第8話 これで異世界転移被害者に俺の存在が伝わるだろう

 俺らが控室で出番を待っていると、案の定、市長が尋ねてきた。


「マサチカ・サナダ様。昨夜は失礼いたしました」

「何の用だ?」


 市長は昨日とはうってかわり、猫なで声で媚びるように腰の低い態度だった。


「いえ、お二人の実力、御見それいたしました。不勉強の身故、気づきませんでしたが、さぞ、名のあるお方なのでしょう。そこで提案なのですが、わざと引き分けになり、クルズ王子との同時優勝というのはいかがでしょうか? また、優勝賞金の三倍、3000万ダールをお支払いいたします」


「悪いけど俺らの目的はできるだけ高い名声なんだ。あくまでも単独優勝を狙わせてもらうよ」

「そう言わずに。それに、これはマサチカ様のためでもあるのですよ。相手は一国の王子、下手に勝ってしまうと、ねぇ」

「僕が直接話そう」


 市長の声を遮ったのは、くだんのクルズ王子本人だった。

 廊下の奥から、白銀の衣装をまとい、まっすぐこちらに向かって来る。


「悪いことは言わない。棄権したまえ。本気で来ると言うならば、こちらも手加減はできないよ」


 ――あれ? やっぱり俺のこと知らない? 俺、厳密にはライツはお前の親父さんをボコったんですけど?


「随分な自信だな。言っておくけど、ライツはお前の三倍は強いぜ」

「なら、今この場で君を消してやろうか?」

「先に消えるのはお前なのです」


 持ち上げようとしたクルズの手の甲には、ライツの銃口が押し付けられていた。

 美貌が歪み、一歩下がった。


「ッ、世渡りのわからない奴め。いいだろう、所詮君らには僕の崇高なる使命の重み何てわかるわけもない。試合じゃ格の違いを教えてあげるよ」


「試合前に相手を脅してまで果たす崇高な使命なんて知るかよ。それに、本当に格上なら八百長なんて卑怯な手を使わなくても勝てるだろ」


 クルズは舌打ちをして踵を返した。

 市長も、慌ててその背中を追いかけた。


「どうやら王子の出来レースらしいな。ライツ、いけるな?」

「当然であります。あの金髪野郎をぎゃふんと言わせてやるのです!」


 ――お前も金髪だけどな。


 俺が心の中でツッコむと、廊下のほうから二人の会話が聞こえてきた。


「いいのですか王子? 王子はこの試合に勝って国威を示して王位継承を有利に進めるのでしょう?」


「ああそうだ。父上が異世界人のせいで政務不能になったせいで急遽代理の王を立てることになったが代理者がそのまま次期国王になるのは必定。だが暴君の兄上と暗君の姉上が王位に就けば王国は滅ぶ。ここは多少卑怯な手を使ってでも僕が王にならねば!」


「王子、立派なこころざしです! ぐすん」


 ――…………、……、……あれ? 俺のせい?



   ◆



 15分後。

 なんの妨害も裏工作もなく、ライツは決勝戦を迎えていた。

 それだけ自信がる、ということだろうか。

 一応は、俺は周囲を警戒しつつ、選手入場口からライツを見守った。


「それでは決勝戦! はじめぇ!」


 試合開始と同時に、ライツは突撃自動小銃を構えて連射した。

 が、クルズが詠唱破棄したのは先程の雷撃魔法ではなく防御魔法だった。

 クルズの周囲をドーム状の光が覆い、全方位をカバーしている。

 数十発の弾丸はそのバリアを突破できず、リングに力無く転がった。


「これが僕の奥の手の一つ、完全防御魔法さ」

「でもそれだとお前も攻撃できないのではないのですか?」

「いや、できるさ」


 クルズが指を鳴らすと、バリアの外側、遥か上空に雷雲が現れ、渦を巻きながら雷鳴を響かせた。


「完全防御からの上級雷撃魔法の連続使用。僕は安全圏から君がぶざまに後悔する様を見せてもらうよ。さっき、僕の命令を聞かなかったことをね!」

「……」


 らしくもなく、ライツは動かなかった。

 まるで、敵の真意を測りかねているように。


「待つのです。お前さっきから何か変じゃ――」

「喰らえ!」


 ライツの言葉を遮るように雷鳴が轟き、雷光が俺の眼の奥を刺した。


 ――やばい! 奴の狙いは俺だ!


