BLAZIER公式現パロクリスマス版

先仲ルイ

謎のサンタとツキとネコ

「夜中に堂々と家入ってくるとか怖すぎだろ!キモいなそのジジイ!」


「サンタクロースに失礼だろ。ほら彼は、子どもたちに喜んでほしいから、寝ずに飛び回ってプレゼントを配るんですよ」


「新手のバケモノか?私でも無理だぞそんなの」


「なんでもクリスマスイブまでに力を溜めるため、一年中寝てるんだとか」


「何の最終兵器だよ」


「人を笑顔にするために、強大な力を善行に使う……。いい人じゃないですか」


「夜目覚ましたらジジイが立ってるとか怖すぎる。私はいらない!プレゼントなんて!」


「お前今19だもんな。そろそろサンタ卒業してなきゃ危ねー年齢かも」


「ぐぬぬ……」


 なだめるアカゲ。


「……プレゼント置いとけば何でも許されると思うなよ!!かかって来い自己満ジジイが───っ!!」


 ツキは夜空に向かって叫んだ。

 道ゆく通行人は振り返る。


「ちょ、ちょっと、みんな見てますよ!」


 慌てたアカゲは、アハハ……と笑って誤魔化した。通行人もすぐにツキを気にしなくなり、また先ほどのように歩いていく。


「ジジイは空を飛んでいる」


 ツキが腕を組みながら語る。


「───マジのバケモノなら、きっと返事は返ってくる」


「サンタクロースは所詮迷信だから……どうですかね、厳しいんじゃないかな」


 アカゲが夜空を見上げると、途端にしんしんと雪が降り始めた。

 ……。

 まるで空が返事をしたような具合で、雪はゆっくりと舞い降りる。

 ツキの鼻先に小さな綿雪は乗り、彼女は目を輝かせた!!


「───アカゲ!!決闘だ!!」


「サンタと?」


「うん!!」


「あまり仕事を増やしてやるなよ……」


───────────────────


 アカゲ宅。

 お腹いっぱい食べて満足げなツキを部屋に連れて行き、電気を消して戸を閉める。


「いいかアカゲ!どっちがサンタの正体に迫れるか勝負だからな!」


「サンタ来ますかね」


「来る!!」


「だといいな。おやすみ」


 戸を閉める直前のツキは、もうバチバチに目を開いたままだった。


 さてと、とアカゲは皿を洗い始める。

 カチャカチャと食器の音を響かせ、冷たい季節の水道水が手を冷やした。

 洗い終わって芯まで冷たくなった手を、石油ストーブの温風にあてる。


「あったけえ」


 ツキはもう寝ただろうか。いや、あの様子じゃ1時間は寝ないだろう……。

 そう考えながら、バレないようタンスの奥にしまってあった赤いコスチュームに手を伸ばす。


───────────────────


 ……いつサンタが来てもいいように、ツキは武器と一緒に寝ていた。

 流石に怪我をさせてはいけないからと、帰る前に寄ったおもちゃ屋で買った、柔らかい剣だ。

 サンタがやってきたらバチンと叩く。

 サンタがやってきたらバチンと叩く。

 サンタがやってきたら、バチン……。

 サンタ……バチン……。

 バチン……。

 繰り返しイメージトレーニングをしながら、ツキは眠りについた。


───────────────────


「ククク……」


 怪し気な笑みを浮かべるアカゲ。

 楽しそうだ。


 時計は夜の0時を指し示す。

 ボーン……ボーン……。

 時計の音で目を覚さないように、壁掛け時計はアカゲの手によって毛布でグルグル巻きにされていた。

 こもった音を聞きながらアカゲは暗い部屋で呟く。


「では、行きましょうか。サンタクロース作戦……開始です」


───────────────────


 ギギギギ……。最小限の音に抑え、ツキの部屋の戸を引く。

 リビングの灯りは落としているため、真っ暗な状態だ。


 トタ……トタ……。


 ゆっくりとサンタクロースは近づいていき……。ツキの枕元に到達する……。

 すやすやと寝息を立てるツキ。

 眠ってしまっているようだ。


 サンタは抱えていたプレゼント箱を枕元の机にそっと置き……。

 そのまま部屋をあとにする……。

 と思った瞬間!!


 バサリとツキが跳ね起きて、掴んだ剣でサンタクロースをぶっ叩く!!


 バチィ────────ンッ!!


 途轍もない轟音だ。

 柔らかい剣は、ちぎれ飛んだ。

 人間が食らったら怪我どころでは済まなそうな一撃……。それを、サンタクロースは……。


 躱していた───!!


