十一章

発見



 小高い丘の上の疎林そりん匍匐ほふくし、眼下の平原を埋める黒い蟻のようなうごめきに悪態をついた。

他所者よそもんが大所帯でよお」

「我らの三倍はいる」

「まさかこんなところに隠れていたとは」

「難しくなかったろうさ。守護の城砦司令ゾンプンが見ぬフリしてたんだからな」

「これではどこにゲーポがいるのか、まるで分かりません」

 もう一度うらみを込めて毒づき、ンガワンと配下たちは一時ねぐらとした窪地へ戻った。

「どうします、真正面から仕掛けてもあの数じゃあ」

「と言ってもぐずぐずしてる暇はないぞ。あと少しで国境だ。越えられてはもう手出し出来ん」

 将軍ヤソー、と男たちは黙り込むンガワンの意見を口々に求めた。

「奇襲しかないのでは?」

「夜討ち?当てずっぽうに?」

「それこそゲーポの座処が分からねばならない」

「そもそもおられるのか、どうか……」

 ひとりの言葉にいきり立った。

「貴様、よもやゲーポがすでに討ち取られておると言いたいのか」

「ゾンプン・ユルスンの虚言だったと?我々の追走は無駄足だった?」

「しかし〝王の特別〟は生きていると言った」

「貴殿はヒュンノールから連れ帰ったあんな子どものでたらめを鵜呑みにしているのか」

「ヤソーの姉君であられる報魂師レウルンもそう判じた。託宣を偽るなど許されぬ。ならばゲーポはまだ生きておられる!」

「都から出てきて何日経ったと思っているんだ?あのときは生存されておられたとしても、ひと月以上引き回された今、もはや望み薄では」

「センゲは生きてる」

 ンガワンの一言に場は静まり、否定的なひとりが、ですが、と再び口火を切った。

「ゾンプンが真実を話していたという確証もありません。むしろ我々を罠に嵌めるために深追いさせようと企んだとしか思えない」

「内心この数じゃどうせ無理だろうとわらっていやがったのさ」

「いまさら言ったって後のまつりだろうが」

「それで結局――どうするのです!」

 突撃か撤収か。進退をく兵たちは一様に悩む。ンガワンも溜息をついて鈍空を見上げた。


 映った一点に釘付けになった。


「ヤソー?」

 すぐさま立ち上がり、先ほど観察した場所へ戻る。二、三が慌てて従い、いったい何が、と困惑した。同じように並んでうつ伏せになった目の端に、かすめたのは風切り羽。ひらめくのは五色のふだ

「あれは…………」

 札をあしに留めつけたオオタカはかなり上空でしばらく風に乗っていたが、見ている間に一気に急降下し、鉄色の集団の一箇所の上でくるくると旋回しはじめた。


 その下にはほろをかけた小ぶりの荷車。


「――――あそこだ!」

「確かですか⁉」

「間違いねえ」ンガワンは走った。これは最初で最後になるかもしれない好機だ。再び動き出した隊列の流れで荷車は徐々に近づいてきていた。

「皆を集めろ。仕掛けるぞ」




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