索すると同時にもし見つけた場合は必ず生け捕りにして事情聴取をするよう指示しておいた。
105 それからしばらくの間、会社全体でその件に関する捜査を行った結果、なんと意外な事実が判明してきた。それは今回の事件を起こした人物は以前、会社に勤めていた者だということが判明したからだ。ただ肝心の顔がはっきりしていなかったのでまさか同一人物だとは思いもしなかったもののひとまず居場所を突き止めるために彼の自宅を訪ねたところ本人はあっさりと姿を現したため確保するのは簡単だった。その後、取り調べを始めること数分、彼は自分が犯した罪について素直に認めてくれただけでなく今後は真面目に働くと約束してくれたのであった。
106 さらに加えて謝罪としてそれなりの額のお金を支払ってくれたばかりか今後、二度とこのようなことはしないと誓ってくれたためこちらも一安心し胸を撫で下ろした次第である。またついでに奥さんの方も浮気をしていたことが分かりこちらも同様に慰謝料を支払う羽目になったがそれでもまだ十分過ぎるほどお金が残っていたため結局、会社は大儲けすることが出来た。107 それにしても今回、起きた事件はまさしく波乱万丈と言えるものだったと言えるだろう。何しろ社長が横領してクビにした人間が実は犯罪者だった上に実は被害者だったなんて夢にも思わなかったはずだからだ。だからこそ会社の人間はみんな揃って驚きを隠せなかったわけだがしかし結果的に見れば丸く収まったのだから良しとしようじゃないかという結論に至り一件落着となった。108それによくよく考えてみればそもそもうちの会社は労働基準法に違反した企業であり法律的には真っ黒どころか真っ黒なのだがそれを抜きにしても本当にブラック極まりない職場だったのでこれを機に社員一同、心機一転、頑張っていこうという気持ちになっていたのは言うまでも無かった。109 そんなわけで新しい体制での再スタートを切ることとなった我々は今後の事業拡大に向けて様々な取り組みを行う傍ら、新入社員の教育などに力を入れることにした。そして中でも特に力を入れたのは新人研修で、今回は入社したばかりの若者を対象に行われたわけなのだがその内容がかなり厳しくて参加者のほとんどが音を上げてしまうほどだった。110 そのため最初は全員、不安そうな表情を浮かべていたのだが実際にやってみると意外と楽しくて仕方が無いと感じたらしく誰もが真剣に取り組んでいた。かくいう私もその一人だったのだが社会人になってから初めての経験だったためか正直、かなり戸惑った部分もあったものの今ではすっかり慣れてきてスムーズに進めることが出来るようになったため今後も積極的に取り入れていきたいと思うのだった。
111 さて前回、話した通り今年から新たに社内の制度を見直すことになり私は総務部長に任命されることとなった。とはいえまだまだ若輩者である私が担当する範囲はかなり広く毎日、仕事に追われる日々が続いていたもののその一方で少しずつではあるが仕事のコツのようなものを掴んできたこともあり以前よりも充実した日々を送っている気がしていた。
112 そんなある日のこと、久しぶりに昼休みを利用して屋上に行くと一人の先客がいたのだがその人はいつも私の相談に乗ってくれる友人の一人だったのですぐに声をかけようとしたところ何故か様子がおかしかったため思わず立ち止まってしまった。
113 一体何があったのだろうと思いながらそのまま様子を窺っていると不意に空を見上げながらこんなことを呟いているのが聞こえてきた。
「ああ、やっぱり空はいつ見ても綺麗だなぁ……いっそのことこのまま身を投げてしまえば楽になれるのかなぁ……」
114 そして次の瞬間、いきなり何を思ったのかフェンスを乗り越えようとする彼を見て驚いた私は急いで駆け寄って止めに入ったのだが運悪く勢い余って二人で落下してしまった。幸いにも地面に叩きつけられる直前で抱き留めることには成功したもののおかげであちこち擦りむいたり打撲したりしてしまい全身、血だらけになりながらどうにかこうにか地上に戻ってくることに成功したのである。115それからしばらくは動くことが出来なかったもののやがて意識を取り戻すと同時に病院へ緊急搬送され治療を受けて全治1ヶ月程度の怪我を負ってしまったもののなんとか命を取り止めることが出来て心底ホッとした気分になった。また同時に何故、そんなことをしたのか尋ねてみると以前から悩み事を抱えていたものの誰にも相談できず最終的に自殺を図ろうとしたらしく全ては自分のせいだと言われてしまった。
