失踪
新年昼になり城の中庭は大賑わいで
「しっかりしろ」
そういう下座のンガワンも
「ほら、本番の
くるくると舞う天女たちをちらりと見たがほとんど心動かされないセンゲは手持ち無沙汰に
「なんだよノリ悪いな。お前、その歳で
「今日は来ていないのか?」
「
自慢にならない。
「特に
衆目を魅了しているのは中央の
「もちろん美人のほうが
知らせもなく押しかけてきた南域の首長らだって、他を出し抜いて王のおぼえめでたくなれば一族の息子娘を要職へ宛てがう機会が増えると見込んではるばる貢物を携えて来たのだ。
「この際、気にするのは体裁だけでいい。最悪、ガキの母親は妃本人じゃなくても問題ない」
「お前は本当に身も蓋もない」
「
「ままならない……」
さも悩ましげに気難しく言ってみせたが、もうすでにンガワンの注進など聞いていなかった。そういえば、ツェタルは昼の宴席で酒を配って回るのだと話していたことを思い出したのだ。
追加の酒はまだ来ない。粗相しないようきちんと見ていてやろう、と内心ほくそ笑んで今か今かと待っていた。
しかし、いくら経っても来ない。
「ンガワン、酒を催促してくれ」
「ん?ああ」
ンガワンが慌ただしく行き来する召使いのひとりを捕まえて伝えたがそれでも来なかった。
「ったく、何やってんだ?」
痺れを切らし、
「なんだ」
間髪入れずぼそりと問う。
「我が王とヤソー・ンガワンに……お詫びのしようも」
リメドは今にも泣きそうに
しかし辛抱きかず、次の言葉にはもう階段を降りていた。
「ツェタルが……」
「どうした」
リメドは口を両手で押さえ目を泳がせる。
「門衛によれば、夜に市場へ出たようなのですが、……まだ帰っていないのです!わたくしはてっきり他の
「市場へは確かに行っていた。俺も鉢合わせた」
「でも朝にも見ませんでした。先ほど用事を頼もうとして、初めて気づいて」
お許しください、とひれ伏すリメドを見下ろしンガワンは
「あの悪ガキのことだから、サボってどこかで居眠りでもしてるんだろう」
「それはない」
城の仕事を覚えなければ狩りにいけない。連れて行く確約をしたのに、取り消しになる危険を冒して務めを
「すぐ捜させよう」
リメドは頷いたが、でも、とそそけ立って頬を包む。
「いったい誰があの子を城下へ。わたくしはまだ独りで行ってよいと許可を出したことはございませんのに」
センゲは息を飲んだ。「では誰が?財布を持っていたぞ」
「分かりません……ヨモたちも皆知らないと言うのです。申し訳ございません」
「どういうこった?財布を拾ってネコババしてたのか?」
「ンガワン、ツェタルを疑うのはいい加減にしてくれ。とにかく、皆を集めて……」
とそこへ、人波を縫うようにしてイシグが現れた。困惑した様子で腰を折る。
「我が王にご報告が」
「こんなときにどうした」
「は。先ほど民の幾人かから苦情がまいりまして、水飲み場で犬が暴れているからどうにかしてほしいと」
その犬、とイシグも確信を込める。
「大きな
王のものを傷つけてはならないが今にも鎖を引きちぎって攻撃してきそうで怖い、といった具合の報告に居てもたってもいられず、ついにセンゲは走りだしていた。
「イシグ!馬をもて!」
「ただいま!」
「ンガワン、お前は衛兵と城の中を捜せ。どうであれ状況を把握次第、ラクパシンパを飛ばせ」
ンガワンは背に叫んだ。
「センゲ!何かの罠かもしれんぞ、気をつけろ‼」
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