埋る
俺が無心で穴を掘り終えると、ユウコさんはハンドバッグからビニール袋を取り出した。袋が何重にも重なっているのか中は見えない。
「さすが男の子だねえ、私だったらこんな早く掘れないよ。さ、埋めるよ」
「いいんですか、犯罪ですよ」
「いいんだよ、犯罪でも」
どうして、と漏らすとユウコさんは穴を見下ろして、見たことのない表情をした。余裕のない、寂しそうで、悲しそうな顔。
「世間のおもちゃにさせたくないから、かな」
そう言うと、ユウコさんはそれっきり黙ってビニール袋を開け始めた。異臭が当たりにただよう。誰かに通報されてしまいそうな臭いだ。
穴の中に中身を落としてから、静かに手を合わせる。人間というにはもうだいぶ形が変わっていたけれど、ユウコさんは慈しむような目でその塊を見下ろしている。
「ありがとね、埋めちゃおっか」
ユウコさんは、自分の手が汚れるのも構わずに土をかけていく。俺はそれに続いて、スコップで土を戻した。
掘るときの半分の時間で、地面は元通りになる。落ち葉を乗せて掘った後を隠せば、どこに埋まっているのかもわからなくなった。
「なくなっちゃった」
「なくなりましたね」
「内緒だよ」
「言えませんよ、誰にも」
「来世はもっと良いママのところに産まれてきてね」
パパもだろ、と言いたかった。
ユウコさんは大きく伸びをして、地面に置いていた荷物を持ち上げる。
「ねえ、カレー食べる?」
「……ユウコさんの家でなら」
返事の代わりに土のついた手で俺の頭を撫でたユウコさんは、少年は可愛いなあと呟いた。
誰にも内緒の弔いを 入江弥彦 @ir__yahiko_
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