失明
ンガワンが帰ると姉はひとり
「あいつは?」
「寝ておる。どうじゃった?」
「まとまった騎馬は用意できた。敵も定まった。
「
「呪い師?
「いいや、もとは母親の飼っていた
「ああ」
「つまらぬ嘘をつくな」
ンガワンは舌打ちした。「『〝悪霊に憑かれた雪獅子〟が欲しい者は〝呪いの赤い小兎〟を東城へ献上しろ』だと」
「本性を現した。ゲーポとツェタルを交換?
「センゲの切り毛を振り回してやがった。ラクパシンパはどっかに逃げた」
ンガワンもまた自分の髪をぐしゃぐしゃに乱した。
「クソどもが!絶対許さねえ‼」
「ふむ。しかしこれでゲーポが生きておるということは分かったな」
「それも本当か分からねえじゃねえか!」
「いいや。儂の
それよりも、と数珠から目を離さず続けた。
「ヒュンノールの残兵その他を懐柔し反乱を起こすとは、ユルスンがそれほど力を持っていたとは驚きじゃ。年若く経験も未熟で北の遠征にも行かず、ゲーポの覇業の影に霞むような弟だのに、いつの間にそれほど支持がついたか」
「知らねえが東で好き勝手やってたんだろう。実際センゲは甘やかしてたしな。つけ上がりやがって」
ラマナはふぅむ、とまだ考えながら
「だいたい、何が不満だ。ヒュンノール人だって四つ目野郎から解放されて助かった奴も多いってのに……」
「……は?何してんだ、チビ」
「ゲーポが捕まったって、ほんとう……?」
盗み聞きしてたのか。ンガワンはいらいらと
「みたいだ。だがお前を一緒には連れて行かねえぞ。どんな罠が待ってるか分かったもんじゃねえ」
よろよろと立ち上がったツェタルは手を見当違いなほうへと伸ばし、かろうじてンガワンの裾を握った。
「ユルスンが、ゲーポを裏切った……ユルスンを殺したら、ゲーポが助かる?」
「お前な、昔と同じことしようっての、か……」
涙で濡れた顔は必死の形相、おどおどと揺れる焦点はこちらとは合わない。ンガワンは屈んでツェタルの両肩を押さえた。
「チビ?おい、こっち見ろ」
赤黒い眼はいつもの通りだが。
「……お前、見えないのか?」
「み、……みえない」
かぼそい声を聞いた途端、ンガワンは隣房に戻りラマナに迫った。
「チビに何した」
「儂に『入ら』せた」
「ふざけんな!」
超然と答えた姉の数珠を引きちぎった。「よせと言ったはずだ!あんたの好奇心だけで他人を振り回すな!」
「勝算はあり、収穫はあった。ゲーポの居場所はツェタルが突き止めた」
「眼が見えなくなってんじゃねえか!」
「神
話にならない。ンガワンはラマナを放り捨て、壁をつたってきたツェタルを抱き上げて外へ出た。
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