第21話 ワン子ちゃん、まだ機嫌が直らない
山のように大きなパフェを、二人がかりで食べ終えた私達はショッピングモールの中を散策していた。
地方のショッピングモールはビックリするくらい大きい、っていう定説みたいなのは、つくば市も変わらない。
レストランから服屋さん、雑貨屋さんに本屋さんにスーパー。薬局、美容院、銀行、カルチャースクールなどなど。それにお店だけじゃなく遊ぶところだってたくさんある。ゲームセンターやスポーツクラブ、この間夕凪ちゃんとポイッキュアの映画を見に来た映画館も。
そんな無数にあるお店に目移りしながら私達が入ったのは、学校でもちょっと話題になってる雑貨屋さん。
ちょっとした小物から、オリジナルアクセサリーまで置いていてどれも可愛らしいものばかり。なにより見た目に反して、以外とお手頃価格なものが多いから、クラスの女子達の間でもよく話題にあがるお店なのだ。
「ねぇねぇゆなさん」
棚に並んだ商品を見ていると、夕凪ちゃんが背後から呼んできた。
「んー?」
なにか気に入ったものでも見つけたのかな。
私が振り返ってみると予想通り。夕凪ちゃんは商品の一つを私のところに持ってきていた。
「夕凪、こういうの欲しい!」
と、嬉しそうに両手で抱えて見せてきたもの。
「んー……」
真っ黒で少し固そうな細い皮のベルト、中央にはワンポイントに銀色の小さなマークがつけられた――つまるところチョーカーだ。
さすがに……これはなぁ……。
「うーん、夕凪ちゃんには……ちょっと早い気がするなぁ」
「えー」
早いというか何というか……。
むしろ、似合いすぎるくらいなんだよ。
だってチョーカーなんて夕凪ちゃんがつけたら、それこそ飼い犬の首輪じゃないの……。
「もうちょっと大人になってから、ね」
「むー……」
「あ、これはどう?」
むくれる夕凪ちゃんに、さっきから目にとまっていた物を手に取って、夕凪ちゃんの小さな手に乗せた。
それは、少し大人びて見えるシックな輝きをした小さな犬のペンダント。
このペンダント、ちょっとした仕掛けみたいなものがある。
私は隣に置いてあった、別なペンダントを手にする。
「あっ」
それは、犬の形が夕凪ちゃんに渡したものと全く逆の向きをしていた。
この二つのペンダント、二つ組み合わせることができて、組み合わせると、二匹の犬がお互いの尻尾を追い回している姿になるのだ。
「すごい、お揃いだ!」
お揃い、というのとはまた違うと思うけれど、夕凪ちゃんが喜んでくれるならそれでいっか。
「おばさんには内緒ね」
「…………」
そう言った途端である。
「……夕凪ちゃん?」
夕凪ちゃんのキラキラとした笑顔は、泡と消えてしまった。
子供っぽくなく、少し大人びて見えるシックな作りにしてはお手頃価格。そんなペンダントをせっかくなので、私は夕凪ちゃんにプレゼントしてあげた。
そのことはもちろん喜んでくれた。
喜んでくれたんだけど――
「ねぇ夕凪ちゃん……」
「…………」
通路を歩く夕凪ちゃんは大股で私の前を行く。
呼びかけても、こちらに顔も向けてくれない。
「夕凪ちゃんってば。もう許してあげたら?」
「……んっ」
もう一度呼びかけてみても、反応は変わらず。
おばさんの話題になると、夕凪ちゃんはいまだにプンスカ。
「お母さん、キライ」
どうやら、まだ注射のことを怒っているみたい。
後々尾を引かないか心配だったけど……やっぱりこうなっちゃったか。
「おばさんだって、悪気があってあんなことしたわけじゃないから、ね?」
「ううん、ウソ」
……これは重傷だ。
当のおばさんはと言えば『買い物があるからその間二人で遊んでおいで』と言い残し、私達と別行動中。おばさん的には私達だけで一緒に遊んでいた方が楽しいのだろうと思ったのかも知れないけれど、それはちょっと失敗だったんじゃないかな。
「せっかく一緒におでかけだと思ったのに……ヒドイよ」
前を行く夕凪ちゃんの足が止まる。
俯いてションボリとしているのが後姿でよく分った。
「お母さん、いつもいないし……」
「夕凪ちゃん……」
「お休みになっても、なかなかお出かけできないんだもん…………ヒドイよ」
「………………」
これは……。
もしかして、夕凪ちゃんは……。
「……決めた!」
突然、夕凪ちゃんの顔がガバッと持ち上がる。
この流れ、まさか私の家の子になる、なんて可愛らしい事でも言ってくれるのかな。いやいや、夕凪ちゃんのことだ。もしかしたら家出するとでも言いだすかもしれない。さすがにそれは止めなきゃいけないけど、はてさて何を言い出すのやら。
身構える私に、夕凪ちゃんはくるりと振り返る。
「夕凪、ゆなさんの家のペットになる!」
ペットと来たかぁ……。
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