 瞬時に身を仰け反らせ攻撃を見切っていたサンタ。

 間一髪助かったサンタは、胸を撫で下ろした。

 寝ていてよかったと、心からそう思うサンタクロース。


 ツキは、刀身がちぎれ飛んだ剣を握りながら、ベッドの上に立ったまま寝ている。

 イメージトレーニングの甲斐あってか、寝ながらの攻撃を会得したようだ。

 ……そして、ボスンと後ろに倒れ、柔らかいベッドに包まれ……また寝息を立て始めた。

 

 暗くて見えないが、ツキは満足そうな顔をしていた。夢の中ではサンタを倒せたのだろうか。

 現実世界のサンタは、暖かく眠れるようツキに毛布を被せた。

 こちらも満足そうに頷いて、そのまま部屋を退出する。


 ゆっくりと戸を閉め終わり、仕事を終えたサンタクロースにアカゲは声をかけた。


「助かりました、サンタさん」


「……なあに、これしきのこと」


 その後サンタとアカゲは、しばらく晩酌を楽しんだ。

 深夜3時、サンタはアカゲ宅を出た。その頃には雪も止んでおり、徒歩で帰ろうとするサンタ。

 玄関先。

 アカゲの心配を跳ね除け、貫禄の一言。


「サンタの仕事は終わらぬよ。───待っている子どもらが、おるからの」


 よければまた来てください、とアカゲは別れを告げて、扉を閉めた。


 ……これがアカゲのクリスマスイブ。

 あくびをして、コタツに戻る。


───────────────────


「あ─────────ッ!!」


 ツキの大声で目を覚ましたアカゲ。

 いつの間にかコタツで寝てしまっていたようだ。


 ピシャリ!!と戸が開いて、ツキが出てきた。

 両手には、ちぎれた剣とプレゼント箱が。


「あんま騒ぐと苦情来ますよ」


「プレゼント来た!プレゼント来た!」


 大はしゃぎのツキ。


「随分嬉しそうすね」


「サンタも来たからな!!」


「そりゃすごい」


 ツキの証言によれば、無事サンタに一撃を入れたが、間一髪で逃してしまったという。


「あれはなかなかの身体能力だぞ。さすが変態ジジイ」


「段々呼び名がヒドイな」


「でも顔が分からなかった!!暗くて全然」


「まあそうだな」


 アカゲはそう言うと、ポケットからスマホを取り出し、写真フォルダを開いた。


「“どっちがサンタの正体に迫れるか”でしたっけ」


「そうだ。もしかして、アカゲもサンタに会った?」


「ええもう、バッチリ」


「マジか!!お前が相手できるとは思えねー……」


 アカゲは鼻を鳴らしながら、サンタとのツーショットをツキに見せる。


「これがサンタです」


 見れば、白い髭を生やした健康そうな老人が、赤い帽子と赤い服。まさにサンタクロースと同じ格好で、アカゲの横に写っている!!


「めちゃめちゃフレンドリーじゃんサンタ!!すげえ!!」


「知恵を使って捕獲したまでですよ」


「……つか、このサンタ。なんか見覚えが……」


「そんなことないですよ、サンタです」


「……」


「……」


「サガミじゃね?」


 こうして、快晴のもと、二人はクリスマスの朝を迎えたのであった……。


───────────────────


「何これ」


「ああ、それはネコ型ロボットの類いですね」


 ツキがビリビリと開けた箱からは、等身大で作られた、猫っぽい毛むくじゃらの何かがあった。

 ツキは付属していた説明書を熟読する。


「“ネコが鳴きます。背面のタッチパネルから、設定を行ってください”。だって!」


「最近のおもちゃはすごいからな」


 名前と生年月日を入力して、ネコの性別や性格をカスタマイズする。

 どんな遊び方をしたいかや、好きな食べ物は何かなど、質問形式で情報の入力は行われるようだ。

 ようやく設定が終わって一息ついたら、ギュインと4足で立ち上がった。


『おはよう、ツキちゃん!ボクの名前はコタロウ!これからヨロシクね!』


「アカゲ!!コイツ猫じゃねえ!!」


「ああ、喋る猫だな」


『ボク、遊びたい気分だなあ……。付属の猫じゃらしデバイスを使ってね!』


「コイツ厚かましすぎるぞ!」


「まあ、可愛がってあげてくれ……」


 クリスマスの朝を、迎えたのであった……。

 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BLAZIER公式現パロクリスマス版 先仲ルイ @nemusuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説