第3話
――三十分前。
生まれつき単純な性格の
そうこうしているうちに、島の裏側へとたどり着く。最終目的地の岩屋は、切り立った断崖にぽっかりと穴を空けており、長い橋を渡って行く必要がある。
季節は真冬。海風が身体から熱を奪う。寒い、と不平を垂れ流しつつ二人は進む。若者がこのような調子なのに、橋の下に広がる岩礁には磯釣りに精を出す中年の姿もあった。
釣り人の向こう側は広大な海原であり、地平線には薄っすらと、富士山や伊豆大島の影が浮かんでいる。
「すっげえな、寒くないのかな。景色も良いし、もう少し暖かい時期なら釣りも良いけどさ……愛奈?」
違和感を感じて視線を落とす。愛奈は、やや斜め後ろ辺りを歩いている。何やら顔色が良くない。
「どうした? 疲れたのか」
「ううん、そうじゃないんだけど、ちょっと……」
愛奈は気まずそうに視線を逸らした。
「足が痛くて」
「痛いって、スニーカー履いてんのに靴擦れ?」
「新しい靴なの。履き慣れてなくて」
「何で島歩きに新品履いてくるんだよ」
「ううっ、だって、GOZのイベントだよ。おしゃれして行かないとって思って。それに今日はせっかくの」
「スタンプラリーだろ! 実際に会う訳じゃないのに、何で!」
愛奈は何事かを言いかけた口を閉じ、頬を膨らませて黙り込む。将の発言が気に障るとこうして目で訴えてくるのは、子供の頃からの癖だ。
将は溜息を吐き、休憩場所を探して視線を巡らせる。橋の中間辺りに、やや風化した石のベンチがあった。
「とりあえず休むか」
愛奈を促し、並んで座る。靴下を引き下げて、痛みを発するという部分を見てみれば、踵部分が擦れて、赤く腫れていた。
「絆創膏持ってる?」
「持ってねえよ」
「将、ごめんね、せっかく来てくれたのに……」
案外素直に謝られ、将は拍子抜けた。次いで、こちらを見つめる愛奈の瞳が、心なしか潤んでいることに気づく。この目で見つめられてしまうといつも、無駄にやる気が出てしまう将である。照れ隠しで大袈裟に肩を竦め、将は腰を上げた。
「仕方ねえ。来る途中に売店があったよな。売ってないか見て来てやるよ」
「でも」
「良いから。おまえはそこで待ってろ。すぐ戻って来るから」
売店までは、さほど距離はないはずだ。橋を逆行し始める将。その背中を呼び止めるように、愛奈が声を漏らしたが、どこか不安げな呼び声は、潮騒に吞まれて消えて行った。
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