第23話 転移者は現地人と幸せに暮らす

 旅行から帰ってもケイさんの熱はさがることなく、毎日いつでも私のこと大大大好きって猛烈アピールしてくれて毎日私とえっちなことをしたがった。

 帰宅した日に控えるって宣言したものの、ベッドの中で抱きしめて撫でたり舐められたりしておねだりされたらその気になるでしょ。

 そもそも私だって嫌なわけじゃない。ほとんど毎日なのはさすがに疲れるけど、一応週に一回おやすみもあるし、私がケイさんを可愛がった時も満足しつつまだまだって目をしているのにそのまま我慢してはくれてるのはわかってる。それに求められるのだって疲れるだけで悪い気はしないし私だって楽しんでる。

 だからこれ以上ケイさんに我慢を求める気はない。


 ただ、最初に仕事もまともにできないと私が言ったからか、私が疲れていて一人では心配だからとお仕事についてくるようになったのは計算外と言うか。最初は普通に愛されてる感あるし純粋にいつも一緒で嬉しかったけど、なんていうか、最近特にケイさんがお客さんにモテてる気がするんだよね。


 モテてるは言い過ぎかもしれないけど。でもお客さんから積極的に声をかけられると言うか、前そんなことなかったのに。ケイさんも満更でもなさそうって言うか。

 いや、わかってる。ケイさんはさ、自分が恐がられるタイプだって言ってたもん。だから長い付き合いでもない関係の人から親し気に声をかけられるの嬉しいんだよね。全然そう言うんじゃないってわかるよー。ケイさんが愛してるのは私だけ。わかる。


 でもそれとこれとは別だから。友達と遊ぶこと自体を否定するほど狭量じゃないつもりだけど、私の目の前で声かけられて喜んでるのとか、それが毎日とか、耐えられるわけない。

 ということで、ケイさんには体力もついてきたしもうお手伝いしてくれなくていいよ、と宣言した。


 実際、私が役に立たないのに手伝わなくていい、なんて勝手なことは言えないからね。積極的に体力がつくように歩く距離増やしたりとかしたし、単純に慣れもあると思うけど、もう大丈夫だと思う。


 なんだけど、まさかケイさんが嫌がると思ってなかった。鼻をならして子犬みたいな可愛さで懇願されたけど、心を鬼にして強行した。

 そもそもケイさんのおねだりの結果、仕事に影響でて、ケイさんが手伝うからいいだろうって言う全然よくないし店長さんに知られて恥ずかしすぎるって言うのも、私はケイさんの為に我慢したのだ。

 私自身の欲望も否定しないけど、普通に断る意志を示したし嫌は嫌だったからね。


 だから私の勝手な嫉妬心で一方的に拒否するって言うのは申し訳ないけど、ここは譲れない。ケイさんが私を愛するが故の我儘を私は受け入れてきたんだから、私だって愛してるが故の我儘を通してもいいでしょ。

 まあ、だったらそれを直接伝えて説明するって言うのも手だと思うんだけどさ。でも、ケイさんにモテてるとか直接言いたくないんだもん。


 自分で自分を可愛くないなんて思ってほしくないし、自信をもってほしいけど、それはそれとして、ケイさんは可愛くてモテモテで私なんか相手にしなくても相手はより取り見取りなんだよ、なんて思っては欲しくない。

 我儘なのはわかってるし、別にケイさんが自覚もったからって浮気するとか、私以外に目をやるって思ってる訳じゃないけどー。でもー。嫌でしょ、やっぱ。


「ケイさん、お昼の時は本当にごめんね」


 と言う訳で申し訳ないとは思っているので、夜までケイさんがしょんぼりする姿が浮かんでいたのでよく考えて、ケイさんには改めてちゃんと謝罪することにした。


「ん? どうしたんだ?」


 晩御飯を食べてからのお風呂に入るまでのゆっくりする時間、私はケイさんと並んでソファに座りつつ、イチャイチャが始まって言いにくくなる前にと先手を打ってケイさんにそう頭を下げた。

 そんな私にケイさんはきょとんと首を傾げた。そのぴんときてない無邪気な感じに、私は思いつかないくらいもう済んだこと思ってるならいいかな? と一瞬頭に甘言が流れたけど何とか気合を入れる。

