エピローグ
僕らは帰る道すがら今日の出来事を話していた。すでに夕日が空を真っ赤に染めていた。
「おじさん、お巡りさん、ありがとう」
僕は2人にお礼を言った。あのままずっと糸を引っ張っていたらどうなっていた事だろう。
「いやいや、それにしても不思議な体験だったな。今まで生きてきて一番楽しかったよ」
おじさんは大きな声で笑った。今まで平穏な人生を歩んできたおじさんにはとても刺激的な一日だったようだ。
「そうだね。本当に不思議な体験だったよ。あの糸は何だったんだろうね。きっと博士が答えを見つけてくれるだろう」
お巡りさんはそう言いながら、一瞬すっと冷静な顔になった。多分、言いながらあの博士には無理だと思ったに違いない。どちらにしてもあの糸の塊はもっと優れた科学者達によって分析、研究されていくだろう。何かの役に立つかどうかは分からないが……。
「ところでこの黒猫はどうするんだい?」
おじさんは僕に聞いてきた。
「また元の空き地の傍に戻してあげる事にするよ」
「そうなのか? なんだか坊主に懐いているように見えるぞ」
「でも、やっぱり猫って自由な方が良いんだと思う。放してやってそれでも付いてきたらうちに連れて帰るよ」
おじさんとお巡りさんとは空き地手前のおじさんの家の前で別れた。
僕はそのまま黒猫を空き地の傍に連れて行き、そっと手を離した。黒猫はじっと僕を見上げている。
「今日は大変だったね。もうあんなおかしな物飲み込むんじゃないぞ」
僕は黒猫の頭を撫でた。「じゃあ、またね」
そう言って手を振ると、黒猫はくるりと背を向けて薄暗くなってきた路地を歩き始めた。
僕はその後姿を見てはっとした。黒猫のお尻の穴からは再び白い何かが顔を出していた。
猫の糸 江良 双 @DB1000
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