第2話 総攻撃

アラル砦への総攻撃が始まって数十分。

俺たち魔王軍は、戦いを優勢に進めていた。


魔王軍はアラル砦に対し、密林で軍が通れない北以外の、3つの方角から攻撃を仕掛けた。

魔王軍はこの戦いに、持てる全てを投じている。


参加兵力は魔王軍にとって、これ以上ないものだ。


主力部隊として、

リザードマン・ゴブリン第1大隊 ※東門攻略 兵力400

リザードマン・ゴブリン第2大隊 ※西門攻略 兵力400

オーク重装歩兵隊   ※南門攻略 兵力200

総勢1000。


さらに、俺が直接率いる第1遊撃隊、ガルフが率いる第3遊撃隊が主力部隊を援護する。


途切れることが無い矢の雨。

豊富な防衛設備。

アラル砦は堅牢な砦だ。


砦の攻略難易度は想像を絶する。

アラル砦へ突撃した魔物たちは、まず大量に仕掛けられた落とし穴によって足を取られる。

対処に手間取った魔物は城壁から降り注ぐ矢によって命を落とす。


落とし穴を躱した魔物たちの前には3つの巨大な柵が立ちはだかる。

柵を引き倒し、乗り越えるたび、魔物たちは矢で貫かれ、数を減らす。


これらを突破した魔物だけが、砦の城壁に取りつくことが出来る。


しかし、そびえ立つ城壁は高く、4メートル以上ある。

人間に比べて身体能力の高い魔物でも、飛び越えることが出来るものはごくわずかだ。

まして、魔王軍の魔物たちは城壁にたどり着くまでに体力を大きく削られている。

城壁を超えることなど夢のまた夢だ。


攻撃を諦めて撤退するものは長射程の弓矢で地面に縫い付けられ、

諦めずに城壁にへばりつき続けたものは真上からの弓矢で蜂の巣にされる。


前回の砦攻めで、城壁にたどり着けた魔物はわずか数名だけだった。

同じ轍を踏むわけにはいかない。


俺は魔王軍に新たな戦術を授けた。


損害を抑えるためには、絶え間なく降り注ぐ矢を防ぐ必要がある。


まず、以前の遠征のように砦に到着した者から順に、バラバラに突撃を行うことを禁止した。

全軍で進軍スピードを合わせ、砦を包囲。

各個撃破を防ぎ、数の優位を活かすことで、人間たちの対応力を飽和させる。


さらにオークたちに大盾を装備させ、防御力を大幅に向上させた。



弓兵たちが、必死の形相で地面を埋め尽くす魔王軍に矢を射かける。

「数が多すぎます!対処が追いつきません!」


「泣き言を言うな!城壁を超えられれば俺たちは終わりだ!とにかく撃て!」

弓兵隊長が、弱音を吐く部下を怒鳴り付ける。

生き残るためには、戦うしかなかった。



苦しい戦況の中、ムレヤの苛立った声が響く。

「オークどもに当たってないぞ!しっかり狙え!」


弓兵隊長は“無茶を言うな!”という言葉を飲み込み、ムレヤに答える。

「大隊長閣下、敵は密集陣形をとっています。矢では戦果が上がりません!」


ムレヤは弓兵隊長の言葉に舌打ちすると、とんでもない命令を下した。

「魔法隊、全力射撃!オークどもを止めろ!第2弓兵隊、西門から転進し、南門の守備につけ!」

魔法隊は高い攻撃力を誇る。

アラル砦守備隊にとっての切り札だ。

彼らに弓兵隊がつけば、オークを撃退することはたやすいだろう。

しかし、魔王軍はオークだけではない。

「大隊長閣下、それでは西門の守りが薄くなりすぎます。第2弓兵隊は残すべきです。また、魔法隊の魔力も無限ではありません。半数は温存すべきです」

ムレヤ大隊長のそばに控えていたリューグが、冷静に意見した。


だが、ムレヤは聞く耳を持たなかった。

「強い魔物を失えば魔王軍は混乱し、潰走する。あの軍勢の主力はオークだ。間違いない。私には分かる!」


