第2話 葛覃(まくずが のびる)

※七五調のリズムで


のびる のびるよ まくずが のびる

たにま いっぱい つたしげる

とんだ うぐいす しげみに とまる

ともと あつまり なきかわす


おふる おふるよ まくずが おふる

あおい わかばが おいしげる

かって にましょう くずおを とって

おって くずふに いたしましょ


きもの づくりよ はたおり ふくす

もんく いわずに おりましょう

ふくが できたら おひまを もらい

おさと がえりを いたしましょ


ざんぶざんぶと あらってしまお

きれいきれいに あらってしまお

ととさ かかさの おうちへ ゆけば

きもち きれいに なるでしょう


【元の詩】

葛之覃兮 施于中谷

維葉萋萋 黃鳥于飛

集于灌木 其鳴喈喈


葛之覃兮 施于中谷

維葉莫莫 是刈是濩

為絺為綌 服之無斁


言告師氏 言告言歸

薄汚我私 薄澣我衣

害澣害否 歸寧父母


【ひとこと】

 三連目、転調(?)するんですね。なので訳詩も転調を入れました。

 この詩、「毛伝鄭箋などの古注によれば、お嫁に行こうとする」娘の歌[1]なの……? いやいや新妻でしょ? お姑さんも葛の機織りもしんどい友達いないお嫁さんの歌でしょ? と思ったのでそう訳した。全三連が全四連に増えているのはご愛嬌。

 ◯おふる 生ふる。あオいわかばがオいしげるなので、えるよりオふるでしょうの理屈で「おふる」。加えて見た目が「お古」なので若葉と老いと対比的で面白いなと思っている。無理筋だという自覚はある。

 ◯くずお 葛苧。葛の繊維のこと。煮た後4〜5日発酵させてから取るらしい。

 ◯くずふ 葛布。かっぷ、くずぬのとも。かっぷとして「っ」で攻めてもよかったがやり過ぎかなとセーブした。

 ◯はたおりふくす 機織り服す。服すは言われた通りにするの意味だが、衣類の連想で持ってきた。「糸取り」という単語を使いたかったけどこれは絹糸を取る作業を言うらしく断念。植物から繊維を取るは紡ぐなんですね。なるほど初めから糸になっているかどうかの違いなのかな、知らんけど。ところで藤蔓の糸は結び目なく撚り合わせて繋げる(フジウミ)のに対し、葛糸は葛結びして結び目が片方に倒れるように繋ぐんですね。はた結びっていう結び目が小さく万歳したようになる結び方(毛糸の編み物などで使われる)とは違うらしいのでメモ。(葛布づくりめっちゃ調べてしまった……普通平織りで故に独特の光沢があるとか雨具や屏風にするとか葛糸を藍染したり草木染めしたりするとか、葛を使って草木染めするとか、藤の糸や芭蕉の糸なんかも含め個人のブログ等々さまざま見たがひとつだけ挙げておく[2])

 ◯もんくいわずにおりましょう 文句言わずに我慢して居り、機織りをするの掛け言葉。

 ◯きもちきれいに 少しばかりでも綺麗になるだろうから、鬼の居ぬ間に心の洗濯をしようの掛け言葉。



[1]吉川幸次郎 注『中国詩人選集〈第1巻〉詩経国風』上下、岩波書店、一九五八年

[2]大井川葛布「葛布ができるまで」

http://kuzufu.com/about/make.html

2022.1.1閲覧

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