第二章 お姉さんどうする?
第6話 お姉さん悩む
「おはよ~優……って、どうしたの?」
教室の机に突っ伏す私に、登校してきたひばりが声をかけてきた。
気怠げに突っ伏した顔だけ横にして、返事を返す。
「……………………ぉはよ」
「うっわ。ひっどい顔」
自分でも分かってる。
顔はむくれて目元には隈。肌もビックリするくらい荒れている。
「優奈にしては珍しいわね、徹夜って柄でもないだろうし」
「……………………」
「あっ、もしかして~女の子の~」
「下品なのやめて……付き合える気分じゃない」
「あーっと、これはマジな奴だな……」
ひばりは机にバッグを無造作に置いて、自分の席である私の前の椅子へと座る。
そして背もたれに体を預けながら――
「どうしたの、なんかあった?」
茶化すのをやめ、真剣に心配し尋ねてきた。
さすがに付き合いが長いだけあって、察してはくれたみたい。
ありがとう、ひばり。でもね――。
「あったのか、なかったのか…………それが分からないの」
「はい……?」
ひばりが不思議そうに頭を傾げてる。
今朝のアレ……いや、昨日の夜になるのかな?
ううん、それすらも分からない……分からないだけに、説明のしようもない。
夕凪ちゃんが布団の中に現れて、もぞもぞと私の体を弄りまわして……最初はくすぐったかったはずなのに、それが……なんだか気持ちよくなってきて……。
でも起きた時、夕凪ちゃんはいなかった。
「もしあれが、夢だったなら……私があんな夢見るなんて……最低よ……」
「はあ……」
「でも、だからって現実だとしたら、それはそれで……」
「????」
あんなこと……どうか夢であって、いや現実であって……。
うーん、どっちにしても困る!
「な、なんだかよく分からないけれど……大丈夫?」
考えてみれば、ひばりの一言が発端だった。
昨日、ひばりが百合だなんだと変なこと言うから、妙に意識しちゃってる。
考えないようにしようとしたからこそ、あの夢とも現実とも分からない状況を引き起こしてしまった。
このままだと、これがずっと続いちゃう。
マズい……これは本当にマズい。
「…………ねえ、ホントに大丈夫、優奈?」
「………………」
「保健室行く? ついて行くよ」
「……ううん、心配してくれてありがと。大丈夫だから」
こんな自己嫌悪で保健室に行くのは、さすがに恥ずかしすぎる。
でも、この調子が続いちゃうのも考えものだ。
ひばりだけじゃなく、家族や学校のみんなにも心配させちゃうと思う。
それはきっと、夕凪ちゃんにも。
「……決めたわ」
「何、どうしたの突然……?」
今後、夕凪ちゃんにじゃれつくのを抑えさせよう。
ああいうことをするから、私も変に意識しちゃうし、勘違いもしちゃうのよ。
今まで夕凪ちゃんのあまりの可愛さに私も甘えてたんだと思う。でも私はお姉さんなんだから、しっかりしなきゃ。ちゃんと夕凪ちゃんを年上のお姉さんとして導いてあげないと。
それに夕凪ちゃんだって、小学生とは言え女の子。ベタベタくっつくだけじゃなく、色々と意識を持たないと危ない年頃だもの。
そう、きっと頃合いだったんだ。
「うん、そうよ。そうするべきよ!」
決意を表すように、ガバッと机から顔を上げ立ち上がる。
私のためにも、そしてなにより、夕凪ちゃんのために!
これを機に、夕凪ちゃんのじゃれ合いは卒業させよう!
「……………………ホントに、大丈夫?」
呆然とするひばりをよそに、予鈴のチャイムが学校に響き渡った。
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