一章
凱旋
湖の谷アニロンは周辺を山々で囲まれた水源多い国である。年中乾燥した高地なものの山野の恵み地の実りには事欠かず、暮らす人々もおおよそ勤勉で穏やか、ヤクと牛と羊を飼い良馬を育てる。とはいえ、ここ何世代かは他の国々とのつきあいが順調ではなく、頻繁に小競り合いを繰り返し安定しているとは言いがたい。
山を隔てた北は地平続く大草原、そしてつい先日撃破したヒュンノールの領地が広がり、そのさらに上は巨人族が
ヒュンノール
「とくにドーレンとかな」
「違いねえ」
「ヒュンノールと密約を交わしてるっていう噂は案外本当だったみてえだ。投石機の飛距離がやばいくらい上がってたし。きっと金を積んで職人を囲いこんだんだ」
「かといってヒュンノールが絶対に約束を守っていたかといえば違う。ドーレンの北では首都の目が届かないのをいいことにあくどくやっていたみたいだぞ」
「卑怯な奴らだ。あいつらのおかげでどれだけ……」
言いかけ、前方で騒ぐ一群に渋面をつくった。
「……おい、センゲよ、お前が情けをかけたあのクソガキだ。いっぺん馬に踏まれて死んだほうがいいんじゃねえか?」
そちらもまた呆れた様子で苦笑していたが、一転、真顔になり
「……おそらく、オグトログイに最も近くで
「〝
オグトログイは生涯を侵略戦争に捧げた北の王だった。あらゆる戦略と戦術で領土を拡げ、反抗する者は連なる血筋まるごと闇に
畏怖された最も大きな理由がある。彼は敵の企みや同胞の裏切りを目敏く察知する能力に長けていた。どんなに綿密に計画を立て、露見は万一にひとつも無いというような
「……そうだな。その名やあの懐きようからすれば、大層可愛がられていたのかもしれない」
「もしか、あの野郎はとんだ屑で変態だったってのか?」
「さあな」
「なんであんなガキ助けた」
センゲは微笑した。
「さあな」
ンガワンを後に残し
「寝たかと思えば下ろせ下ろせとうるさくてかないません」
「手間をかけた。俺のほうへ」
一度群れから外れて受け取る。騒ぎ疲れたか、
憐れなほど髪が短いのは奴隷の身分ゆえなのか。煮込めた蜂蜜のような濃い肌の色、陰を落とした
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