 ダメダメ。ケイさんに胸をはれるよう、ここはちゃんとしようって決めたんじゃん。


「来週からお仕事手伝ってもらわなくていいって話」

「そのことか。謝ることじゃないだろう? 元々私が無理を言って押しかけていたんだ。私の方こそ悪かった。ごめんな」

「あぁ……あの、その、ね。お昼の説明ももちろん嘘ってわけじゃなくて、いつまでも手伝ってもらうの普通に申し訳ないって気持ちとかあるし、ケイさんの作品も本当にどれも素敵だなって思うし、お店に並んでるのを見ると誇らしい気にすらなるし。あの……でも、他にも、個人的な理由があってね。だから、ごめんね。楽しんで働いてたのに」


 謝る為に蒸し返したのに、まさかの謝られ返されてしまった。このままではさすがに申し訳なさすぎるので、具体的な内容は避けつつ、私の個人的な感情であって本当にそんな綺麗な理由ばっかりじゃないってことを改めて謝った。

 しどろもどろでちょっと変な感じになってしまった。ケイさん、どう思ってるかな? 頭をあげてからちらっとケイさんを見ると、ケイさんはきょろきょろ天井を見る様に目を泳がせてからぐっと鼻から眉間にかけて皺を寄せた。眠いのかな?


 首を傾げながら、今日のところは先に寝た方がいいのかな? と思ったところでケイさんが口を開いた。


「……思っていた以上に、カノンが私の仕事を好意的に感じてくれていて嬉しいし、全然、本業に専念するのに否はないんだが……個人的な理由と言うのは? 隠したいことなら、暴きたいわけではないんだが、あの、もしかしてだが、フィアンナとか、客とか、関係ないよな?」

「えっ……も、もしかして、気づいてたとか?」


 お客さんに声をかけられているのも嫌だし、ちょっとだけだけど、フィアンナさんともすごい仲良しだからちょっと嫉妬してた。もちろんこっちは私より長い付き合いのお友達だから何にも言うつもりはなかったけど。

 でももしかして、ばれてたの? 思わずギクッと反応してしまった。これが鎌をかけたんだったら目に見えてわかりやす過ぎるくらいの反応をしてしまったので素直に尋ねた。


 するとケイさんは目を見開いてから前かがみになって、膝の上に肘をついた。そうされると隣の私からはケイさんの顔が見えない。


「……」

「ケイさん? あの、恥ずかしいからなんか言ってほしいんだけど」


 私が誰にでも嫉妬してたとか、それで人を遠ざけようとしたとか、冷静に考えてめちゃくちゃ独占欲強すぎるし、全部ばれていて誤魔化そうとしてたのもバレバレとか、凄い恥ずかしくなってきた。

 ケイさんから発せられる真剣な空気。これはシリアスな予感。姑息だってちょっとは怒られるのかな? ケイさんには甘やかされた記憶しかないし、注意にしたって優しくだったから緊張してしまう。


「……カノン、私は……どうすればいい?」

「え? どうって、えーっと、希望を言ってもいいなら、私のことがめちゃくちゃ大好きすぎて恋人の可愛い嫉妬も全部包み込んで愛してくれたら嬉しいなー。……なーんて」


 何故か私の希望をきかれたので、とりあえず一番都合のいいことを言ってみると、途中でケイさんはめちゃくちゃびっくりしたように振り向いた。口は半開きだけど何も言ってくれないのでとりあえず茶化してみたけど、ケイさんの表情は何故かぽかんとしたままだ。


「ん? ……んん? あ、あー……嫉妬。つまり、何だ。私が店で働くのをやめさせたのは、私がフィアンナや客と仲良くすると嫉妬するから、ということか」


 そして数秒かけてうめくようにしてから、何故か今更呆れたようにそう言った。


「えっと、そうだけど、わかってたんじゃ?」

「わかるわけないだろう、そもそも私を好きだと言う物好きはカノンくらいだ」


 ケイさんはソファの背もたれにもたれてから、呆れた声のまま横目で私を見つつそう言った。モテモテって自覚してほしいわけじゃないけど、そう卑下されるのはだから別なんだってば。


