最終話 メリークリスマス
『突撃破砕を敢行。衝撃に備えて下さい』
抑揚のない警告の後、派手な音を立てて重装甲モードのソリ
*
エイトオーたちは爆破事件に巻き込まれながらも、奇跡的に軽症で済んだ。が、一週間程の経過観察により、オーダーは一時中断。その間に
「ロクの野郎、前から裏切る気でいやがったな」
トナ太郎が呟けば、次々と他のトナカイたちにも仄暗い気持ちが感染したが、
「野郎ども、兄弟を取り戻すぞ」
『前方に多数の熱源を感知。子供です』
「分かった、止まれ。俺たちは降りる。ソリ男はここで待機だ」
『了解』
エイトオーたちがソリ男を盾にして降車し、熱源の方向を伺うと、情報通りに沢山の子供たちが集まっていた。いや、集められていたというべきか。
30人近くの子供がいるにも拘わらずその目は虚ろで、声一つ聞こえない。加えて中央には2人の男。一人はロク。もう一人の身形の良い男はここの社長、コリン・マッケンジーであった。
「イマジナリーアームズの皆様、ようこそ我社の工場へ。ただ、アポイントメントをお取りでないご様子。そろそろお引き取り願えませんかね? さもなくば」
「どうするつもりだ?」
コリンがパチンと指を鳴らすと、彼を取り囲むように床から自動小銃付きのアーム型警備用ロボットがせり上がり、モーター音を鳴らしながらその照準を子供たちに向ける。
「御覧の通り。これ以上、私の工場に被害を及ぼせば子供が死ぬことになります。サンタさんとしては、当然、子供を殺すわけにはいきませんよね?」
「やれ」
コリンの脅しにもかかわらず、エイトオーのゴーサイン。するとトナ太郎たちは一斉に左の角を引き抜き、拳銃のように構えた。が、そのまま微動だにしない。
「んん? 何をしているのかな? そんな角でどうにかなるとでも?」
「コリンさん、あれは――」
ロクが何か言いかけたときだった。トナ太郎たちの持つ角の根元が一斉に輝いたかと思えば、次の瞬間には警備ロボットが全てダウンしていたのである。
「くそ! 何が起こった!」
そんな悪態をつく前に、コリンにはやらなければならないことがあったはずだ。だが、予想外の事態に彼はそれを怠った。そう、エイトオーは先程の攻撃には一切参加していない。即ち、すぐに動ける。
コリンが気付いたときには既に手遅れ。鋼鉄製の左拳が鳩尾に叩き込まれ、前のめりに崩れ落ちた。
「まったく、催眠術が使える人形なんざ、悪趣味にもほどがあるぜ。なあ、ロクよ?」
コリンが倒されれば、我に返り戻って来ると踏んでいたのだが、ロクは悪意に満ちた目でエイトオーを睨む。
「そうか。やり合わないと分からないか。じゃあ、気のすむまでやってやろうじゃないか!」
「抜かせ! 骨が折れないようにミルクでも飲んでろ、クソ爺!」
殴り合いの予感にエイトオーの筋肉は膨張し、再び財団製の上着を破裂させれば、周囲の子供を巻き添えにするまいと、トナ太郎たちが必死に子供を動かす。そして準備万端となったところで、血の繋がりのない親子の喧嘩が始まった。
だが、それは喧嘩と呼べるようなものだったろうか。他のトナカイが見守る中、お互い、足も動かさずに只管に殴り、只管に殴られるだけ。これが彼らの親子喧嘩の流儀なのである。
「どうしたぁ! そんなもんか!」
「そっちこそ足腰ガタガタなんだろ! 早く降参しろよ!」
「うるせぇ、クソガキ!」
「うるせえ、クソ爺!」
何度も何度も拳の応酬を続ければ、最早、何を言っているのかも怪しい状況。
「ハァ、ハァ、ハァ、そろ……そろ、降参しろよ」
「ハァ、……ハァ、ハァ、ふざけ……んなよ」
とうとう精魂尽き果てたのか、二人同時に後ろに倒れ込んでしまった。
「はっはっはっはっはー」
「はっはっはっはー」
突如として発せられた大笑いに続き、二人は言葉を交わす。
「なんでえ、クソガキだと思ってたのに、随分と大きくなったじゃねえか」
「は! そっちこそ随分と老いぼれたんじゃないか」
「言うねえ。そんじゃ、ま、帰るぞ、ロク」
「……そうだな。帰ろう。どうせ爺は足腰弱ってるだろうから、僕の肩を貸すよ」
「け! 言ってろ!」
二人揃ってゆっくりと上体を起こせば、エイトオーは優しい目で我が子に声をかけた。
「メリークリスマス」
一瞬、きょとんとしたロクだったが、すぐに幼子のように破顔する。
「メリークリスマス。ありがとうよ、サンタさん」
日付は12月24日、時刻は22時。
彼らの仕事はこれからが本番だ。
【完】
サンタと秘密のおもちゃ工場 津多 時ロウ @tsuda_jiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
津多ノート/津多 時ロウ
★38 エッセイ・ノンフィクション 連載中 858話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます