「エミールの旅」17(八月二十八日~九月三日)――月波140字小説
月波 @tsukiandnami
「ねえ、リヒラ」
ボクは顔を上げて尋ねてみた。
「お父さんとお母さんに、新しい希望はプレゼントできたの?」
少しだけ困った顔を見せたリヒラは、ボクに小さなタオルを差し出しながら答えてくれた。
「ああ。少なくとも手渡すことはできた。無事産まれ、育つことができるかは、お前の両親次第だよ」
―――――午後9:17 · 2023年8月29日
タオルで思いっきり顔を拭った。涙も汗も鼻水も、余すところなく全部。そうしてピカピカになった顔で、できる限り最高の笑顔をつくってリヒラに言った。
「ぜーんぶわかった。父さんと母さんの想いかあるからボクがここにいるってこと」
それから、考えてたことを口にする。
「ボクは、勉強がしたい」
―――――午後8:20 · 2023年8月30日
「ものづくりの基礎は父さんと母さんに教わった。だからこれからはもっと知識を得て、歴史を学んで世界を知って、リヒラみたいに人と関わっていけるようになりたい」
話してるうちにどんどん前のめりになるボクを嗜めるように、リヒラはゆっくりと話す。
「俺の真似などしなくてもいい。お前はお前だ」
―――――午後8:45 · 2023年9月1日
「今、俺たち人類は黄昏を迎えている」
リヒラは厳しい顔で俯いた。
「あと十代、保つかどうかもわからん」
でもな、と言って顔を上げるリヒラ。
「稀にだが、人が増え、大きくなる街もあるのだよ」
目に力が漲る。
「そういう街は、例外なく女たちが立派だ。賢く聡明で、しかも体も強く、更に多様だ」
―――――午後8:21 · 2023年9月2日
だが、とリヒラは続ける。
「学問を究めた女はまだまだ少ない。学問と生活力、それに知見が加わった女たちが増えれば、人の世界は新しいフェイズを迎えられる。世界を見てきた俺はそう思う」
リヒラは真っ直ぐボクを見据えた。
「だからエミール、お前はそんな女を目指してくれ。最初の門は俺が開く」
―――――午後9:43 · 2023年9月3日
https://twitter.com/tsukiandnami/
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