第28話 お太りの理由をご説明したします
「ズズズズズズズッ・・・・ほっ・・・・・ズズズズズズズッ・・・・ほっ」
一仕事終えてからひと月たち、今は自宅の縁側にてまったりとお茶を嗜む。
お茶のお供はお仕事を始める前に漬け込んでいたお漬物です。
古漬けの酸っぱさがなんとも言えません。
お米が欲しくなります・・・・・・・・・・おにぎりでも握ってきましょうかね。
そう思い立ち上がろうとしたのですが、聞き覚えのある車のエンジン音が聞こえてきました。
こんな山奥の家に訪れる方など限られますが、はてさてどなたがいらっしゃったのでしょうか。
「・・・お届け物だ」
「おやおや、筋肉さんでしたか。これはこれは、わざわざ申し訳ございません。今お茶を用意しますのでお待ちください」
どなたがいらっしゃったのか、のんびり構えていると、馴染みの筋肉さんがいらっしゃいました。
手には少し大きめの紙袋をお持ちです。
「・・・すぐ出るから茶はいらん・・・荷の送り主は、オカマ達からだ」
「オカマ様方からですか・・・・ああ、多分あれですね」
ひと月ほど前に腹正しい男性とちょっとしたお仕事をご依頼したのです。
多分、そちらの経過報告に関する物を送ってきたのでしょう。
「・・・要冷蔵だと・・・中身はあれか?」
「恐らく」
「・・・・そうか・・・久しぶりに容赦なく処理したな・・・命は自然の摂理に基づき処分するんじゃなかったのか?」
「そうですね。その通りです。けれどあまりにも犯した罪が多けれ、その罪を償うために少々遠回りしてもらわねば困るのです。そうしてもらわなければ、彼等に弄ばれ、命を落とした彼女達の魂は安らぎを覚えませんから」
「・・・よくわからぬ価値観だな」
筋肉さんにとってはそうなのでしょうね。
「・・・まぁいい。これはここに置くか? それとも冷蔵庫の中にしまっておくか?」
「ここに置いておいていいですよ。すぐに処分しますので」
「・・・そうか」
コクリと頷くと、筋肉さんは荷物を置き、車へと戻っていきました。
本当に荷物を届けてくれただけのようですね。
お忙しいのに申し訳ないです。
「ズズズズズズズッ・・・・ほっ・・・・・・・・・・・・さてと」
筋肉さんがいなくなった後オジサンは届けられた荷物を手に取り、スコップを納屋から持ち出すと、そのまま森の中へと向かっていった。
人の手が加えられていない、草が生い茂った道をオジサンはずんずんと進む。
進んだ先には小人が住んでいそうな、とても小さなお寺が建っており、そのお寺の周りを掘り出した。
そうして穴を掘ったあと、オカマ達から届けられた荷物を穴に埋めた。
「どうぞ。彼等が改心したならば慈悲をお与え、彼等が彼である証をお返しください。どうぞ。よろしくお願いします」
穴を埋めた後オジサンは、小さなお寺に深々と頭を下げた。
ちなみにオカマ達に届けられたのは、オジサンが売り払った男達のナニだ。
恐らく男としての弄ぶ需要が減ったせいで、今度は女として弄ばれているのだろう。
そうして欲しいと願った手前、あの世に行った後に慈悲を与えて欲しいと願うのもどうかと思うが、それはそれである。
現世で犯した罪を償おうと努力してるならば、あの世でくらい慈悲を与えて良いのではないか? と思うのが人情と言うものだろう。
まぁ男のナニを返してあげて欲しいと願うだけで、彼等が地獄に落とさようとも知ったこっちゃないが。
そうして願いを口にした後、その場を後にした。
しつこく願った所で、聞き届けるかは神の気まぐれであるのだから。
「・・・・またいらっしゃいましたか」
そうして家へと戻ってきたのだが、最近よく訪れるお方を見て、珍しくオジサンげんなりしたような表情を見せる。
フヨフヨと家の周りを漂う白と黒が混ざり合いつつある煙のような物体。
優愛が異性として愛し、優愛を異性として愛した亡き父の霊がそこにいた。
「いい加減あなたは天に帰りなさいな。優愛さんが心配なのはわかりますが、これ以上現世に留まれば魂が濁ります。現に濁りだしているではありませんか」
