「うれしぐすくぬー」2(十月九日~十月十五日)――月波・蔵六140字リレー小説

第二節『発現』


♥月波 @tsukiandnami


〈起きろわらし

誰かの声がする。知らない声。たぶん大人。背中が冷たい。

〈さっさと起きんか、この餓鬼が!〉

アタマにがんがん響く大声に堪らずボクは目を開けた。薄暗い部屋。

いや、部屋じゃない! ここは洞窟のはず。変な形のあおく光る石を見つけて、それを手に取って……。そこから先の記憶は無い。

―――――午前7:48 · 2023年10月9日



身体を起こした。怪我してる様子はないや。さっきより薄暗い。横を見ると男の子が倒れてる。大濠おおほりくん、だっけ。それよりも気になるのは光る石。ボクのすぐ前に落ちてるそれは光が減って、大きさも縮んでる。拾ってみたら、一方の面が平らになってた。

〈うぬらが割ってしまったのよ〉

え?あんた、誰?

―――――午前7:49 · 2023年10月9日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


隣の動く気配で気がついた。倒れてた。なんで?

〈目醒たようじゃな〉

誰? 何?

われはミギリ。この島のノロじゃ。いや、ノロじゃったというべきか〉

耳のすぐ横から聴こえてくるその声はかなり年配のそれだった。男か女かもわからない。

〈女じゃ、うつけ!〉

「思ったことガラス張りになってんの?」

―――――午後6:33 · 2023年10月9日



〈お主とわれは同じ処におるからの。そこの石、マブイルリを拾うてみい〉

目の前に落ちてる光る石に手を伸ばす。さっきと形が違う。というか、小さい。半分くらい。

〈半分になっとる。お主らが落としたからだが、違うかもしれん。そう簡単に割れる石でもないでな〉

ミギリと名乗る婆さんはそう言った。

―――――午後6:34 · 2023年10月9日




♥月波 @tsukiandnami


〈儂を知らんのか、このたわけが! 島随一最強ユタと言えばこの儂、ニジリのことよ〉

突然頭の中に湧いてきたくせに、何この婆さんのでかい態度は。

〈湧いてきたのはうぬの方じゃ。ゆっくり寝とったところに落っこちてきよって。のうミギリ〉

混乱するボクの後ろで大濠おおほりが声を上げた。

気づいたみたい。

―――――午前9:03 · 2023年10月10日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


ミギリ婆さんの話を聞いてたら、後ろから声をかけられた。

大濠おおほり、怪我してない?」

ちぎりだ。僕も起き上がって応えた。

「身体は大丈夫。でも頭ン中がちぃっと」

「もしかして、別の人がいたりする?」

ってことは、契の頭の中にも?

「うん。信じ難いだけんど、さっきからミギリって婆さんが喋っとる」

―――――午後7:23 · 2023年10月10日




♥月波 @tsukiandnami


〈ミギリ、そっちにおったか!〉

「知り合いなの?」

〈知り合いも何も、ふたりでアマミキョ様を抑えておったのじゃ。ま、儂ひとりでもできたがの〉

「アマミキョ様?」

ふと見ると大濠おおほりがきょとんとしてる。何、その怪しい人を見る目は。

ちぎり……さん、もしかしておめも誰かと話してっけ?頭ン中で」

―――――午前7:50 · 2023年10月11日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


ちぎりと僕は、お互いが中の婆さんの話を聞きながら情報を交換した。

どうやら婆さんたちは大昔の巫女で、アマミキョって神様が暴走しかけてたのを共闘して治めたらしい。ミギリはノロで、ニジリはユタ。ノロはよく判らないけど、ユタは聞いた気がする。修学旅行のガイドつくるとき調べた本に出てたっけ。

