第7話 ライフル連射はアダマントを超える
本物の推しヒロインと添い寝するという天国のような一夜が明けると、コロシアムはリトナ闘争祭準々決勝の開始で客のボルテージは上がる一方だった。
「それでは準々決勝第一試合はじめぇ!」
ライツは早撃ちをしなかった。
彼女は拳銃を握ったまま、冷静に敵の異常事態を観察していた。
敵は黒尽くめの暗殺者風の男で、人数はおよそ30体。
言い間違いではない。
本当に、俺の視界には30体以上の黒尽くめが佇んでいた。
――分身の術か……けど。
「フハハハハハ。どうだライツ・サナダ。どれが本当の我かわかるまい?」
ライツは拳銃を突撃自動小銃に切り替えると、レバーを短髪モードから連発モードに切り替えて引き金を引きっぱなしにすると、空を薙いだ。
「ガッ!?」
短い悲鳴、感発を容れず、ライツは悲鳴の発生源に集中砲火した。
なんてことはない。
複数の敵を射殺する、二次大戦時からある射撃術だ。
もっとも、連弩でさえ毎秒一発が限界であろうこの世界の文明レベルでは絶対にない発想方法だろう。
「勝ったのです」
観客の声援を浴びながら、ライツはクールにリングを去った。
「おつかれライツ」
「ふふん、当然なのです」
褒めて欲しそうに、ライツはドヤ顔で大きな胸を張った。可愛い。
思わず頭をなでてしまうと、彼女の喉の奥から子猫のような声が漏れた。さらに可愛い。
「さぁそれでは皆様、準々決勝第二試合ですが、出場予定のボルガーが選手の負傷が重く、棄権となりました。しかし、不戦勝では面白くない。そこで、市長がスペシャルなリザーバーを用意致しました!」
――リザーバー? ようするに補欠か?
「そのお方はなんと! 隣国バーナム王国の第三王子、クルズ様です!」
客席が盛り上がる一方で、俺はライツに耳打ちした。
「おい、確かバーナム王国って」
「はい。司令官殿を召喚したクズ王の国です」
まさかもう追手が来たのか。
バーナム王国からすれば、俺は王殺し未遂のテロリスト。
でも、だったら闘争祭に参加する必要はない。
真意を測りかねていると、俺らの隣を相手選手が通り過ぎてリングイン。
反対側の選手入場口からは、金髪の美青年が入場した。
実況、開設者がクルズ王子の説明をして、クルズ王子が観客に挨拶をすると試合開始。同時に、クルズ王子の右手が閃いた。
「サンダージャッジメント!」
まばゆいばかりの雷撃は、クルズ王子が詠唱するよりも前に発動していた。
実質的な詠唱破棄だ。
雷撃は相手選手を一撃で気絶させ、試合は瞬殺で終わった。
――へぇ、あいつ強いな。
それに、雷撃なら弾丸も影響を受けてしまう。
これは、ちょっと手ごわいかもしれない。
「?」
クルズ王子は観客に手を振り退場するも、一瞬、俺らを一瞥した気がした。
◆
「それでは、これより準決勝を開始する! 試合はじめぇ!」パパパパパンッ!
目にも止まらぬライツの早撃ち二丁拳銃バージョン。
だが、全て鋼の鎧に弾かれてしまう。
「残念だったな。私は北の英雄、ノルス! 我が家に伝わりしこの鎧は伝説の金属アダマント製! 傷つけるには同じくアダマントの武器が必要なのだ! そして」
兜の目元、スリット部分で何かが弾けた。
「無駄無駄。上級防御魔法でスリット部分も覆えば私に死角はない! 装備差が出たなぁ! では喰らうがいい、魔法剣士である私の奥義を! 灼熱の秘剣!」
ノルスが芝居がかった口調で口上を吐いている間に、ライツは武器を拳銃から対戦車式チェーンガンへと変えた。
150センチの身長には明らかに不釣り合いな、ガトリング砲クラスの砲門を両手でがっちりと抱え込み、腰を落としたライツはまるで自身を砲台へと変えようとしているようだった。
「FIRE!」
彼女が引き金を引くと、毎分12000発という殺人的な連射が弾幕となりノルスに殺到した。
「ふっ、こんな豆粒が効くわけがないだろう。いいだろう、好きなだけ撃つがいいさ!」
ノルスは余裕の声だが、俺にはライツの狙いが分かっていた。
チェーンガンから伸びる大蛇のように長い弾帯がみるみる消費されて、足元はから薬きょうが山のように積み上がっていく。
が、彼女の弾幕はみるみる狭まり、収束していった。
そして、彼女手ブレが消えて弾丸が綺麗な一列を描いた直後、ノルスの鎧が砕け散った。
「なぁっ!? がぐぁああああ!」
ノルスは鎧の穴から血しぶきを上げながら倒れ込み、苦しみの声をあげた。
「な、何故だ……アダマント製のこの鎧が、まさか、貴様の武器もアダマントなのか?」
「いえ、これは単なる連射効果なのです」
「?」
「短髪を10発撃つよりも10連射のほうが破壊力があります。これは前の弾丸の衝撃が残っている間に二発目、三発目が対象に当たることで衝撃の重ね掛け現象が起こり崩壊へと導きます。また、水が岩を穿つように強度は関係ありません。対象を破壊できる運動エネルギーがあればいいのです」
「……わけがわからん」
その言葉を最後に、ノルスは気絶した。
――さてと、これで俺らは決勝に上がるわけだけど、市長はどう出るかな?
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