心配して声をかけるもその声は届かず、優愛父の霊は一方的にオジサンに伝えたいことだけを伝えてくる。
優愛が見知らぬ男の隣に立っていた。
優愛が見知らぬ男と話していた。
優愛が見知らぬ男に物を上げていた。
などなど優愛に関する話ばかりであり、最終的には優愛に関わった全ての男を殺せと言ってくる。
なんとも呆れてしまう願いである。
「あのですね。いちいち買い物やクラスメイトと会話したくらいで殺せなどと言わないでください。見守ることは許しましたが、束縛することを許した覚えはありませんよ? それにあなたが望んだとおり、優愛さんの心の中にあなたという存在を残してきたではありませんか。あんな恥ずかしい言動や小道具もご用意したではありませんか。あれ、私が全て考えて行ったと思われているのですからね。わかりますか?」
今思い出すだけでもちょっとした黒歴史です。
私は小さい頃から山で暮らしているおかげで、狩猟や農作業、そして山で何が食べられるのかはわかるのですが、流石に花言葉や木言葉などといった、生きるのに必要な知識はあまり持ち合わせていません。
一般的に知られていそうな赤いバラの花言葉も正確には知らず、『情熱の愛!・・恋?』的な感じでしか理解していないのです。
「―――――――!―――――――!!」
この優愛父さんが望んだのでそうしました。
生前できなかったプロポーズをすれば成仏するとお約束したと言うのに、その約束は果たされず、今もこうして愛する優愛さんのお傍に纏わり続けているのです。
それも見守るのではなく、束縛するように。
「はぁ・・・四日前まではまだ己の行いに疑問を浮かべるだけの理性はあったのですが、それもとうとう消えてしまいましたか。ですから早く天にお帰りなさいと申しましたのに・・・」
喚き散らす優愛父の霊。
もはや己の欲を満たすことだけの存在になってしまった。
いえ、なりつつあると言う感じですね。
まだ私の元に来られているのですから。
「仕方ありませんねぇ。強制的に天に帰っていただきますか」
オジサンにとって非常に取りたくない手段。
それを用いるために、オジサンは懐からお札を取り出し、優愛父の霊に張り付けた。
それで浄化され天に帰る・・・と言う訳ではなく、優愛父の霊はそのお札に封じられるように吸い込まれていった。
「・・・頂戴いたします」
吸い込まれたお札に一礼した後、そのお札を食べ始めるオジサン。
食べて教科書の内容を覚えようとする、ひと昔前の受験生の様に。
「・・・・うぐっ・・うぐぐっ・・・・・・・ぶはっ!?」
普通は紙など食べた所で何も起こらず、身体に悪いだけなのだが、オジサンの場合はこの紙と言うお札を食べると何かが起こり、
「ゲェェェェッ! ウゲェェェェェェッ!?」
物凄く身体に悪いことが起こるのだった。
口から真っ白な煙が立ち上り、天に昇っていく。
先程白と黒が混ざり合った優愛父の霊から、白い部分だけを抜き取った。
そんな感じの煙であり、
「ゲフッ、ゲフッゲフッ・・・・・ふぅ・・・重いですねぇ」
残った黒い部分だけは吐きだされることはなかった。
それが原因かは定かではないが、贅肉だらけのオジサンの身体は更に肥え太っていた。
プルプルと足を震わせながら、ゆっくりと歩き出す。
えっちらおっちらと何とか縁側まで辿り着くと、そのままゴロリと寝転んだ。
汗を滝のように流しながら、ゼェゼェと息を切らし、もはや疲労困憊と言った感じだ。
「・・・・まったく・・・・・今回は・・・・失敗ばかりですね・・・でぇへへへへへ」
ご先祖様方の様にまだまだうまくこなせませんね。
もっと精進しなければなどと思いながら気持ち悪い笑い声をあげ、急に重たくなった瞼をゆっくりと閉じ、眠りについた。
「でぇへへ・・・・でぇへへへ・・・・・・・・・・ポリポリポリポリ・・良い出来です・・・ねぇ・・・・」
すぐ傍に置かれている漬物を口に放りながら。
変なおじさんの変なお仕事 @kumadagonnsaburou
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