この子ください

くまねこ

この子ください。

店内にはショーケースが並んでいる。そのひとつひとつに様々な生物が入れられている。


恐怖で落ち着かないのか、ひたすら走りまわっていたりキャンキャン鳴いていたり。


中には諦めたのか、それとも居心地がよくなってしまったのか。じっとしている子もいる。


そりゃそうだ。狭いショーケースに入れられ、自分とは違う種族にひたすら見られ、時には触れられ。


そんなの普通だったら怖い。




「この子ください」「○万円になります」


そんなやりとりだけで命が売買される。


腐ってる。




なんて思っていた。この子に出会うまでは。


多分、少し心が荒んでいたんだな。




この子は他の子よりも身体が小さかった。まだ子供なのだろう。


私を見るなり小さな身体を震わせながらきゃんきゃんと鳴き、私に訴えかけてきた。


もちろん言葉などわかるはずもないのだが、なんとなく「ここから出して。」「私を逃がして。」と言っているような気がした。


その姿が私の心を打った。もう食べちゃいたいくらいだった。




私はすぐにお金を準備し、再び店に訪れた。


あの子はまだ売れていないようで、少しホッとした。


「この子ください」


私がこんなことを言う日が来るなんて。と、心の中で自分を嘲笑した。




私は店主に代金を手渡しつつ、少し話をした。


「それにしてもこの子、すごく元気ですね。小さいですし、子供ですか?……ですよね!これって確か、[ヒト]ですよね?……あ、やっぱり!私、初めてなんですよ![ヒト]の子供って!しかもこんなに活きが良い状態で手に入るなんて!あぁ、美味しそう……。ん?いや、大丈夫です!そのままで!すぐに食べちゃうんで!」

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この子ください くまねこ @kumanekosan

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