事件の起結と解決

 野次馬も騒然とした。何せ、家が水にかわったのだ。当然、みんなイルカショー最前列のように濡れたが、俺は前の人の影となったので、少し程度の濡れで済んだ。「犯人は」という男、ギャラリーか警察かわからないが、とにかく怒号が聞こえた。大量の、それこそ滝のような水も落ち着き、飛沫も落ちていく。

 よく目を凝らすと、人が二人いることがわかった。ある種の爽やかさ、恐らくそれは水の清涼感によるものなのだが、無くなった。

「まだいるぞ」

 野次馬の一人が言う。確かに、まだ人影は見えた。が、次の瞬間にはいなくなっていた。代わりに、なのか、もう一度悲鳴が上がる。犯人と共にいた、人質の女が倒れた。

 体の中で、何かが脈打つ。いつの間にか手首に腕時計をつけた方の手、右手を開いた。口から滑るように言葉が出る。人質をしっかりと目で捉えた。

『視界内の人間の過去一分以内に受けた傷を全て俺が肩代わりする契約』

  自分でも何が起きているかわからない。腹の横が熱い。赤いしみが服を覆って行くのがわかる。熱さの中で確かな痛みを感じた。学がこちらを振り返る。意識が段々と消えていく。目を覚ましたら治っていて欲しい。

  

 目を覚ますと、それは知らない天井だった。言ってみたかったセリフだ。起き上がろうとしたところで、先程の現実を頭が受け入れた。反射的に、服を捲り、腹をみた。絆創膏が貼ってあるだけで、傷も何も見当たらなかった。

 まあ死ぬよりは安全だ。一度自分を落ち着けてみる。冷静なり、というか寝ぼけが治ると、かちゃかちゃと何か作業をする音が聞こえる。

 周りを見渡す。部屋は和室で、畳の匂いが安心感を与えた。俺は布団の上で寝そべっていたらしいが、布団の割にはベッドのように柔らかかった。こう言うことは覚えているのか。

「ああ」

 試しに声を出してみる。こちらも不調はなかった。咳払いも必要ないほど明瞭だ。

 何やら、こちらに向かってくる足音が聞こえた。学だろうか。と、言うかだ。ここは誰の敷地の、誰の和室の、誰の布団のうえなんだ。襖が開く。顔を覗かせたのは、学。でもなく、人質の少女。でもなく、知らない他人だった。目の青い、赤の他人。知っていた人かもしれないが。

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Dragon house 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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