支配
「きみたち、仮にも主人の
「おかえりなさいユルスン」
「おかえり」
二人の女は小さな
「無事でよかった」
「僕の身体は無事とは言えないみたいだけど?」
「遠慮はしているわ。なんてったってあたしたちの大事なユルスンの肉体ですもの」
「でもちょっと楽しかった」
「正直だなあ。……久しぶりだね、オルヌド」
おそらく腕を組み首を傾げたのは、まさに自分――の、身体。
「大胆な真似をしたね。でも乗っ取るのではなくて入れ替わったのは失敗だった。彼女たちのおかげで賭けはきみの負けだ。アニロンにもヒュンノールにも
拘束が外されて倒れ込む。助け起こしてきた気配と細い手のちぐはぐ具合が激しく、それだけで吐きそうだった。他人が『入った』自分と接するのは初めてだったのだ。
「僕の中はどう?居心地良い?」
「ユル、スン……
「その話はヤソー・ンガワンともしてきたよ。センゲさまをおとなしく引き渡すかどうか、それを決めるのはオルヌド、きみだ」
「わたしは、もうその名まえじゃない……」
「いいや。きみは僕の
「わたし、は……」
汗を拭き取ってくる手をなんとか振り払って睨む。
「わたしがおまえのものになったとして、代わりにゲーポが本当に無事になるのか、信じられない」
「何を言ってるの?」
ユルスンは素できょとんとした。
「今みたいに、センゲさまに入って確かめればいいだけだよね?」
「それは、その女たちがわたしを消そうとしてるから、しばらく力は使えないかもしれないし、もし入ったときは助かってても、後でおまえらがしつこく追手をかけてくるかもしれないし」
ここで
「ワガママだね。でもその歳にしては戦の機微をよく分かっている。オグトログイにへばりついていただけはある、ってことかな」
ユルスンは肩を竦めた。「きみって
「お前との口約束なんか、信じられない」
「ふぅん、そう。じゃあ口約束でなければいいってこと?」
「それこそ、できっこないくせ、」
「互いに誓いを立てればいい」
ぐちゅ、と何かが潰れる水音に硬直した。
「え……え……?」
ぺちぺち、と今はユルスンである自分の顔を触る。片目からどろりと生温かい血と残骸がこぼれてきて慌てて起きる。押さえると鈍い痛みが伝わり混乱した。
「は⁉……なに、なにしたっ⁉」
「僕の片目を
「な、なんで」
「誓いだよ。僕はセンゲさまを殺さないよう嘘偽りなく命令した。その証。誓いには大切なものを懸けなきゃならないからね」
「バカじゃん!おまえ、バカじゃんッ‼」
「きみは今すぐ自分の身体に戻ればまた力を使ってセンゲさまの行方を追える。もし僕の仲間が刺客を放っていると分かったら、取引の約定違反とみなして僕のもうひとつの目も潰しに来ればいい」
「そんな……」
「うん。それで、きみが守る約束は僕の臣下になって命令を聞くこと。僕はきみに毎日ごちそうをあげるし、広い部屋と寝床も用意するし、欲しいものはなんでもあげるし、チティとパティを
「それ、は、でも」
「あのね、誤解しないで。もうきみには拒否権も無いんだ」
襲ってきた衝撃に悲鳴をあげた。ぱっ、と
安堵したのも束の間、さらに増した耐えがたい激痛にのたうち転げまわる。
「あっ……がっ、ああああ‼」
「気持ち悪い。吐きそう。それにどこもかしこもひりひりして痛い……」
「ごめんなさーい」「ごめん」
手首を
「オルヌド。これできみも誓いを立てた。破ったらもうひとつも同じようにするからね」
この男は
「……どうゆうことだ……?」
「言い忘れていた。何不自由ない快適な部屋を用意する代わり、これから一生、鍵と監視を付ける。監視役は憑依防止のためにきみには見せないけれど悪く思わないでほしい。まあ、なぜか今はそもそも視力がないらしいけれど」
複数の人が入ってきて抱えられ、ユルスンと女たちから遠ざかっていく。
「忘れて。オグトログイも、センゲも、ンガワンも、今までのことは全部。そして覚えて。今からきみには僕しかいないってこと。きみを生かすも殺すも僕にかかっていることを肝に命じて」
でないと、死んでしまうよ。
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