116 当然、それを聞いてショックを隠しきれなかったがそれでも生きているだけで十分だと思ったのでこれからも仲良くして欲しいとお願いしたところ彼も喜んで承諾してくれたのでこれからはますます一緒に過ごすことが多くなりそうだと思っていた矢先、突然、入院している病室に警察の人がやってきたので何事かと思い話を聞いてみたらなんと殺人の容疑で指名手配されている人物が目の前にいる友人だと言われてしまい一瞬、頭の中が真っ白になってしまった。
117 だがそこでふとあることを思い出し慌てて彼のスマホを見せてもらうよう頼んでみたところ案の定、メールのやり取りの中で殺害予告めいたものが送られていたことが分かったため即座に逮捕されたというわけだ。
「まさかあんたが犯人だったとはね……いや、でも今はそんなことより早く傷を癒すことに専念しよう」
120 そうして無事、退院した私と彼とは今までの空白の時間を埋めるかのように一緒に過ごした後、これからは何があっても支え合って生きて行こうと誓い合ったのでこれでようやく全てが元に戻ったような気がした。
121 ちなみに余談になるけれど彼がどうしてあんな真似をしようとしたかというと元々、極度のストレスに晒されていたため精神状態が非常に不安定になってしまいちょっとしたことがきっかけで理性を失ってしまうことがあるそうで今回の事件もそれに該当するらしいのだ。
「だから今後はあまり無茶はしないでね」
122 もちろんそんな事情を知ってしまった以上、放っておくことなど出来るはずもなくせめて私が側で見張っていないと大変なことになってしまう恐れがあるためしっかりと見守っていくことを決意したのだが果たしてそれが正しいのかどうかは不明だった。
しかし世の中というのは不思議なものでそういう時に限って良い方向へ進むことが多いのである。
123 実際、あの件があってから以来、何事もなく平穏な日々を過ごしているのだがそれもこれもあの日、彼が思いとどまってくれたおかげだと思い改めて感謝の言葉を述べることにした。するとそれを聞いた彼は照れくさそうにしながら『どういたしまして』と返事をしてくれたおかげでお互い、心が温かくなった気がしてとても嬉しかった。
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というわけで今回からカクヨム様の方で新たな小説の執筆を開始いたしました! タイトルは『僕の彼女は超絶ドSです~鬼畜すぎる彼女の甘い誘惑に僕は耐えられるのか!?~』となっております。
内容はタイトルの通り彼女が超絶ドSなので主人公の男性は彼女に虐げられながらも耐えつつ幸せになっていくという話になっておりますがその過程も含めて楽しんでいただければと思いますのでよろしくお願いいたします。
また今作に関してですが本編の方は既に完結済みのためそちらの作品を読んだことのある方なら安心して楽しめる作品になっているかと思われます。逆に初めて読むという方は最初のうちは抵抗があるかもしれませんが読んでいるうちに癖になってきて気が付いたらハマってしまうかもしれませんよ? それでは最後になりますがもしよろしければコメントやレビューなどいただけましたら幸いでございます。
どうか今後とも宜しくお願い致しますm(__)m 124 ある日、いつも通り出社して仕事をしているとそこに社長が現れ私にこう言った。
「おい、お前はクビだ!」
125 最初、何を言っているのかさっぱり分からなかったのだが詳しく話を聞いてみることにしたところどうやら会社の方針が気に入らなかったらしくもっと社員にとって働きやすい環境を作って欲しいと訴えたところ却下された結果、こういう判断に至ったのだという。しかしいくら何でも理不尽過ぎないかという思いはあったもののだからといってクビを撤回してもらおうにもすでに手続きが完了しているためどうすることも出来ずやむなく辞表を提出する羽目になった。とはいえこの会社に勤めてからまだ数年しか経っていなかったこともあり未練が全く無かったと言えば嘘になるのだが今となってはもうどうすることも出来ないのだから潔く諦めるしかなかった。
