救出
あれは………………。
意識が眠りに落ちる直前、最後の力で『溶けた』。
「…………」
ペジレットは気を失ったツェタルを覗き込み、わずかに眉を
「ペジ、どうした」
「……いいえ。早く行きましょう。追手がかかっているはずよ」
言葉を話せるカラスを殺すところを見習いの下女に見られた。
それにツェタルは王と街を散策していたのだ。これはかなり予想外で計画が大幅に遅れた。今頃ならとっくに山を越えていたのに。
カーカがツェタルを抱えて笑う。「羽みたいに軽いから楽チンだ」
「ええ、毎日働かされてろくに食べていないのよ、可哀想に。ジナ、ツェタルをカーカに任せていいわね?」
「ああ、こんなかじゃいちばん速いし。カーカ、落とすなよ」
崩れかけの家屋を出て
しっかし、とジナスタは笑った。
「アニロン王ってのはマヌケだねェ。
ペジレットは足を速めつつ、小声で呟いた。
「……アニロンの人たちは優しいわ。それが
「長くいすぎて
「――――けっ。姑息なやり方」
バクッ、とジナスタが黒い何かに覆われて消えた。
「な……」
次にはペジレットも腹に一撃を食らい吹き飛ぶ。
「戦を知らないド素人のただの嫌がらせじゃねえか」
はじめ、黒い大きすぎるその犬が話しているのだと錯覚した。しかしペジレットを蹴ったのは人の足。
「ははん、見つけた。
もんどりうったペジレットは呻きながら涙目で男を睨んだ。
「ンガワン・エ・キュンガイ‼」
「おい誘拐犯ども。そのガキを返しな。〝
「あの子は一緒に来たいと言ったわ‼だからほっといてよ‼」
「うっせぇわ」
べしゃ、と
「わ、わわ、わわ」
「そこのカラス野郎」
「わぁっ‼」
どこに隠していたか、ぶわりとめがけて襲ってくる黒い群れをンガワンは一羽残らず斬り伏せる。「マジでカラス野郎じゃねえか」
カーカはツェタルを抱えたままあたふたと走り馬に飛び乗った。しかし同じほど大きな犬が襲う。
「ぎゃああ、あ‼」
衣をびりびりに破かれて転げ落ち、脚を噛まれて放り投げられた。巨犬は
「セル、ラ、……‼」
呂律は回らないが怪我なく無事だ。セルラーパにべろりと舐められ抱きついた。
「また、借り、た……。ありがとう」
「クソガキ、俺にも礼を言え」
配下にドクパたちを拘束させてンガワンは居丈高に胸を反らす。が、ツェタルはとろんと眼を細め再び寝てしまった。
「かーっ!助け甲斐のねえ奴。おいデカ犬、てめえが乗せて帰るんだからな?」
「ンガワンさま!残兵がいないか探します」
「おう。とりあえず目的は果たしたぞ」
イシグらが散っていき、頭上で旋回していたオオタカも廃墟の村の入口へと向かう。ジンミーチャの兵に制圧を知らせるのだ。
「たとえ私たちがいなくなっても、ドクパは諦めたりしない…………!」
引き立てられたペジレットは唾を吐く。「絶対に幸せになってやる。花と緑に囲まれた私たちの
空に向かって叫んだ。
「我らの女神エズライル様‼どうか、どうかご武運を‼」
漆黒のオオガラスが一羽、どこからか飛び立ちあっという間に山の向こうへ消える。見送ったンガワンは舌打ちしたが、後を追うすべもない。
「アニロンに
「……っふ……いない、わよ。アニロンなんて、探る価値もないから」
鼻血を垂らして笑う。「北を打ち破ったとて、所詮はまわりの強国の踏み台。いまに喰い荒らされるわ、私の先祖たちと同じように。それでも自分たちだけは大丈夫だと
「クソ女。
ンガワンはそれ以上の会話を切り上げ剣を収めた。
「帰るぞ」
セルラーパが眠る主を乗せてバウ、と吠えた。
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