第27話 お姉さんの帰り道
……散々だ…………散々な一日だった。
放課後の帰り道、並木道を一人で歩き家へと向かう。
ため息交じりに改めて今日を振り返ってみると、ホント泣けてくる。
寝坊に始まり、遅刻からの物忘れ。しかもなぜか持ってきた自宅のまな板。
酷かった、とにかく酷かった。
普段はなかなかしないことをこうも連発するとは……。
いつも以上に長く感じた学校もようやく終わって、こうして家路についているわけだけど、なんだか足取りも重い。きっと鞄に入っているまな板のせいってだけじゃないはずだ。
でも……だからといっていつまでも引きずってはいられない。テストだって近いんだ。
「こういう時は気分転換。そうよ気分転換をしましょう!」
こんな酷い気分、さっさと吹き飛ばすに限る。そして明日からまた元通り。これで完璧だ。
そうよ、そうするべきよ。
そうと決めれば、なんだか足取りも軽くなって気分も明るくなった気がするぞ。うんうん、スキップだってしちゃうんだから!
「さてさて、なにをしようかな……」
あれやこれやと私の頭の中で、考えを巡らせようとした。
その時、それはふとやってきた。
「あれ……?」
想像を巡らせていた思考が行き場を無くし、軽やかになりつつあった足も止まる。
代わりに湧き上がってきた意外な答え。
その答えに、私は戸惑いを隠せなかった。
「気分転換って、なにすればいいんだろ……」
ひばりなら、それこそアニメや漫画とかを見たりするよね。
夕凪ちゃんも、ポイッキュアは好きだけど、どちらかと言えば体を動かすことが好きな方だ。
じゃあ、私は……?
改めて考えてみると、自分の趣味らしい趣味が見当たらない。
料理はするよ。でもそれが趣味かって言われると、ちょっと微妙だ……。
昔から両親が共働きだからやってたことだし、夕凪ちゃんが美味しい美味しいって言ってくれるのが嬉しいだけで、自分一人ならわざわざ作りたいとは思わないしし……。
それに、ひばりや夕凪ちゃん達みたいに私もポイッキュアは好きだけど、自分から見たいかって言われると……うーん、ちょっとなぁ。
え、待って。
あれ? もしかして、私って――
とんでもなく、つまらない人なのでは?
「………………」
いや……いやいや。いやいや!
そんなことはないでしょ!
だって、ほら。服屋さんに行って服も見たいし、スタバの新商品も気になるし、カラオケだって……いやなんだったら、ファミレスで喋るだけでも全然いいわよ。
でも……なんだろう、なんか違う。
服屋さんに行きたいのは、夕凪ちゃんに合う服を見たいからで、スタバの新作も一緒に食べたいから。カラオケやファミレスだって。
というか、どれもこれも夕凪ちゃんのことばかりじゃない。
なんだろ、これ。
すごく、変な感じ。
やっぱりこれって……。
「………………」
気づけばそこは、昨日夕凪ちゃんが駆け寄ってきた場所だった。
でも、そこに夕凪ちゃんはいない。
元気よく駆け寄ってくる姿も、嬉しそうに私を呼ぶ声も。
昨日会ったばかりなのに――なぜだか無性に寂しさがこみ上げてきた。
そんなことを考えながらも、いつの間にか家の前にきていた。
鍵を開けて家へと入ろうとした時だ。ふと、隣の夕凪ちゃんの家が気になった。
隣の夕凪ちゃんの家は静かなまま。小綺麗な玄関のドアも、色あせない銀色のドアノブも、動く気配はない。
「……居る、かな」
小学校も既に授業は終わっているし、とっくに下校時間も過ぎている。帰り道で会わなかったのなら、先に家に帰っていてもおかしくはないはずだ。
私は家のチャイムに指を伸ばしてみた。
普段ならなにも考えることなく、何気なく押していたはずのそのボタン。それが、今はすごく押すのを躊躇ってしまう。
それでも――
「………………ッ」
勇気を出して押してみた。
ピンポーン、と扉の奥でチャイムが鳴る。
……………………
でも、それだけだった。
普段騒がしいくらいのあの夕凪ちゃんの気配は、家の中にはなさそう。
「留守、っぽいね」
携帯で連絡してみようかとも思うが、すぐに気づく。
夕凪ちゃんは小学生だ。今時の小学生でも携帯を持っている子も多いらしいけど、夕凪ちゃんは持ってない。こちらから連絡は取れないだろう。
夕凪ちゃんなら学校が終われば、真っ直ぐ家に帰くるはずだけど、それが自宅にいないとなると、友達の家にでも行っているのかも。
ましておばさんは今日も仕事なんだし、一人にしておくわけにもいかないんだから、なおのことだ。
「はあ…………」
なんだろうな、すごくやるせない。
昨日、自分からしばらく会うのをやめようと言ったくせに一日でこれだ。
心のどこかで思ってた。
私があんなことを言い出しても、結局夕凪ちゃんの方から我慢できずにやってくるだろうと。
でも……それが来ない。
それって、つまり。
(夕凪ちゃんは、今の状況を特に何も感じていないのでは……?)
今の状況でも、夕凪ちゃんは特に困ったりせず、満足している。
もし、そうだとするなら――
(…………帰ろう)
夕凪ちゃんの家の前から離れ、私は自宅の玄関を開ける。
扉は、いつも以上に重かった。
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