第五章 お姉さんの宿題と構って欲しいワン子ちゃん

第14話 お姉さんと宿題

 私だって、いつも夕凪ちゃんのお世話をしているわけじゃない。

 私も高校生、学校にだって行くし、当然宿題だってある。


「あー……キツい」

「…………」

「マジでキツイってコレ……どんだけ出すのよ宿題……」

「がんばろ、ひばり……」


 そして今日の宿題の量は――控えめに言って希に見る量だ。各担当教師達が示し合わせたような嫌がらせなのか、はたまたテストも近いからなのか。

 しかもそれを明日までに終わらせればならないとなると……うん、さすがに私でも一人で処理するのは難しい。

 そんなわけで学校終わりの放課後、我が家でひばりと一緒に宿題をすることに。


「優奈に手伝ってもらって助かったわ……おまけに家にまで呼んでくれて」

「今日はうち、両親遅いから」

「おー。男の子が聞いたら心の中で飛び上がるその台詞、誘ってるんですか~?」

「ひばり。今ツッコむ余裕ない……」


 私はノートから顔すら上げない、そんな余裕などないんだ。

 一応二人で協力し合って、もうすぐ宿題の半分が終わりそうだけど……この調子だと寝るまでに終わるかどうか。


「でも実際助かったわよ。宿題もそうだけど、家使わせてもらって。ファミレスもいいけど、お財布がね……」


 私達高校生にとって、お小遣いというのは命よりも重い。貴重な財源、無駄遣いは極力なくさねばならないのは、国家も高校生も変わらないのだ。


「まあ、理由はそれだけじゃないんだけどね……」


 不思議そうに頭にハテナマークを浮かべるひばり。

 そう、私は高校生。でも、いつもの日常も変わらないのだ。


「ゆーなーさん」


 ドタドタと騒がしい足音と共に、玄関からリビングへと駆け込んでくるものがある。

 主人を見つけた飼い犬かと一瞬錯覚しそうなその子はもちろん、夕凪ちゃんだ。


「ゆなさん来たよー! 遊んで遊んでー!」


 背後から私に抱きついてくる夕凪ちゃん。ここまで走ってきたのか、体がいつもよりも温かい。そう、今日も夕凪ちゃんがやってくる予定だったのだ。


「ゆなさんゆなさ~ん! 今日は何する~? あ、ひばりお姉ちゃんこんにちはー!」

「私はついでかい」


 いつもだったら、私も遊んであげるところだけど――


「ゴメンね夕凪ちゃん……」

「?」

「今日は、私も宿題が多くて」

「え~っ」

「晩ご飯までには一区切りつけるから、今日は大人しくしてて、ね?」

「うーヤダヤダ~」


 いつもの袖ブンブン。

 可愛らしくて、普段の私ならつい押し切られるけど……うぅ今日はガマンだ。


「家にはいていいから、ね。あ、ポイッキュア見る?」

「むぅ……」 


 なんとか耐えきったけど、夕凪ちゃんのふくれっ面は変わらない。私の体から渋々離れ、夕凪ちゃんはソファに不機嫌そうにドスンと座る。


「いいの優奈?」

「仕方ないでしょ……」


 事前に宿題の量が分かっていたなら夕凪ちゃんを預かることを今日は断ることも出来たけれど、こればっかりはそうもいかない。


「むしろ、ゴメンね。夕凪ちゃんがいて集中し辛いかもしれないけど、一応目の届くところにはいないといけないし」

「いいわよ、全然。多少騒がしい方が集中力は上がるもんよ。それに――」

「それに?」


 と、ここで配信サービスから開いたポイッキュアのオープニングがテレビから流れ始める。


『ワン ワン ワン ワン。ワンと飛び出せ――ポイッキュアー!』

「ポイッキュアが戦うんだから、私だって戦わなきゃね!」


 キリっと、どや顔で言い切ったひばり。

 オープニングが流れている間、宿題を忘れ、普段の夕凪ちゃん以上にルンルンだった。どうやらひばりは、宿題する後ろでポイッキュアのアニメを聞きながらの方が集中力が上がるようだ。

 ポイッキュアすごいな。

 それにしても、ひばりはなんでわざとらしい舌っ足らずな喋り方でポイッキュアへ声援を送るんだろう? やっぱりわからない。 

 そして夕凪ちゃんはと言えば……


「…………」


 ソファで大人しくポイッキュアを見てくれている。

 最初の不機嫌さは少しは収まったみたいだけど、手近にあったクッションを抱きながら時折、チラチラとこちらに視線を向けてくる。宿題をしながらでも視界に入ってきてしまって、なんだか気になるし罪の意識を感じてしまう。

 うぅ、ゴメンね、夕凪ちゃん……。


「……とにかく、さっさと終わらせましょ」


 でも、今日ばかりは仕方ない。恨むのならこんなに宿題を出してきた学校の先生を恨んで。私だって一緒に恨んであげるから。

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