「しかし……」

「うるさい!黙って私に従え!」

ムレヤは激昂した。



「「炎の矢よ、焼き尽くせ《ファイアアロー》」」

魔法隊の全力射撃が始まる。

少し遅れて、ムレヤの指示に従った第2弓兵隊が南門に合流。

矢の雨を降らせ始めた。


オークたちが後退する。

ムレヤの判断は、一見すると間違っていないように思えた。



◆◇◆◇◆◇◆

順調に押し込んでいたオークたちの足が止まった。

魔法の射程圏に入ったのだ。


「兄さん!魔法が来る!」

プトーが常には出さない大声で叫ぶ。


「全員、防御態勢!衝撃を受け流せ!」

全員が盾を構えたところで、魔法が着弾。

オークたちは、見事に魔法攻撃を耐え忍んだ。


「第2射が来る前に距離を詰めるぞ!全軍前進!」

魔法は、発動までにインターバルがある。

その間に前進し、距離を詰める。

リキーはとっさに判断を下した。


だが、その直後。

魔法の穴をうめるように、矢の雨が降り注ぐ。


矢数がこれまでの倍以上だ。


「タカアキ、あのままじゃオークたちが危ないぞ!」

オークたちの危機に、レーナが取り乱す。


「大丈夫だ。遊撃隊!敵の注意を引き付ける。俺に続け!」

俺は遊撃隊を率いて、戦場を一気に駆け抜ける。


「オーク重装歩兵隊は後退!無理はするな」

すれ違いざま、オークたちに撤退命令を出すことも忘れない。


「10秒ごとに、動きを変えろ。敵に的を絞らせるな!」

俺たちはジグザグに動き回る。

今止まれば、魔法と矢を嫌というほど味わうことになる。

オークたちの撤退が終わるまで、高速で移動し、狙いをそらす。


「おい、今度は俺たちが持たねえぞ!」

ガルフが毒づいた。


ガルフの言う通り、このままだと遊撃隊が危ない。

だが、人間の射撃密度は異常だ。

何かからくりがある。


俺は深呼吸すると、戦場全体をぐるりと見回した。

西門の抵抗が、大きく弱まっている。

大量に降り注いでいた矢は、影も形もない。


この状況は、間違いなくチャンスだ。

俺は伝令兵を捕まえ、指示を下す。

「リザードマン・ゴブリン第2大隊に伝達。西門に隙ができた。作戦は前倒しだ。敵防衛設備を破壊しろ」


◆◇◆◇◆◇◆


タカアキの指示はすぐに届けられた。

ダナソは、息を切らせた伝令兵をねぎらうと、武者震いする。

自らの出番が、ようやくやってきたのだ。

「敵は黒騎士殿とオークの相手で手一杯だ。慌てず落ち着いて行動せよ」



アラル砦を囲む大量の防衛設備。

多くの魔物たちが、命を落としたそれに対して、

タカアキが示した作戦は、まさに単純明快だった。


これまでのように、城壁へ一目散に突撃することを禁止。

設置された仕掛けを、1つずつ破壊し、突入経路を開く。



ゴブリンが地面を這って、落とし穴を見つけ、

そこにリザードマンたちが、土砂を投げ入れる。


地面に刺された巨大な柵には、しっかりと切れ込みを入れた。


多くの落とし穴が塞がれ、3重に張り巡らされた柵は強度を失い、もはやハリボテとなっている。


アラル砦西門は丸裸になった。


南門では、後退するオークたちを見た人間たちが、勝鬨を上げている。

西門の危機に気が付けた人間は、1人もいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王軍、リメイク!! ~転生者によるジリ貧魔王軍再建記~ あかさた @akasata56

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