126こうして何もかも失った私は失意のまま帰宅しようと玄関を開けたところで何やら違和感を感じた。というのも普段ならあるはずの靴が一つも無くなっていたからだ。
「これは一体どういうことなんだ?」
127 そう思いながら部屋の中へと入って行くとさらに驚くべき光景が目の前に広がっていた。何と家の中が綺麗に整理整頓されていたばかりかまるで新築同然の状態になっていたからである。128 どう考えても普通ではないと思ったのでもしやと思い試しにテレビをつけてみると画面に映し出された映像を見て驚愕せざるを得なかった。なぜならその番組には私が写っていたからでありしかもその内容というのが例の殺人事件について報じていたのである。
129 だがそこでふとあることを思い出してハッとなった私は急いで自分の寝室へと向かうとそこには案の定、大きな金庫が置いてあり中から封筒を取り出すと恐る恐る中を開けてみた。するとその中には退職金と思われるお金と共にこれまで頑張って働いてきた私に対する労いの言葉が書かれていたのだった。130 それを見た途端、涙が溢れてきて止まらなくなったものの何とか抑え込むことに成功した後、そのお金を大事にしまい込みもう二度とここに戻って来ることはないだろうと思いながら家を後にして家を後にした。
131 それからというもの私の生活は激変した。それまでは散々、苦労させられてきたというのに今ではこんなにも恵まれた状況にあるのだと思うと自然と笑みがこぼれてしまうほど幸せな気持ちになれたし何よりも今まで苦しめられていた原因が何だったのかを知ってからは怒りを通り越して呆れてしまい何も言えなくなってしまったほどだった。
「まさかうちの会社がブラック企業ではなくとんでもないホワイト企業で労働基準法に違反していたどころかむしろそれを改善しようとしていたなんて……」
132 要するに社長が私や他の社員達にしていたことは法律的にグレーゾーンの行為であって本来は訴えられても文句は言えないはずなのに誰一人として訴えることなくそれどころかみんな一致団結して助け合っていたわけだからこれを聞いた時はさすがに耳を疑ったものの今思えば確かにそう考えれば辻褄が合うような気がした。
133 ただしそれでも社長のやったことは決して許されることではないため何らかの形で責任を取ってもらわなければならないわけでそのためにまずは事実確認を行うために弁護士の方と連絡を取り合っていると、その数日後、なんと逮捕されたという知らせが入ったため驚いた私はすぐに面会を求めたところ快く受け入れてくれた上にわざわざ出向いてきてくれたのである。
134 そして一通りの説明を受けた上で早速、本題に入ると彼からこう言われてしまった。
「正直に申し上げますと現在、起訴されているとはいえ有罪判決が確定するまでにはまだ時間がかかる見込みですしその間、刑務所に入ってもらうわけにもいかないのでおそらく執行猶予がつくでしょう」
135 それを聞いてホッとした反面、そうなると当然、再び職場復帰することになるわけなのだが正直、今の会社に戻る気にはなれないと思っていたためどうしたものかと思っているとそれについて提案を持ちかけられた。
136 それは以前働いていた場所とは違うところに新しく作った支店で仕事をしてもらうということだったのでこれにはかなり迷ったもののそれでもやっぱり元の会社に戻りたいという気持ちが強かったので思い切ってお願いしてみたところあっさりとOKを出してくれたためさっそく仕事に取り掛かることにした。
137 その後、数ヶ月の間、真面目に働きながら勉強した甲斐もあってようやく独り立ちできるようになった頃、ふとあることを思い出した私は久しぶりに実家へ連絡を入れるとそこで偶然にも両親に会ったことで近況報告をしたところ何故か驚かれてしまったため理由を尋ねてみたところどうやら先日、父に電話した際に母が倒れたことを知らされて心配していたそうなのだがとりあえず無事に退院したため一安心していたのだそうだ。
138 そうは言われてもこちらは何のことかサッパリ分からず首を傾げるばかりだったのだがそれというのも実は母には持病があり定期的に通院しなければならなかったにもかかわらずそのことをすっかり忘れて呑気に買い物に出かけていたせいで運悪く交通事故に遭いその結果、救急車で病院に運ばれるという事態に陥ってしまったらしい。