 だが、雷光が俺に届くことはなかった。


「司令官殿!」


 雷撃が放たれる直前、ライツが電光石火の勢いで鋭く跳びあがり、その身を挺して俺をかばった。


 代わりに、彼女は雷撃を浴びて悲鳴を上げた。


「ライツ!」


 俺の眼の前で、愛したヒロインが墜落していく。


 心臓が凍り付くような恐怖に足が震え、彼女がリングの上に頭から落ちる光景には、現実逃避をしたくなるような絶望感を与えられた。


 その時の俺は酷い顔だったのだろう。

 クルズの顔は喜びに満ちていた。


「ふっ、馬鹿な奴だ。まんまと僕の掌で踊らされて、なッ!?」


 俺とクルズの視線の間で、ライツは跳ね起きた。

 その体には、傷一つついていない。


「ライツ!」


 ――よし! 腎臓兵器少女の特殊シリコンの耐電性能の勝利だ!


 俺は喜びのあまり、ガッツポーズを取った。

 けれど、ライツは俺の声には反応せず、怒りに燃えた声を漏らした。


「お前、よくも司令官殿を狙ったでありますね……もう、容赦はしないのであります! くたばれ金髪クソ野郎!」


 叫びながら、ライツは手榴弾サイズの何かを投げつけた。


「ふん、そんなもの、この防御魔法で――」


 クルズの声をかき消す爆音と光がリングを満たした。

 それは手榴弾ではなくスタングレネード。

 人知を超えた光と音で敵の目と耳を潰す制圧兵器だ。


「ぎゃあああああああああああ! 目、目がぁあああああああああああ!」


 完全防御魔法と謡っていたクルズはバリアの中で両手で目を押えて転げまわっていた。


「バリアの中でもジブンの姿も声も見えているし聞こえているようだったのでもしやと思いましたが、どうやらその魔法は音と光は遮断できないようでありますね。そして」


 彼女は量子空間から、一本の刀を実体化させた。

 超硬合金でも紙切れのように切れる切断兵器、高周波刀ヴァイブロ・ブレードムラマサだ。


「喝ッ!」


 裂ぱくの気合いと共にライツはムラマサの刀身をバリアに叩き込むと、そのまま強く押し込んだ。


 毎秒数万回の振動であらゆる物質を破断してしまう魔性の刃はチェーンソーの上位互換であり、ただ触れているだけで毎秒数万回も切りつけられているかのような効果を発揮する。


 あの魔法の防御能力はわからないが、それでも、流石にそんな異常攻撃は想定していないだろう。


 案の定、数秒でムラマサは防御魔法を貫き、突破した。

 が、そこまでだ。

 刀身を全部差し込むと、それ以上は奥へ行けない。

 刀の切っ先は、のたうちまわるクルズまではまだ距離がある。

 しかし、問題は無かった。

 ムラマサは、スペツナズナイフのように、グリップのスイッチを押すと、


「死ヌデアリマス!」


 刀身が飛ぶ。

 音速で飛び出した刀身がクルズのケツに刺さった。


「院ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 断末魔の叫び声だとしても圧倒的絶望感に満ち溢れた絶叫の後にバリアは消滅。刀身も量子化されて、クルズはケツから血を噴きながら痙攣すらせずに動かなくなった。


 俺は一切の情けもなく、悪は散ったと頷いた。

 市長が慌てながら駆けつけ、クルズは救護班によって運ばれた。



 会場がどよめく中、ライツは優勝者インタビューを受けたが、


「ジブンの勝利は全て司令官殿のおかげであります! 司令官殿! 是非とも一言!」


 そう言って、俺をリングの上にいざなってくれた。


「それではマサチカさん、勝因はずばりなんでしょうか?」

「勝因? それは……」


 満員御礼の会場に俺は一言言ってやった。


「まっ、俺らは魔法よりも強い武器を使っているんで当然ですよ。この俺、真田正親率いる傭兵団、日の丸隊をよろしく!」


 これで、ワープ被害者にも俺の存在が伝わるだろう。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――人気になったら本格連載したいです。

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美少女アーミー部隊の司令官は異世界で魔法を使わず人類の魔法文明にざまぁします 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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