焦燥
今さらだ。本当に今さらだが、良くない予感はあったのだ。
――――あの男を敵と定めてからだ。あの男、オグトログイ。
『俺の首を
血唾を吐き、北の王は
『そなたらは北地を統べうる力を持たぬ。愚鈍で、能天気で、うぬらのおざなりな幸福しか考えられぬような小物どもには過ぎた土地よ』
それに、と血走った眼をぐるりと回して見てきた。
『そなたらは無知だ。あまりに無知。無知で無垢。おとなしく狭き谷におさまっておれば良かったものを、欲をかいて
『俺を殺せても俺は滅びぬよ。アニロンは龍の
なぜなら、と最期ににやついた。
『俺の
お前には無理だ愚か者、と
もう幾度も、あの男の言葉と顔と、絶命してもなお笑みを浮かべたのままの首をありありと思い出す。まるで本当に呪いにかかってしまったようだった。
彼女を〝
彼女は確実に何者かに騙されおびき出された。単なる
こんなことなら、と唇を噛んだ。はっきりと問い質しておくべきだったのだ。
あの時、たしかにオグトログイを討ち果たして油断はしていた。だが、警戒は
まるで誰かに考えを見透かされているような、頭の中を覗き込まれるような激しい嫌悪と、しかし決して抗えないことへの恐怖がよぎった。知らず知らずのうちに忌避してしまう……あの感覚。
それはたまにツェタルのあの赤い眼と視線を合わせた時に、
それでも、彼女自身は幼稚で我儘で、純粋で天真爛漫なただの愛らしい少女だった。だから……何かを隠している、と了解していたのに、なおざりにして流していた。
(そのツケが来たのか?)
呪いは俺だけではなく、俺の周囲にも伝染した?オグトログイのオルヌドだったあの子にさえ?
こんなことが。
予想さえしていなかった。オグトログイを殺した自分が何らかの害を
飛ぶように馬を走らせた市場の近く、ツェタルの相棒の姿が見えた。鎖を切らんと激しく暴れているその前で、小さな老人が杖を振っていた。
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