―――――午後8:47 · 2023年10月11日



〈ノロは王国勅使の祭司じゃ。ユタの如き民草の口寄せなぞとは格が違う〉

頭ン中でミギリが罵声を上げている。たぶんちぎりの方でもニジリが逆のこと言ってるのだろう。

とにかくふたりはアマミキョの封じ込めに成功したが、そのとき使われたのがマブイルリ。あの石だ。そこに神様と一緒に封印されたのだ。

―――――午後8:49 · 2023年10月11日




♥月波 @tsukiandnami


まだ世界がミネストローネスープみたいに混沌としていた頃、アマミキョという女の神様が現れて琉球世界を作り始めたんだそうな。まず最初、自分の体の一部を使って男の神シネリキョを産み出し伴侶とした。それから島の大地と豊かな作物をつくった……。

よくある国造りの伝説ね。古事記みたいな伝承。

―――――午前7:19 · 2023年10月12日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


でも神様ってやつはときどき気まぐれを起こす。

緑豊かな自然や豊富な海産物で琉球の王国は見事に栄えるんだけど、そのときどきの気まぐれで大きな打撃を受けることもしばしばあった。

で、ミギリやニジリのいた時代にもアマミキョ様はへそを曲げられて、国が滅びそうになったのだ、とミギリは語った。

―――――午後6:33 · 2023年10月12日




♥月波 @tsukiandnami


暴走がエスカレートしていく神様たちを鎮めるため王国中のユタが集められた。神聖な山で掘り出された貴重な瑠璃もいくつも使った。

そして主神アマミキョには、史上最強のユタを自称してるニジリを巫女に登用し、ノロの祭司長だったミギリを補佐として儀式を執行したそうだ。国宝級の瑠璃を手にして。

―――――午前7:48 · 2023年10月13日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


ふたりの(主にミギリの)力によりアマミキョ様は怒りを鎮め、自ら進んでマブイルリに入られたのだが、一人きりで封じられるのは寂しいと我儘を言い出した。同伴としてミギリと、ついでにニジリのマブイも入らなければまた暴れる、と。

かくして、神様と巫女ふたりを封印した石ができあがったワケだ。

―――――午後7:00 · 2023年10月13日




♥月波 @tsukiandnami


〈マブイとは、うぬらヤマトンチュの言葉で言えば魂。その魂を封じる石。それがマブイルリじゃ〉

壮大過ぎて追いつかないとこもあるけど、概ね理解した。でも頭の中に貴方たちがいるのはどういうこと?ボクらはマブイの貸金庫じゃないよ。

〈判っとらんようじゃな。落ちたのはうぬらのマブイの方じゃ〉

―――――午前7:11 · 2023年10月14日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


琉球の伝承にはマブイ落としというのが普通にあるらしい。ぼーっとするようになった人は、どこかでマブイを落としてきてしまってるので、それを探して本人に戻してやるのもユタの仕事のひとつなんだとか。

〈下賤なユタにはお似合いの仕事じゃ〉

ミギリは憎まれ口を叩く。それが今の僕らとどう繋がる?

―――――午後6:23 · 2023年10月14日




♥月波 @tsukiandnami


「ボクらが魂を落としたってこと?じゃあ今動いてるこの身体はどうなってるの?!」

頭の中の声に、思わずボクは声を上げて問い詰める。大濠も驚いてボクを見た。

〈今のうぬらのからだ屍人しびと同然の抜け殻じゃ。生きて動いておるが、中身の主人がおらん。普通に動けとるのはすぐ傍にマブイがおるからじゃ〉

―――――午前7:18 · 2023年10月15日




♠笠地蔵六 @kasajizorock


「ニジリさん、なんて言ってるの?」

表情が変わったちぎりは僕に答えた。

「ボクたち、ゾンビなんだって」

「ゾンビぃ?!」

「魂を、マブイを落としたから、体は死人なんだって」

狼狽える僕。

からだは死んではおらぬ。が、今のお主らのマブイは吾らとともにそのマブイルリの中におる。いわば同居人じゃ〉

―――――午後6:31 · 2023年10月15日

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