90 筆頭
*
ざらりとした、荒く硬い髪と
梶火と同等の腕を競える者は邑にない。自然個人での鍛錬が主となる。皮肉な話だが、
最早
梶火が
長年、
武に秀でた集の中から、「力を一にすれば
大きな武を持つ集の一つとして、
会合は旧
囲いは残されているが民の暮らせる状態にない。しかし結果として土地を追われた者が、住むには
密かに会合を持つには、打って付けの場所だ。
多くの集の頭は今こそ全軍が集い、統制を整え決起する時だとの見解を示した。騎久瑠に意見を求められたので、梶火は否と答えた。
集の頭ですらなく、しかも
「
武に優れた集は大抵が
食わずとも死なぬ
しかし、朝廷に弓引くというのは、忍耐で乗り切れる程に
一個の独立した軍を持つ集として決起するという事は、その背景に必ず守り切れるだけの土地と、そこで確保できる食料と水がなくてはならない。
「ただでさえ水源汚染のせいで市場じゃ食料が出回りにくくなってるだろうが。
ここでまず
「
この時に、臨赤は初めて五邑に特有の文字がある事を知ったのである。騎久瑠にも伝えていなかった事だ。
「難しいならカタカナだけでいい。これなら音に対応するから覚えやすいし五十程度で済む。いいか? 五邑の文字が理解できる中で敵となり得るのは
梶火の言葉に一同黙った。その案を飲み込み
しかし、やはり武の集以外――特に土地に根差し
果たして案は飲まれた。騎久瑠に連絡系統確保の総指揮の全権が
梶火は、元来が慎重で神経質な男である。一度任せられた仕事は途中で投げ出さなかった。この事から評価が上がった。
幸い臨赤はその基本が信教に
丁度その頃から集団としての結束も固まり、臨赤としての名乗りはなくとも集として大きくなった事から、民草より発生した徒党と行き当たる事が増えた。気付けばそれらが臨赤に加わり、またその規模は拡大されてゆく。
集を維持する為に梶火は刀を振るった。
姮娥は元より、
最も評価されたのは、敵に対して向かうか逃げるかの判断が早く、集全体として打撃を受ける事が圧倒的に少なく済んだ点である。姮娥は死なないが
その後、
三日が過ぎた頃、ふらりと立ち上がった梶火が言ったのが「
かつては水の流れがあったと聞かされた辺りにしばらく陣を張り、ぼうとした日々を過ごした。それからやにわに土を掘り始めた。時間なら幾らでもあったし、力もあるから面白いように土が掘れた。
そして――ついに水が出た。
それを見て泣いたのは紅炎だった。泣いて、泣いてそして泣きながら笑った。そここそが、かつて紅炎達が水を喪って追われた土地だったのだ。
この辺りは先の水源汚染事件の時には水が
また、早くに統治から外れた事と、土地が
駄目押しとばかりに、梶火は長鳴が作った
梶火はこの掘り当てた水源から地道に水路を作り、土地を耕した。梶火は邑の出身である。刀を振り回す事よりも、畑や田を作る事の方が本来
こうして
守るべき
こうなれば、もう梶火に反する事の方が難しくなる。
赤玉帰還へ向けた臨赤の祈願は、あやふやな願いなどではなく、明確な目標となった。その実現へ向けて、結束を
そしてついに、全団一致で梶火を臨赤の筆頭の格と認めた。
現在の梶火は臨赤において
梶火自身は無論赤玉に対する信仰を持ち合わせない。しかし臨赤の民が信仰するその心には
この七年で彼が関わり、また彼を育んだ世界は大きく深い。大抵のものが梶火よりも長く生き、この国の変遷を見守ってきた者だ。外から見た五邑がどんなものだったか、そこに対する感情はどんなものだったのか、これは実際に人間同士で語らねば分からない事だった。
騎久瑠、紅炎、青炎の地位もまた梶火のそれに準ずるものとなった。
目指した場には辿り着いた。そう言えるだろう。
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