お吸いもの
少しおバカな息子に荷物を送ってから1週間。
『prrrrrrrr』
小気味いい着信音と共に携帯の画面に表示された息子の名前を見て、幸子はそっと微笑む。
しかし、その喜びを今だけはそっと隠すように少し眉を寄せ、一呼吸おいてから通話ボタンを押した。
「申し訳ございませんでした。」
1ヶ月ぶりに聞く愛する息子の第一声のあまりの情けなさに、幸子の努力は一瞬で水の泡と化した。
「ほんとにもう、、、あなたって子は。ちゃんと眼鏡は届いたの?」
「はい、それはもう!ありがたく頂きました。」
元気そうな息子の声に完全に毒気を抜かれた幸子は、ずっと気になっていたアメリカの様子を聞いてみることにした。
「それは良かったけど、そっちの生活はどう?」
「う〜ん、結構楽しいんだけど、ご飯がね〜。」
「あら?余り口に合わないの?」
「うん、やっぱり濃いんだよね。」
「味が?」
「ううん、油が。その分、バーガーやポテトは美味しいんだけど、ずっとは食べてらんない感じ。」
「ああ、それは確かにそうね。何か、日本の食べ物贈りましょうか?」
そう、幸子が問うと、間髪入れずにゆうきが答えた。
「はものお吸いもの!」
「はあ、、、どうやって贈るのよ、そんなもの。」
「そりゃもう、大量のお吸いもの鍋に入れて送って頂ければ。」
「輸送機の中が、腐ったはもまみれになるわよ。」
「にしし。流石に冗談だよ。でも、お吸いもの食べたいなぁ。」
「お吸いものね。分かった。贈れるか試してみるわ。他には?」
「うーん。意外とないかも。まだ来て、1ヶ月だしね。こっちって、小腹が空いた時に食べれるものが無いんだよね。おにぎりなんて見たことないし、カップラーメンはおんなじ製品のはずなのになんか味が違うんだよ。だからいつでもすぐ飲めるお吸いものがいい!」
「はいはい、じゃあお母さん、これから用事だからもう切るわね。」
「はーい!またね!」
ツー、ツー、ツー
会話の終了を意味する冷たい機械音とは対照的に、幸子の頬は、無意識のうちに緩んでいた。
久しぶりの、息子との何気ない会話を楽しんだ彼女は、息子に話した通り出掛ける準備を始める。ただし、電話をする前と後では、少し違う部分があった。
几帳面に今日の予定が纏められた彼女のメモには、少し踊った文字で、『デパート、お吸いもの、厳選』と、綴られていた。
拝啓、メガネ失くしました 一年中数の子食べたい @noahoshimiya
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