「まさかそんなことになっていたとはね……それならそうと早く教えてくれれば良かったのに」
139 しかし母はそんな私達の言葉に対して頑なに否定するばかりで詳しい話を聞こうとしても決して教えてはくれなかったのだが唯一、教えてくれたことといえば娘である私が事故に遭ったことはもちろんのこと死亡したと聞いたときはショックのあまり数日間、寝込んでしまったそうだがその後に意識を取り戻した直後に私を喪った悲しみよりも夫を失った辛さの方が大きかったらしく一時は離婚することも考えたそうなのだが幸いなことに夫が懸命に説得してくれたおかげでどうにか思いとどまってくれたためホッと胸を撫で下ろしたものである。
140 だがその時、同時にある決意を固めたことで今回の出来事が起きたのではないかと私達は推測していたのだが真相は未だに謎のままとなっている。
141 何故なら肝心の二人がこの世から去ってしまった以上、確かめようがないうえに今さら真実を突き止めたところで誰も幸せにならないだろうと思ったのと同時にこれ以上、家族同士で争っている場合ではないと気づいたからでもある。
【お知らせ】(新作公開のお知らせ)というわけで新作の公開準備を着々と進めております! タイトルは『僕の彼女は超絶ドSです~鬼畜すぎる彼女の甘い誘惑に僕は耐えられるのか!?~』となっております。ちなみにこちらの作品はいわゆる異世界転移モノと呼ばれるジャンルに入るのですが個人的にこの作品は自分が一番、気に入っておりましてもしかしたら自分の中で歴代最高の作品になるのではないかと思っております(笑)
それでは皆様、今後ともどうぞよろしくお願い致しますm(__)m 142 その日、彼は会社の飲み会に参加していたのだがあまりにもお酒が弱かったため一次会が終わる頃には既にフラフラになっており一人では歩けないほどだった。
143 そこで同僚達が彼を連れて帰ろうとしたのだがその際、酔った勢いでか突然、セクハラ発言をし始めたかと思えば女性社員達の胸やお尻を触り始めたため他の男性社員達は激怒しすぐさま引き剥がすとそのまま近くの交番まで彼を連れて行くことにした。
「まったくこいつときたら一体何を考えてるんだ!?」
144 それからしばらくして警察が到着すると事情を説明したところ彼が普段から酔う度にセクハラを繰り返していたことを知った警官は彼に厳しい罰を与えることに決めたのだが、その翌日、出勤してきた彼の顔を見るとなぜかニコニコしておりそれを見た同僚達は思った。
145 もしかして昨日の事を覚えていないのでは?と……
実際、その通りで彼は全く覚えておらず何があったのかさっぱり分からなかったものの昨日、警察に行ってから同僚の人達の態度が急に優しくなったので不思議に思っていたのだ。
146 しかしその一方で社内にいる女子社員の間では彼の評価がガタ落ちしており日頃、嫌っていたり見下している相手にしかちょっかいを掛けないことから本性はクズだという結論に至った結果、みんなから嫌われているだけでなく無視されるようになってしまった。
147 しかしそのことにも気づかず相変わらずお酒を飲んでいた彼だったがある日、いつものように酔っている状態で歩いていると不意に誰かとぶつかってしまい謝罪しながら顔を上げるとそこには信じられない人物が立っていた。
148 何と相手は入社したばかりの新人でしかもこれから一緒に働くことになった女性だったのだ。
149 そのことに気付いた瞬間、酔いが一気に覚めた彼は急いでその場から逃げようとするものの彼女がそれを許さなかった。
150 なぜならこの後、彼と二人きりになる時間が作れることが分かっていたからでありそのためならどんな手段を使ってでも時間を作ってみせるつもりでいたからである。
151それからしばらく経ってみんなが帰ったことを確認した後、二人は誰もいない会議室に入るとそこで向かい合うなりいきなり服を脱ぎ出した彼女を見て驚いたものの彼もまた負けじと脱ぎ始めあっという間に裸になるとお互いに見つめ合った。
152 こうして二人っきりで一夜を過ごすこととなったわけだが特に何をするわけでもなくただ見つめ合っているだけで終わりを迎えてしまうというなんとも拍子抜けな展開に思わず肩透かしを食らったもののこんな綺麗な女性と一つ屋根の下で暮らせるだけでも十分に満足できたためそれ以上は何も望まないのだった。
