初動
今の話でそういえば、と思い出した。
「あんたはさ、最初に
メフタスは少し驚いたようだったが、もちろん、と頷いた。
「自分のせいでヒュンノールの兵士が死んだのに?」
「それを言い出せばきりがない。戦とはそういうものだ」
「どうしてデルグの言うことを聞かなかったんだ?」
「そなたにとっては良い
それで、とメフタスは一拍黙った。言うべきではないと迷ったようだったが、結局は静かに続けた。
「ある日デルグが巡察に来て、病気と不具の奴隷を引き出してその場で埋めた。今後はこのようにして良いと言ってな。それを俺たち軍兵にではなく奴隷どうしでさせた。足手まといを処分した者には報賞も出す、と。奴隷は互いを監視し合い、殺し合ってさながら地獄だった。だが耕作は驚くほど進んだ。
見ているこちらが恐ろしかったぞ。溜息を吐いた。
「あれではすぐまともでなくなる。仲間同士で
ツェタルは言葉もなく俯いた。そんな
「知らなかった……」
「だろう。そなたはあの方の〝
無理もない、と腰を上げた。「誰だってそなたの不思議な力は便利だと思う。無敵に等しいゆえ、こと戦においては何としても手に入れたいと望む者は後を絶たない。あの
どこか殺伐とした声音に肩身が狭くなって膝を抱えた。
「わたしだって、へいきでやってたわけじゃ、ないもん……」
「――――そなたが平気だったか、心を痛ませていたかどうかは関係がない」
するりと何気なく伸びてきた手に反応できなかった。
「敵を混乱させるその眼の力はあまりに危険であまりに魅惑。諸国の王がそれを知って
ぐっと喉が詰まって咳き込むが、締めつけは緩まない。
「
そのまま持ち上がって慌て、どこにも触れない足をばたつかせた。苦しい。呼吸ができない。ならば、こいつの中に……!しかし、メフタスは先ほどまでとまるで変わらない落ち着きでツェタルを壁に押しつけ、さらに力を込めた。
「いま俺に『入れば』このまま絞め殺す。……俺はアニロンを好機とみなしたが、べつに
冴えた声が耳の奥で、ぐわんぐわん、と鳴って響く。
「もともとヒュンノールは長くないと予想はついていた。所詮はデルグ一人によって成り立つ図体がでかいだけの
遠くで、ちゃりん、と軽い音がした。メフタスの話はほとんど聴けなかった。どくどくと激しい拍動、体に力が入らなくなって眼が霞む。抵抗していた両手をぶらりと下げた。
「あと、無知であることは必ずしも免罪とはならぬ」
薄れゆく視界に裏切り者の笑みが風に
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