「エミールの旅」18(九月十一日~九月十七日)――月波140字小説
月波 @tsukiandnami
数日の間に衣服や髪型を誂え、すっかりエミールからエミリーに変わったボクが最後にリヒラに連れてこられたのは、同じ年頃の女の子達ばかりの施設だった。
「ここが学校だよ。お前は今日からここで暮らす。歴史や文化、文字と数、世界の理、そして仲間との生活を学び、自分の物差しを育てていくんだ」
―――――午前0:02 · 2023年9月11日
木々に囲まれた石造りの校舎は瓦解前の建造物のようで、百年を越す年輪を未熟なボクにも感じさせてくれる。開け放たれた窓からは、少女たちの明るい唄声が聴こえている。
「ここで、学べるの?」
呟きのようなボクの言葉に、リヒラは顔を向けた。
「お前はここで学び、ここで暮らすんだよ、エミリー」
―――――午前0:35 · 2023年9月12日
「リヒラはこれからどうするの?」
自分のことで頭がいっぱいだったボクは、ようやっと落ち着いてそのことを尋ねた。
「俺は変わらん。もうしばらく、お前が寮に入るまでは一緒にいて見届けて、そのあとはまた、あちこちの村を回って種を蒔く生活に戻る」
「ボクの村にも寄る?」
リヒラは首を振った。
―――――午前0:42 · 2023年9月14日
「あの村には、請われなければもう二度と行かない」
ボクは絶句した。
「あの村で女の子が生まれたとしても俺は用無しだ」
なんせ娘だからなと自嘲するように吐き捨てた後、リヒラは顔を上げた。
「だがもしお前があの村に戻り再び元気な町を興したのなら、客として呼んでくれ。そのときは、必ず行く」
―――――午後6:38 · 2023年9月15日
あれから六年経ち、私は
見聞を広め現状を
私の傍には実学と測地を学んだパートナーがいる。そう。あのヤナハ。
―――――午前7:55 · 2023年9月16日
一昨年にフィールドワークで寄った街ではあの娼館を訪ねた。サリもインゲも元気だった。女主は私を見て満足そうに目を細めていた。
旅の途中には雪の町にも寄った。あのあと生まれたという子は、もう六歳。母親たちの裁縫仕事をじっと見つめている。私はニライカナイの珍しい糸や布を土産にしていた。
―――――午後7:06 · 2023年9月16日
天幕の村は無くなっていた。でも廃墟はなかったから、何処かに移動したのだろう。カリと橇を買った村はまだあった。あの頃の子供たちは少し減っていたけれど、みんな村の担い手になっていた。赤毛の彼は、私を見るとにぃっと笑ってお嫁さんを紹介してくれた。尋ねたら、別の村と人の交換をしたらしい。
―――――午後1:24 · 2023年9月17日
私たちは川に近い台地を集落とすることに決めた。背後に豊かな森が控え、川は下流で広くなって海にも繋がる。船を使えば、ニライカナイにだって行ける。対岸は増水でできた肥沃な平地だから農地には最適。
「まず橋を架けよう。ここならきっと数年で千人の町にできる」
そう太鼓判を押したのだ。私が。
―――――午前0:10 · 2023年9月18日
https://twitter.com/tsukiandnami/
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