153 なおこの事は翌朝、目を覚ました後にお互い話し合ったことで分かったことなのだがどうやら彼女にはある目的があってそのためにわざと自分を陥れるような行動を取ったらしくそれが結果的に二人の距離を縮めることにも繋がったのである。
154 実は以前から彼女に好意を抱いていたものの中々、言い出せず悩んでいたところ今回、起きた事がきっかけで勇気が出たらしくそこから少しずつアプローチして今に至るというわけだ。
155 つまり全ては彼の計算通りだったというわけである。
156 その後、二人は付き合うことになりその数年後には結婚することになるのだが結婚式の前夜、ベッドの上で互いに愛を確かめ合っていた際、ふと疑問に思ったことを尋ねたところ彼女は笑顔でこう答えた。
「だってあなたみたいな人が本当に酷い人だったらわざわざあんなことしないと思わない?」
157 それを聞いた彼はなるほどと思ったもののよくよく考えてみればそうかもしれないと思い直すと彼女をギュッと抱きしめながら眠りについたのだった。
158
【宣伝】小説家になろうにてオリジナル小説を書いておりますのでもしよろしければそちらの方もご覧になって頂けると嬉しいです。タイトル:男の娘だけど女になりそうです!~可愛いもの大好きで女装趣味のある僕がまさか女の子になっちゃうなんて!!~URL: 私は高校一年生の男子生徒だ。名前は青井祐介という。
そんな私は今、窮地に陥っている。それは目の前に立っている金髪美少女のせいだ。
「あ、あのー……一体僕に何の用でしょうか……?」
目の前にいる金髪の美少女──エルナ・グランシアに向かって恐る恐るそう尋ねる。
どうしてこうなった……。俺はただ、普通に学校に行こうとしていただけなのに……! ******
「ん……?あれって確か……」
登校中、曲がり角に差し掛かったところで視界に入った人影に違和感を覚える。
あれは……うちの学校の制服を着ているが、見たことない生徒だな……。同じ学年じゃないはずだけど、どこのクラスの生徒だろうか……? そんなことを考えながらじっと見ていたのが悪かったのだろう。相手と目が合った。
やばい……そう思った時にはもう遅かった。
「あっ、せんぱーい!」
相手がこっちに手を振りながら近付いてくる。
どうやら俺のことを知っているらしい。どこかで会ったことがあったっけか……? 記憶を辿ってみるがやはり覚えがない。
「おはようございますっ」
「……おはよう」
元気よく挨拶してくる相手に俺も返す。
いや、ほんと誰なんだこの子は。こんなかわいい子が知り合いにいたのなら忘れるはずがないと思うんだけどな……。
俺が困惑しているとその子はニコッと微笑んでこう言った。
「先輩、私ですよ。わ・た・し」
そう言って俺の前でくるりと一回転する少女。その動きに合わせて金色の髪がふわりと揺れる。まるで映画の中のワンシーンのようだ。とても絵になっている。
それにしても“わたし”っていう一人称、どこかで聞いたような気がするんだけど……。
そこまで考えてハッとなる。もしかしてこの子が噂になってる例の子なのか?確かにそれなら納得出来るな。
そう思いながら改めて目の前の少女を観察する。すると視線に気付いたのか少女がこちらを向き、再びにっこりと微笑む。
うん、やっぱり間違いないな。彼女は噂の編入生だろう。ということは恐らく、俺を訪ねて来たんだろう。とりあえずは話を聞こうかな。
そう思い口を開いたのだが──。
「──悪いけど知らないぞ。君のようなかわいらしい子と知り合った記憶はないからな」
そう言った途端、場の空気が凍ったような気がした。しかしそれも一瞬のことですぐに笑顔に戻った少女は話を続ける。
「ふふっ、先輩は照れ屋さんですね。そんな先輩の反応もかわいらしくていいですけど……そろそろ素直になってくれてもいいんですよ?」
「いや、だからホントに分からないんだって。それにさっきから気になってたんだが、何で君はそんなに俺のことを知ってるんだ?」
先程から気になっていたことを口にする。すると彼女の笑顔がスッと消えた。表情はそのままだが、目が笑っていない。そして次の瞬間、その表情からは想像出来ないほど冷たい声で呟くように言葉を紡いだ。
「……へぇ、あくまでもシラを切るつもりですか」
ゾクッと寒気が走る。何というか……逆鱗に触れてしまったみたいだ。とにかく謝ろう。これ以上はマズい気がする。
