第3話 巻耳(はこべ採りましょ)

※七五調のリズムで。


はこべ採りましょ採りましょはこべ

分かっちゃいるけど手が止まる

いっそそれなら小籠を置いて

愛しいあなたを思いましょ


「かの山登れば我が馬ばてる

よき樽酒で忘れよう


かの岡登れば我が馬へばる

よき杯で痛みとる


かの岩登れば我が馬よわる

我が連れ人も疲れよう」


ああ無理! つらい! 旦那様!

わたしに何ができましょう!


【元の詩】

采采卷耳 不盈頃筐

嗟我懷人 寘彼周行


陟彼崔嵬 我馬虺隤

我姑酌彼金罍 維以不永懷


陟彼高岡 我馬玄黃

我姑酌彼兕觥 維以不永傷


陟彼砠矣 我馬瘏矣

我僕痡矣 云何吁矣


【ひとこと】

 この詩はなんなんですか? 妄想力逞しいオタクの嫁が推しのこと考えてたけど上手く行かなくてつらくなったってことであってる? この嫁の推しは夫なの? 馬なの? わからねぇ。

 この「とりあえず酒」ってさ、曹操様の短歌行「何以解憂/惟有杜康」と同じ発想ですよね、漢字違うけど。曹操様が同じ発想というべきか。はぁ好き。

 最後の「云何吁矣」は夫のセリフ? 嫁のセリフ? (普通に読んだら夫のセリフだけど、嫁の叫びにしか見えぬ……)

 僕ね、これ読むときに、解説書、あの、あれなんすよ、あのー、何冊か並べてみたんですよ。でも何も分からなかったし、理解に困る詩は訳も困るから字余りがすごくて、いやコレはないだろって割と自分でもショックっていうか……。

 でも曹植様も引用した元ネタが知れて幸せだからOKです!


◯はこべ 巻耳をみみ菜(ミミナグサ、ネズミノミミ、ネコノミミ)とする訳もあったが、要するにハコベの一種らしいのでハコベの名前で訳した。小学生のときよくウサギにあげませんでしたか? あれ人も食べるん……ん? そうか、はこべら……七草粥。食べるわ。

 →1/8追記[6]によると「ナモミ」かもしれないとのこと。オナモミ、メナモミがある。オナモミって紡錘形で棘がいっぱいあるアレですよね? 実は薬用(頭痛・発汗)になるらしい。「維以不永傷」と合わせて考えると何か薬用になる草を採っていると思うほうがいい……? オナモミ字余りアウトなのでやるならナモミかなぁ?

◯よき樽酒 「金罍きんらい」とは金樽・玉杯というような詩で使う美称との説[1]のほか、雲雷模様の描かれた酒樽[2]、ガチの黄金で飾った酒樽とする説[3]があるっぽい。要するにクッソ豪華な酒樽[4]と理解したい。

◯よき杯 「兕觥」のは牛みたいな犀みたいな生き物のことで、觥はさかずき。つまり角杯

獣角でつくった杯のことと理解した[1〜3]。ただし後世の兕觥は兕を模したジョッキの様な器が有名らしく、調べ出すとヤバそうなのでWikipedia様[5]のリンクを貼って調査打ち切りとする。


[1]高田眞治 著「漢詩大系 1 詩経 上』集英社、一九八〇年

[2]石川忠久 著『新釈漢文大系110 詩経』上中下、明治書院、1997年

[3]吉川幸次郎 注『中国詩人選集〈第1巻〉詩経国風』上下、岩波書店、一九五八年

[4]浪間丿乀斎なみまへつぽつさい、巻耳(出征した夫を憂う/王を支える妃)『

崔浩先生の「元ネタとしての『詩経』」講座 - カクヨム 』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069/episodes/1177354054918943864

[5]兕 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%95

[6]境武男 著『詩経全釈』境教授頌寿記念会、1984年


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