過去
ジンミーチャ隊は捕まえた
「この数日しこたま眠り薬を飲まされたみてえだな。かないっこねえのに暴れまくったんだろ」
「大丈夫なのでしょうか」
少し目覚めても急に意識を失うのでイシグは自分とツェタルを縄で結んでいる。
「まあそれだけじゃなさそうだが……」
ンガワンは
「おいイシグ、このクソガキの力ってのはよ、めちゃくちゃ疲れるもんなのか?」
「ンガワンさま」
声が大きい。周囲を窺うイシグに鼻を鳴らした。
「いまさら隠したって何になんだよ。どうせセンゲが〝ツェタル〟にしてから悪口なんてごまんと言われてるだろ」
「それでも……!俺は正直、もうこいつに力を使わせたくありません。またドクパみたいな奴らが出てきたら」
「出てくるに決まってる。こいつがいるかぎりアニロンは最強になると同時に警戒される。力は使うっきゃなくなるぜ、たぶんな」
「そ、そんな」
「お前はなんでそこまでこいつを庇うんだ?たしか四つ目野郎を殺したあとも命乞いしてたな?」
イシグはツェタルの
「……俺とこいつは同じ時期に別々のところからヒュンノールへ来ましたが、そのときからこいつには不思議な力があるという触れ込みで
ツェタルの村をはじめに襲った小隊がいつまで経っても戻らないのを不審に思った中央が別軍を差し向けると、かろうじて逃げ出してきた生き残りと行き合った。話によれば、突然仲間同士で殺し合いをしはじめ、自分以外は全員死んだという。まさかと辿り着くとすでに凍りついた兵たちの死体、それに倒れて呻く村人たち。赤い眼をした人々に気味悪くなった応援の兵士らは抹殺を始めたが、村で唯一の子どもだったツェタルだけは捕らえて帰ったという。
「つまりは、その村の奴らはみんなクソガキと同じ力を持ってた?」
「おそらく……かなり山奥の辺境で村とも呼べない小さな集落だったと」
「そんなとこまでまあ、仕事に真面目なこって。で、こいつはそれを覚えてねえのか?」
「訊いても分からないとしか言わないのでおそらく」
「ふぅん」
俺は、とイシグは最初の質問に答えた。
「小間使いとして召し上げられましたが、奴隷の子どもなんて
あの奇妙な感覚は忘れがたい。
「頭の中にもうひとりいて、声が響く。一晩だけ自分のほうへ入っておけと言うんです。そんなこと、いったいどうやって、と思った瞬間には、もう知らない部屋の暖かい寝床に横たわっていました」
ンガワンはツェタルを凝視した。
「入れ替われる?」
「みたいです。けれど、こいつが俺のとき以外に
「便利だな。大の大人が寄ってたかってこんなクソガキを欲しがるわけだ。効果はヒュンノールで証明されてるし」
「……それでも、欠点や難点はあります。でなければデルグはあんな死に方しなかった」
イシグは眉間を寄せてずり落ちるツェタルを抱き直した。「でもある意味、あの方はアニロンに勝ったんです」
「――――は?」
「
だだっ広い草原にヤクの黒い点がぽつぽつと。ヤク飼いと羊飼いたちが騎馬の群れに手を振り、それに適当に返してンガワンは山腹に立つ城を眺めた。
「…………ん?」
「どうかなさいましたか」
イシグが馬を寄せた。後ろではすっかり元気になったツェタルが
「もっと近づかねえと分からねえな。走るぞ」
すぐ王都に入り、帰還を労う人々に迎えられた。街はまだ正月飾りが埃を被らないまま祝賀が続けられている。
ンガワンは
「ドーレンの使節は?」
「ドーレン?ああ、それでしたら来ておりません」
「どういうこった?」
「私どもにはお下知ありませんが、変更があったようです」
なにやら胸騒ぎを感じて城へ急ぐ。そんなンガワンなどお構いなしでツェタルは店々に並ぶごちそうや催しに目を輝かせた。
「イシグ、わたしは後で行くから下ろせ」
「ばか。だめに決まってるだろ」
「あれはなんだ?うまそう!あ!ハリボテの虎がいるぞ!動いてる」
「あまりよそ見するなよ、首がもげるぞ」
無邪気な声に苦笑しつつ、
(戦が終わってせっかく助かったんだ、なんとか…………)
とりとめもない考えに
「――――ツェタル‼」
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