『おこそずきんちゃん』。まるで童話のようなかわいらしいタイトルです。
作者の方があとがきで書かれていますが、元々は「和風赤ずきんちゃん」がモチーフになっています。
主人公はマタギ(東北地方の猟師)の青年・銀作(ぎんさく)。
タイトルの「おこそずきんちゃん」こと御高祖頭巾を被った薬師の少女・月乃(つきの)。
ニホンオオカミの妖・火噛(ホノガミ)。
共に旅をしている三者はひょんなことから妖怪退治に挑むこととなります。
……と、これだけだとよくある妖怪退治活劇物のように思われるかもしれません。
確かに大筋はそういった要素を含む物語です。主役の三者はそれぞれに特殊な能力を持っており、それらを活かして協力し、妖が絡む事件に挑んでいきます。
しかし、タイトルの可愛らしさや冒頭で述べたあらすじの印象とは打って変わって、ただ「不思議な事件を解決する」それだけのお話ではありません。
人にはそれぞれ事情があります。それは妖も同様で。なぜ事件を起こしたか、なぜ事件に巻き込まれたか。
ままならぬ想いを抱えた“もの”たちの心が、多面的な視点で誠実に描かれています。
それは勧善懲悪の快活な物語とは言えないかもしれません。それでも最後にはそれぞれの読者の胸に忘れられない余韻を残していくことでしょう。
マタギをはじめとした伝統文化に対する真摯な姿勢とともに、「たまいと」の如く繊細に丁寧に紡がれた物語です。
また、登場人物のちょっとした仕草や語り口、情景描写の重厚で豊かな文章表現も秀逸です。
個人的には第六章、マタギの銀作が火縄銃を撃つまでの一連のシーンが魅力的です。
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さて、この「たまいとつむぎの怪」は『おこそずきんちゃん』の世界観を紹介する、いわばお試し版のような読み切り作品です。
メインの三者についての詳細は『真編 おこそずきんちゃん』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880)で描かれています。
マタギの銀作の旅立ちを知りたい方は第一章『さみしい魂』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880/episodes/16817330656849255573)で。
癒やしの力を持つ月乃の謎を知りたい方は第二章『まがつ神』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880/episodes/16817330662021253215)で。この二作はどちらを先に読んでも大丈夫です。
そして銀作と月乃が狼の妖・火噛と出会う第三章『火喰いの真神』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880/episodes/16818023211824867128)へと続きます。
出会いと別れ、ままならぬ者たちの声、愛と憎、痛みと救い。それでも世界は「めぐり」ゆく。
時に容赦なく、そしてあたたかな眼差しで綴られる幕末伝奇物語『おこそずきんちゃん』の世界が気になった方はぜひ、真編の方も読んでみてください。
幕末のとある山奥で起きた白装束の女による怪異。その怪異に巻き込まれた少年は、不思議な3人組に命を救われる。
癒しの力を持つ少女。炎を操る狼。そして、命のおりあいを生業にし、妖を打ち抜く弾丸と共にある寡黙なマタギ。
雪の降る中、一行は白装束の女に人あらざる空気を感じ対峙するのだが――
頭巾少女と少女大好きでシッポが止まらない🐶とマタギが妖と対峙する和風ファンタジーなのです。
マタギが寡黙で不器用で奥手なお話は信頼できる。そう思いませんか。それ。それです。
作品全体の空気感や語り口は誠実で、何より、書いている方がキャラクターたちが大好きなんだろうなあ、と感じさせる筆致がとても心地の良いお話です。
単なる勧善懲悪のお話ではなく、それぞれにそれぞれの事情があり、それでもまっすぐに折り合いをつけるマタギたちのお話。
ぜひ、ご一読あれ。