能無しの爪とコモドオオトカゲ 2

 たてこもり?

「ああ。しかも、数人とシェアハウスしているんだが、その一人が偶然中にいて、人質に取られたそうだ」

 ちょっと待ってほしい。一度に入ってくる情報が多すぎる。まず、シェアハウスは陽キャのイメージなんだが。

「まず聞くのはそれじゃなくないか?」

 学が橋から離れ、早足でどこかへ向かうので、とりあえず着いて行くことにした。

 命の恩人さんがピンチとなったら、私も手伝うしかありませんな。

「いいのか?」

 困った時はお互い様、だろ?

「決め台詞っぽく言っているが、いや、まあ感謝しておこう」

 何を言おうとしたのか、最高のケースはわからないが最悪のケースならば安易に予想できた。

 そういえば、なぜ自殺しようとしたのかも忘れたが、この辺りは見たところそんなに、と言うか全く人通りも多くない。なぜ学はここにいたのだろうか。

 

 ここだ、と学が指差した家は、一般的に豪邸、と呼ばれるものを一回り小さくしたくらいの大きさで、学生が四、五人は住めそうだった。家の周囲には黄色と黒の警戒色で彩られていた。張り巡らされたテープの内側には警察もいたが、私服の、宇宙飛行士のワッペンをつけた男もいた。

 学、警察じゃない、あの私服のやつはなんなんだ?

 聞くと、学は驚いた目で俺を見てきた。

「龍、ナイトのことも忘れたのか?」

 知らないな。恐らく俺が思い浮かべているナイトとは違う。

 頭の中には白い馬の首から上が浮かんでいる。

「まああとで説明するが、彼らは簡単にいえば能力が使える警察だ」

 例えば学の、なんだっけ。

 そういえば、副作用だけ聞いてはいたが、能力自体は聞いていなかった。学はああ、そうだったなと呟くと、俺に向き合った。

「俺の能力は、『負荷』だ。現象や行動を不可能にできる」

 が、と学は切り返す。野次馬の人混みが俺を押してきて不快だった。

「さっき言ったように人に使うと記憶を消してしまうかもしれないし、ひどく疲れるんだ」

 他にも副作用があるんだな。

 学は眼鏡を曲げた人差し指の第二関節で押し上げた。

「俺も仕事してくる」

 躊躇せずテープをくぐり、例の制服の人物に話しかける。どうやら、彼もその、ナイトの一員らしい。

 なかなかに子供に人気の出そうな仕事だ。学じゃない私服の方、と言っても学は恐らく学校の制服を着ていたので、テープの中に私服は一人しかいなかったのだが、まあここは宇宙飛行士とでも呼んでおこう。

 そんなことを考えていると、学の

「中にいる同居人も能力者ですから」

 という声と共に、学の家が水に変わった。

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