思慕
「あんたが勝手をしたら私が怒られるの!だからおとなしくしておいて」
頬を膨らませて
ユルスンにもといた寝床まで戻されてリメドに引き継がれた。隣の天幕で見張りをしていたのも彼女だ。外の
「さあ、それを脱いでこれに着替えて」
「あったかいからこれでいい」
「ユルスンさまのお召し物を汚せないでしょ」
うるさいやつは嫌いだ。しかし彼女の作ったそれが思ったより美味でもっと食べたく、しょうがなしに言うことを聞いた。
「あのユルスンとかいうの、だれ」
「知らずに馬に乗せてもらったの?呆れた」
あの方はね、と帯を締めながらうっとりとした顔になった。「王弟さま。今は王城じゃなくて東に駐留してる
「なぁんだ。あいつ、あの白髪頭の弟だったのか」
「恥知らずな子ね。あんたは本当ならオグトログイの首と一緒に並んでるはずよ」
間髪入れずリメドの頬に
「
「もう死んでるわよ!」
「首はどこにある!」
リメドは血が垂れてきた鼻を押さえて睨み上げた。しかし剣幕に
「王城の門に括り付けられて鳥につつかれてるわよ」
「それってどこだ!」
「都よ。でも行けやしないわ。ここから馬で半日はかかるんだから……ちょっと!」
もういてもたってもいられず、粥の器を蹴り上げて飛び出した。周囲は岩と牧草地、畜舎から出されたヤクと羊の群れを見渡して走った。しばらく陽のほうへ向かっていると石を折り重ねた民家らしき建物がぽつぽつと点在しはじめ、その中で探していたものを見つけた。人がいたが、構うものかと低い塀を乗り越えて近づいた。
「なんだい、お前」
飼い葉を抱えた男は敷地に入ってきた子どもに
「どこの子だ?仕事の邪魔だ、あっちにいけ」
しかし無視して馬に飛びついた。
「おいっ……」
「な、なんだ」
言う間にけしかけられた馬が柵を破壊し、道を疾走し始める。
「だっ、誰か!止めてくれ、馬泥棒だ‼」
小さな泥棒は裸馬の首にかじりついたまま丘の向こうへ消えた。
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