「ご、ごめん!別に悪気があったわけじゃないんだ!ちょっと君の言ってることが分からなくて……」
必死に謝る俺を見て何か思うところがあったのだろうか。少し考え込んだ後、彼女が小さくため息をつく。そしてそのまま何も言わずに立ち去ってしまった。……結局、何がしたかったんだろうか? その後ろ姿を眺めながら呆然と立ち尽くす。しばらくして我に返ると予鈴が鳴っていることに気付いて慌てて学校へと走った。
***
***
これが彼女とのファーストコンタクトだった。それからというものちょくちょく俺に絡んで来るようになったのだが、どうも彼女の態度がおかしいのだ。例えば今日の朝のように。いつもと雰囲気が違う時もあれば、いつもの調子の時もある。
今日に至っては別人かと思うくらい機嫌が悪かったので対応に困ってしまったくらいだ。一体、どっちの彼女が本物なのだろうか。
そんなことをつらつらと考えていたせいでいつの間にか教室に着いていたようだ。
席に着くと前の席に座っている友人に話しかけられる。こいつは俺と同じクラスで仲の良い男子だ。
「よぉ、祐介。お前、朝から大変だったみたいだな」
「あぁ、おかげさまでな……」
疲れ切った表情で答えるとそいつは意外そうな顔をした。
「何だよ、何かあったのか?」
「いや、それがさ──」
朝のことを話し終わるとそいつは少し考えた後、こう言った。
「うーん、それだけじゃ何ともいえないな。直接本人に聞いてみたらどうだ?」
「そうだな……そうしてみるよ」
しかしその後もタイミングを逃して聞きそびれてしまい、授業が始まってしまう。後で聞いてみようと思いながら板書を書き写す作業に集中していたその時、ノートの隅に文字が書かれていることに気付く。
“放課後、屋上に来てください” 顔を上げるとそこには前を向いて座る彼女の姿があった。いつの間に書いたのだろうか。その文字を見て、先程のことを思い出す。そういえば今日はまだ一度も話してなかったな……。
とりあえず分かったとだけ返事を書いて次の問題へと移るのだった。
******「……なぁ、これってどういう状況なんだ?」
放課後、屋上に来た俺は今の状況に戸惑いを隠せずにいた。なぜなら目の前にはニコニコと笑っている件の人物がいるからだ。まぁ、それはいいんだが……何故か背中にフェンスが当たっていて身動きが取れなくなっている。何故こんな状態になっているんだ? 俺が混乱していると相手はくすくすと笑った後、こう告げた。
「言ったじゃないですか、先輩と二人きりになりたかったからですよ」
そう言われてもさっぱり状況が飲み込めない。そもそもこの状況が理解出来ていない時点ですでにアウトなんだが……。それでも何とか会話を続けようと試みる。
「えっと……じゃあこの体勢についてはどう説明してくれるのかな?」
すると今度は真剣な表情で答えてくる。
「そんなの決まってます。今から先輩に愛の告白をする為です」
「…………へ?」
今、何て言った……?告白……?え、どういうことだ……?この子は一体何を言っているんだ……?ダメだ、訳が分からん。誰か助けてほしい……。
混乱する頭であれこれ考えていると不意に頬に手が添えられた。驚いて視線を上げると彼女の顔が近付いてきて思わずドキッとする。そしてそのまま耳元で囁かれた。
「私は先輩のことが好きなんです。私と付き合ってくれませんか……?」
甘く優しい声で囁かれる言葉。それを聞いてようやく理解することが出来た。どうやら彼女は本気らしい。だからこそ余計に分からなかった。どうして俺なんかを好きになったんだろう、と。でもそれよりも気になることがある。それは──。
「……その前に一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「君は俺のことが好きなのに他の女の子と一緒にいるのを見ても平気なのか?もしそうだとしたら、俺は君のことをよく知らないまま付き合うことは出来ないと思うんだ」
これは俺の本心だ。この子のことはまだよく知らないし、もっと知りたいと思っている。それなのにいきなり付き合うっていうのはさすがに抵抗があるし失礼だと思うんだ。……ん?今、自分で言ったことに違和感を覚えたんだけど……気のせいだよな……? そんなことを考えていると彼女がゆっくりと口を開いた。
「ふふっ、やっと気付きましたか?先輩が私のことを好きになってくれるまで絶対に諦めませんからね♪」