「そんなことないもん! ケイさんはすっごくかっこよくて可愛くて、世界最強なんだから!」

「最強って。いや、腕力的な意味ならこの街最強の可能性は否定しないが」


 そう言うところはちゃんと自信あるんだよね。うーん、でも最強って言う表現は伝わらないみたいだ。えーっと。どう言おう。


「そうじゃなくて、ケイさんはすっごく魅力的ってこと」

「それは、まあ、カノンがそう思ってくれていることは否定しないさ」

「うー」


 ケイさんは少しだけ気恥ずかしそうにしながら頷いた。そう言う風に言われると、あくまで私の主観ってことで認めているわけだし、他の人の主観でも絶対って証明する方法はない。


「そう拗ねないでくれ。私はそう思ってくれる恋人がいて幸せに思っているよ」

「むー。って言うか、なんか今気づいた感だされたけど、さっきのもしかしてって言うのはなんだと……えっ? もしかしてだけど、逆に私が他にお店で好きな人がいるから合わせたくないと思った?」


 ケイさんを店に関係する人から遠ざけるのに、私が嫉妬している以外の理由でかつ何だかシリアスになられる理由を考えて、はっとして思いついたことを尋ねる。

 私の質問にケイさんはさっき以上に勢いよく目をそらした。


「……普通に考えたら、それしかないだろう」

「えー! なにそれひどい! 私ケイさんしか見えてないのに! 私のことそんな、浮気するような人だと思ってるの!?」


 あまりにひどい疑いに、私は思わず立ち上がってケイさんの顔を両手ではさむように掴んで引き寄せる。


「そ、そういう訳ではないが、冷静になれば私よりいい人はいくらでも」

「いないし! ていうか、絶賛ラブラブ生活しててどこに疑う余地があるっていうの!?」


 毎日一緒に寝て朝から晩まで一緒にいる時はほぼずーっといちゃついてるのに、気持ちを疑う隙間ある? さすがにひどすぎる。

 そもそも私元々そんなえっちな子じゃないし、ケイさんだから応えたいし求めたい気持ちになってるのに。なのに体力が付く前から毎日ケイさんに応えてたって時点で、めちゃくちゃケイさんの事愛してるっていうのに。疑うかな普通!?


 顔を無理やり正面から合わせているのに、ケイさんは目を泳がせようとする。


「いやあの、会話の流れ的にそれしかないと言うか、あの、か、カノンだって私と他の人との可能性を考えて嫉妬したんじゃないのか?」

「可能性なんて考えてないよ! ケイさんが私のこと大好きなのは信じてるもん! でもそれはそれとしてケイさんが他の人と仲良くしてるの目の前で見せられるともやもやするの!」

「そ、そうか……その、すまなかった。カノンの気持ちを疑ったわけじゃないんだが。その、カノンはだな、ちょっと趣味が悪いと言うか、惚れっぽいところがあるだろう? だからその、私だけじゃなく、他の人も好きになってもおかしくないかと」


 そんなわけないでしょ! と怒鳴りたくなったけど待てよ、と抑える。他の人も好きにとか、浮気する人に見えるって言ってるのと同じだけど、これはもしや文化の違いでは?

 私は手を離して腕をくんで一旦怒りを抑える。冷静に考えよう。


「えっと、言いたいことはあるけど、先に確認しておくと、この世界は一夫一妻というか、その、人を愛するのは一人が一人って言う概念じゃないの?」

「そう、だな。種族によるな。極端なことを言えば、話に聞いただけだが海豹族の一部では一人が百人の妻を持つらしい」

「そ、そうなんだ。あ、でも私は絶対嫌だからね!」


 私の居た世界でも一夫一妻制は絶対という訳でもなかったし、異文化なんだから全然違う文化でもおかしくない。とは思ったけど、まさかの一対百って何。こわい。あざらしって哺乳類でそんなことあるの。見たことないけどあざらしってあんなに可愛い見た目で?

