第6話ベットとメイド
飯を食った後、俺とグレープは別々の部屋へ案内された。
しかし、グレープが屋敷で一人は緊張するとのことだったので、結局一緒の部屋になった。
「いやー、久々のベットだ!」
大きめのベットに飛び乗った俺を見て、グレープは驚いた顔をした。
「タロウベットで寝たことあるの⁉︎僕は初めてなんだぁ!」
「俺の元いた世界では、普通だったからな」
「いいなぁー、僕はいつも藁の上とかで寝てたからさ。ちょっと横になってみようかなぁ」
なるほど、やっぱり苦労してきたんだな。俺が用意したわけではないが、今日はゆっくり寝てほしい。
「おう、気持ちがいいぞ!」
「いやっほーい!」
グレープはそう言って仰向けに勢いよく飛び込み、何度かバウンドした。そして、ベットに突っ伏したまま動かなくなってしまった。
「グッ、グレープ!嘘……、だろ……」
この体になってから、俺の動体視力はかなり上がっている。その俺の目が捉えたのは、ベットに飛び込んで、ワンバウンド目で意識を手放したグレープの姿だった。
お前さっき、俺の口の中で目一杯寝てただろ……。まぁ、気持ちよさそうに寝ているから、このままにしておこう。
ウロとサロもあくびをして眠そうだったので、俺もすぐに寝ることにした。
次の日。俺は、グレープの踵が、俺のでこに落ちてきた痛みで目を覚ました。あれ?痛い……?
ケルベロスって強いんじゃないのか?
グレープは、寝相が結構悪いみたいで、隣の俺のベットまで来ていた。でも、どういうことだ?どう寝相が悪ければ、こうなるんだ?
そういえば、牢の中では離れたところで寝ていたし、朝はグレープの方が先に起きていたので、気がつかなかった。ベットの寝心地がよかったのだろう。
「おいグレープ、朝だぞ」
「ん?あぁ、おはよー」
「おう」
「ガウ」
「ガフッ」
ウロとサロも小さく吠える。その時、扉がノックされた。
返事をすると扉が開き、執事姿の金髪で耳の尖ったイケメンがそこにいた。
「朝食の用意ができました。支度を終えたらダイニングへおいでください」
「えっと、タロウ支度って何するの?顔を洗うとか?」
「え?顔を洗うとかかなぁ」
「顔を洗い、髪を整え、クローゼットの中の服を着たりとかです」
金髪が答えをくれた。
「はい!」
グレープが元気よく返事をする。
「ありがとな、えーっと……」
金髪は察し、自己紹介をしてくれた。
「執事統括のシアスカント・スィントッド・アルトカンガルドと申します。よろしくお願いいたします。タロウ様、グレープ様」
「よ、よろしく」
「よろしく!シアストドアカンドさん!」
適当はよくないぞグレープ。
「ハハハ!失礼、シアとお呼びください」
イケメンは優しく微笑み、許してくれた。いいやつだ。それから俺達は支度をすまし、ダイニングへ向かった。
ダイニングにはすでにメルトが居た。
「おはよう二人とも」
「おう、おはよう」
「おはようございます!メルト様!」
まずい、ここにきてグレープ、ウロ、サロとしか挨拶をしてこなかったから、フランクな感じになってしまった。
「すいません!」
「いいや、構わないよ!そのままでいてくれ」
「い、いいのか?」
「元々友人が欲しくてね。君を譲り受けたのもそのためなんだ」
そう言ってメルトは微笑んだ。よかった。貴族とかよくわからないが、もしかしたら首が飛んでいたかもしれない。
「それで、今日なんだが……、あっ、どうぞ食べてくれ」
何かを言おうとしたメルトが俺の隣に視線を移して、朝食を促す。視線を追うと、ウロ、サロが物欲しそうな目で、テーブルの上を見ていた。
朝食を食べ終わると、今日の予定の話になった。
「それで、今日は屋敷の中を案内をして、その後グレープ君の、形だけだが試験を行いたと思うが、いいかい?」
「はい、よろしくお願いします!」
「了解だ!」
それから、俺たちはひとしきり屋敷を見て回った。やっぱりどこも良い意味で古くて味がある。ただ、俺は自室への行き方以外は覚えられなかった。まぁ過ごしていくうちに覚えるだろう。
「ここで最後だ。ここが私の研究室兼、皆の緊急避難所だ」
最後に案内されたのは、かなり広い地下室だった。部屋中にいくつもテーブルがあり、その上には本や書類、カラフルな液体が入ったフラスコなどが並んでいた。
それと奥には、巨大な扉が建てられていた。開けた先は壁だった。何だろこれ。
「避難所ですか?」
「あぁ、実はこの領地はウェンジア魔王国領の端にある大きめの島でね。かなり昔はハルラニア王国、人間の王国の領土だったんだ。最近までは何事もなかったんだけど、今になってハルアニアが西方勇者連合を雇ってね、取り返そうと度々攻めてくるんだ。これまでは何とかなっていたけれど……、先の戦いで戦士長が負傷してね。もしかしてがあるから」
「なるほど」
「ハルアニアとウェンジアは停戦条約を結んでるって聞きましたけど……」
「まぁ、表面上はね。実際、本当にハルアニアが西勇連を雇ってるという証拠はないんだけど、十中八九そうだろう。ごめんね、こんな時に引き取ってしまって。もしもの時は君たちだけでも逃すから」
そう言うと、メルトは目を伏せた。
「いやいや、気にしなくていい。引き取って貰ってなきゃ、どのみち俺もグレープ死んでたかもだしな」
「うん、そうですよ!感謝しかありません!」
「ありがとう、少し気が楽になったよ。それでは、案内も終わったし、グレープ君の試験を始めようか。まずこれを着てくれ!」
そう言ってメルトが指を鳴らすと、フリフリのメイド服を持ったシアとメイドがどこからともなく現れた。
「えっ……、これスカート、え、でも僕……」
戸惑っているグレープを見て、メルトはニコニコしている。先程のちょっと重たい空気は何だったんだ。
そして、メイドはグレープを引っ張って近場の部屋に消えたが、二人はすぐに戻ってきた。
「スカートなんて初めて履いたよ」
グレープは恥ずかしそうにメイド服のスカート部分を抑え、モジモジしている。王道とは違うが、結構似合っている。
それをみてメルトが声をあげた。
「キャー!良いじゃない!少年っぽい感じの子のメイド服!良いよ!ね?タロウ、シア!」
「お、おう」
どうした……、誰だ……。
シアも親指を立てて答える。
「ええ、よくお似合いですよ!」
そして、一時間後。
「仕方ないさ、初めてなんだから!もし、どうしてもだったらタロウの世話役でもいいし!」
「そうだぞ、グレープ!何事も慣れだ、慣れ!」
「私も執事を始めた頃は、何度食器を割ったことか!」
「僕、こんなに不器用だったなんて……」
俺とメルトとシアは、中庭でメイド服を着て体操座りをしているグレープを慰めていた。
俺はケルベロスでいいのか!? 火流こんそめ @hutabasara
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