そう言ってにっこり笑う彼女を見て背筋が寒くなるのを感じたのだった。
******「──よしっ、完成っと!」
私の名前はエルナ・グランシア。つい先日、転校してきたばかりだけどクラスでは上手くやっているつもりだ。
今日もいつものように学校での出来事を思い出しているとふとある人の顔が頭に浮かんだ。青井祐介先輩──私の想い人でもある人のことだ。あの人のことを考えると何だか胸がドキドキしてくる。初めて出会った時は変な人だと思ったけど今は違う。だって彼は私の運命の人だから。彼さえいれば他には何もいらない。それくらい好きになってしまった。早く会いたいなーなんて思っていたら突然スマホが鳴った。どうやらメッセージが届いたらしい。何だろうと思って確認すると送り主は彼の親友だった。しかも内容は今すぐここに来てくれとのことだったので、よく分からないけど取り敢えず行ってみることにした。
そうして呼び出された場所に向かうと何やら言い争っている声が聞こえてきた。何事かと思い近付いてみると彼と例の編入生ちゃんが一緒にいるではないか。それを見た瞬間、頭の中が真っ白になる。何であんな女と一緒に居るのよ……!そう思ったらもう我慢出来なかった。気付いた時には二人に話し掛けていた。
「──悪いけど知らないぞ。君のようなかわいらしい子と知り合った記憶はないからな」
もう限界だと言わんばかりに感情をぶちまけるとその場を後にした。自分でも驚くくらい大きな声が出てしまった気がするけどそんなことはどうでもいい。とにかく今は二人っきりになれる所に行きたい。そう思いながら足早にその場から立ち去るのだった。
******「はぁ……」
あれから家に帰り自分の部屋に戻ると、深いため息をついてベッドに倒れこむ。今日はもう何もしたくない気分だ。それほどまでにショックを受けているということだろう。理由はもちろんさっきの件である。まさかあの編入生ちゃんに先を越されるとは思わなかった。今までずっと彼の傍に居て一番近くで見守ってきたというのに……こんなことならもっと早く動くべきだったな……と今更ながら後悔する。いや、もしかしたら既に手遅れなのかもしれないけれど。それならそれで諦めるしかないだろう。幸いにもまだ彼に自分の気持ちは伝えていないし、これから伝えることも出来るはずだ。きっと大丈夫……だよね? よし、そうと決まれば早速明日から行動開始しよう!そう心に決めた私だったが──この後すぐに絶望することになるなんてこの時の私には知る由もなかったのである。
次の日の昼休み、俺は例の少女に校舎裏へと呼び出されていた。用件は何となく想像がついているのだが一応確認しておくか……そう思い少女に尋ねる。
「……それで、何の用なんだ?」
しかし彼女は答えることなくこちらに近寄ってくると、おもむろに抱きついてきた。慌てて引き剥がそうとするが意外と力が強いらしくなかなか離れない。そんな俺の反応を見て少女は不満げな顔をした後、こう言ってきた。
「先輩、少しくらいいいじゃないですかー」
「いやいや、よくないから。そもそもこういうのって良くないだろ?」
すると今度はしゅんとした様子で俯いてしまう。その仕草はとても可愛らしいものだったが騙されてはいけない。彼女はそうやって人の油断を誘うのが得意なのだ。だからここは心を鬼にしてハッキリ言ってやらねばなるまい。
「とにかくこういうことはもうするな。いいな?」
「……分かりました」
渋々といった感じではあるがなんとか納得してくれたようだ。よかった、これで一件落着だなと思っていたのだが───再び抱きつかれてしまった。それも先程よりも強い力でギュッと抱き締められているため振りほどくことが出来ない。一体どういうつもりなのだろう。もしかしてこれもわざとやってるのか……? しかしそうだとすると何が目的なのだろうか?考えても全く分からないので直接聞いてみることにする。
「なぁ、いつまでこうしてるつもりなんだ?」
「……もうちょっとこのままで居させてください」
どうやら答えるつもりはないらしい。まぁ、別に減るものでもないし別にいいか……と諦めてしばらくされるがままになっていると突然こんなことを言われた。
「ねぇ、先輩……」
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