 一瞬動揺しかけたけど、今はそれは問題じゃない。私とケイさんがどうなのか、だ。大事なところを確認したので腕をおいて、私はケイさんに抱き着きながらそう主張した。


「私の種族はその一夫一妻だ。だが、私はそうだが、カノンの種族がどうかはわからないし、そう、だからちょっと勘違いしただけであって、けしてカノンが浮気をする人間だと思ったわけじゃないぞ。だから怒ったりもせず、どういう希望なのか聞いただろう?」


 ケイさんは私を軽く抱っこして自分の膝に横向けに乗せてから、頭を撫でながらそう私を落ち着かせるように言った。

 ちょっと早口気味に言われたのが逆に妖しい気もするけど、でも言われたらその通りだ。こういうのについて話し合わなかったから、そう言う可能性もあると考慮してくれたのか。それを思うと私は配慮が足りなかったよね。反省。


 私は顔をあげてケイさんを見上げる。ケイさんは優しい目をしていて、こんな状況だけどきゅんとしてしまう。なでなでも何もかも優しすぎる。


「そっかぁ。ごめんね、私つい、ケイさんに信用されてないのかと思っていらっとしちゃって。私は種族的にも今まで生きてきた国の文化的にも、私個人の気持ち的にも、一人だけを愛するタイプでケイさんしかいないからね?」

「いや……私もちゃんと確認せずに悪かった。その、私もカノンと同じだ」

「じゃあ、絶対ないけど、もし今後私が他の人を見てるって勘違いしたとしたら、許したりせずちゃんと私のこと引き留めて、束縛してよね」


 これでお互い別の人を作るのはルール違反とわかったんだから、お互いを束縛する権利がある。浮気を疑われたのもいらっとしたけど、文化だからって私の浮気を容認するみたいなのもいい気分じゃない。

 だから私はそうケイさんにお願いしたところ、ケイさんは喉の奥で笑うようにくつくつ笑った。うっ。その笑い方かっこいい。じゃなくて、笑われてしまった。勢いで言ったけどちょっと重かったかも。


「んん……そうだな。しかし、カノンがそれほど束縛するタイプとは知らなかったな」


 ちょっと恥ずかしくなってしまった私の反応を見てケイさんは咳払いで誤魔化してから頷き、にっとからかうようにそう言ってきた。


「う……だってぇ。呆れた? 重い? 不愉快? 嫌?」


 嫌、とは思っていないだろう反応だけど、呆れてはいそうだ。自分でもケイさんと付き合って初めて知ったけど、どうやら嫉妬深くて独占欲が強いみたいだ。

 そっと反応を窺う私に、ケイさんはふっと笑って鼻先を私の鼻に触れさせた。


「呆れてもないし、不愉快でもない。重いけどな」


 うっ。めっちゃいい顔のいい声で言われてしまった。まあ、重いのは事実だよね。でも言い訳させてもらえるならしょうがなくない? だって私には、ケイさんしかいないんだから。

 と言おうか、でもこれ言うともっと重いし、と思ってるとケイさんは鼻を離して軽くキスをしてぺろっと唇をひと舐めしてから笑った。


「だが、私はもっと重いぞ。カノンがそんな風に言うなら、たとえ何年かたってカノンの気が変わったとして、離すことはないし、なんなら力の差をいいことにカノンを捕まえてしまうかもしれない。それでもいいのか?」


 いいのか? と聞きながらぎゅっと私を抱きしめてきたケイさんに、私は笑ってしまう。


「んふふ、なにそれ。それってさ、私的には嬉しいよ。私のこと、ずっと捕まえててよ。私もずっと、ケイさんのこと離さないから」

「ああ。わかった。そうしよう」


 ケイさんはそう言って私の頬をぺろぺろ舐めた。


 それから一緒にお風呂にはいって、グルーミングを受けてからベッドの上でゆっくりする。


 ちょっと一瞬喧嘩みたいになっちゃったけど、無事私の気持ちも伝わってケイさんがお店で働くことはなくなったし、今まで以上に文化理解も進んだから、よかったよかった。幸せ。


 その後、お迎えに来てくれる時の夜にお客さんとして来る時に、店員時より他のお客さんにからまれるようになってしまったので、わかっていても拗ねてしまう私に、ケイさんが首輪をつけるとか言い出したりするのだけど、それはまた別のお話。


 そんな感じで、私とケイさんは色んな文化の違いも乗り越えながら、末永ーく幸せに一緒に過ごすのでした。めでたしめでたし。

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異世界転移体格差人外もふもふ百合 川木 @kspan

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