Dragon house

宇宙(非公式)

Rehouse「日華 未姫」

能無しの爪とコモドオオトカゲ 1

 どこまで覚えている?


 目の前に、広い川が広がる。どこまでも続きそうで、流れを追うが、足元の橋に遮られる。一つため息をつこうとすると、ぐら、とバランスを崩してしまった。俺の人生の終わりにはとても適当なものに思え、目を閉じる。最後に、俺の家のことを思い出し、記憶が途切れた。


 と、いうことを目の前に立つ少年に伝える。

「おそらく、それで全部だ」

 川の流れる音がまだ聞こえて、耳をくすぐる。誰か川に猫じゃらしで仕返しをしてくれ。目の前の彼は欠伸をして、生物学の本を鞄にしまった。

「さて、君の名前と住所を聞こうか」

 俺の名前は家入龍いえいりりゅう。住所は、

 言おうと思って、止めた。と、いうか。言えなかった。そもそも、自分の家すらも、親すらも、人間関係すらも覚えていない。

「どうした?」

 いや、何も思い出せない。

「ああ、それは俺のせいかもしれない」

 は?

 訳もわからず置いてかれるが、構わず少年は鞄のファスナーを開ける。そして、生物学の参考書を出し、手に取った。

「俺の能力の副作用で、人物に使った場合、その人物の記憶が損なわれる場合があるんだが」

 ほう

「お前、龍を止めるのに使った」

 感謝しづらいし怒りづらいな。ありがとう。

「礼には及ばない」

 いや、自分で言うのもあれだって分かってるんだけどな。

「なんだ」

 いや、なんでもない。

「そうだろう」

 言いたかった言葉は心の中に押し込め、なんとか他の記憶を思い起こそうとする。思い浮かんでこなかったため、そう言えば聞いてなかった彼の名前を聞いてみる。

「俺の名前は菱形ひしがたがくだ。三菱の形を学ぶで菱形学」

 俺が三菱の菱を分からないのは置いておいて、同年代のようだし、一応命の恩人でもあるので、とりあえず学さんと呼ぶと、呼び捨てにしてくれと頼まれた。

 すでに斜陽が傾き始め、ダイレクトな日光が目を指す。そう言えば、能力と聞いて思い出すものがあった。

 俺の能力は契約みたいなやつだった気がする。

「契約、か?」

 ああ。

 俺は左腕に着けている腕時計を取り、学に見せる。夕陽が反射して、丸い光が学の首を照らした。

これを掲げて、契約するんだ。条件付きだけどな。


そう説明しかけて、遮られた。学の携帯電話が鳴ったのだ。学が電話に出る。彼はフィラーを挟みながら、だんだんと顔を険しくする。スマホをポケットにしまった。

どうした?

「俺の家が立て篭もりに使われた」

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