二章

王都



 リメドは馬で半日と言ったが知らない土地で迷いに迷い、ひとつふたつ山を越えた先の谷にようやく群落が見えたのは一昼夜経ってからだった。来る途中のどこよりも街が大きく、何より谷の中心にある小高い山にとびきり大きな家がへばりついていたので、きっとあれが王城なのだと確信した。


「ごめんな」


 無駄に馬を疲れさせてしまい詫びながら鼻面を叩くと、もときた坂をとことこ下りていった。最初から馬に案内させればよかったかもしれない、と思いながら反対の道を進み、ついに人の往来が盛んな市街に入った。


 昼近い大通り、だれも裸足はだしの子どもなどおかまいなしに行ったり来たりしている。時々、皮甲よろい姿の武官を見かけたので用心して人混みに紛れ、とにかく城へと急いだ。


 それにしてもへんなの、と観察する。白とあかのカクカクとした城はこれまた四角い窓の穴が等間隔に並び、五色の旗があちこちに取り付けられて異国感溢れていた。おまけに上るのにたいそう苦労しそうな細長い塔がたくさん。ヒュンノールでは土の上に動かせない住居すまいを建てることがなかった。夏と冬で移動するし、そもそもあるじはあちらこちらで戦うためにひとつところに長くおらず、付き従っていた自分もまたそうだった。


 山の傾斜にしたがい段々に建っているアニロンの城の、街に最も近いふもとの門前には衛兵と思しき男たちが行き来していた。見回してもそれらしきものは無い。


 一旦大通りまで戻る。忙しそうに動き回る露店の店主に声をかけた。

「おじさん、ヒュンノール王の首はどうなった?」

「ああ?」

 睨んだが、子どもと分かり作業に戻る。

「ねえ、ねえってば」

「うるせえなぁ。城門の晒し首?そんなもの、とっくに降ろされて焼かれたぞ。なんでいまさら」


 店主がもう一度目をやると、すでに子どもはいなくなっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る