幽閉
ユルスンは嘘を言っていなかった。運ばれたのはおそらく貴族が寝起きするのと同じくらい豪勢な部屋のようで、床はどこを歩いても
籠にはクルミ、ナツメ、グミその他今まで食べたことのない木の実や果物が山盛り。好きなだけ食べていい。朝と夕にはチティとパティが来て食事と
ヒュンノールにいた頃でもこれほどの扱いは受けたことがない。今まで経験したなかで最上の待遇だった。
こんな状況でなければ人生で数少ない幸運だと有頂天になって満喫していただろう。しかしこれはきっとその分ユルスンの要求が重いことをものがたっており、前払いのつもりなのだと怯えた。絶対に逃がさないという圧力を感じる。そして、もしもンガワンたちを殺せと言われて、できないと言ったら、もうひとつの眼も潰される。確実に。
遅かれ早かれメフタスがやろうとしていたことと同じだ。取引だと言ったがこちらにはおおよそユルスンと対等に張り合えるものなど何も無く、彼は常に有利に事を運ぶ。従わなければ罰を受ける。唯一持っている眼の力さえ脅威とはならない。そもそもユルスンは価値を感じておらず
「あんたのせいで延び延びになってたけど、明日出発することになったそうよ」
五日目朝、チティが桶に湯を張りながら言った。
「都に……」
「そ。メフタスはせっかちよねえ。まだ残党だって片付け終わってないくせに」
衣を脱がしてくれたパティに手を引かれて桶の中に座り込み、俯いた。
「……わたしも?」
「当たり前でしょ。あんたのために
心に重石が乗ったようで口を
「可哀想にオルヌド。あとでお薬を飲みましょうね」
「おくすり、痛くなくなる」
女二人はおとなしくしていれば哀れんだり励ましてくれる。だがそれもユルスンから命じられたからで、彼女たちの眼中には兎にも角にも主人しか見えていないようだった。たとえ年端もいかない少女が眼を潰されたとしてもその行為自体を責め立てたり非難したりは全くない。チティとパティもまたユルスンと同じく上辺は丁寧で優しいが実のところは他人に無関心で白々しかった。それが憂鬱に拍車をかける。
「あのさ、ちょっとひとりにしてほしいんだけど」
「だめよ」「だめ」
「湯浴みくらいゆっくりさせてよ。外に見張りもいるじゃんか」
「このくらいの水だって自害するには十分なのよ」
「するわけないだろ。おねがい、ちょっとだけでいいんだ。おねがい」
顔を覆って懇願すると迷う沈黙があり、やがてチティが「しょうがないわねえ」と立ち上がった。
「本当に少しだけよ?湯冷めして風邪ひかせたらあたしたちが怒られちゃうんだから」
「うん」
「手ぬぐいを替えてくる間だけ。いいわね?」
二人の足音が入口の柵の向こうへ遠ざかり、両膝に頭を埋めて湯気を浴びた。眼が
ンガワンはどうなっただろう。センゲを無事に助け出せたのか。早くだれかに『入って』確かめねばと思うのに、思えば思うほど意気消沈してやる気を
せめて見えるようになれば……。
「…………」
ふと、手首に
すでにぬるくなりつつある湯の中で撫でた。
「……まだ怒ってる?」
不用意に話しかけてはならないほどの神だとは分かっていたが、そうせざるを得ないほど落ち込んでいた。
あのとき、ラマナの中のリンモは白い大蛇の姿でラマナの額に開いたもうひとつの目で
声が聞こえたわけではない。ただ意思は伝わった。入り込んできた、というほうが正しい。示されたのだ。見よ、と。
ラマナの唱えた祈りの文句をうろ覚えながら呟く。
「……
「わたしはラマナを
何度か繰り返して、溜息を吐いた。やはり奇跡など起きるわけもなく、見えなかった。
そのうちチティとパティが戻ってきて、わずかでも期待してしまった自分がバカバカしくなってふて寝した。
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