84 形振り構わぬ
*
会合の後、首脳部全員が退席しても、
「――公。私は矢張り、あれを公の
「お前ならば、そうだろうな」
「あれがこれまでに行った
「お前も、あれが
「ええ知りません。知りたいとも思わない!」
野犴は一刀両断に吐き捨てる。
「あれが
「あれは、簡単に僕達を裏切る。そう言いたいんだな」
「ええ」
「――うん。僕もそう思うよ」
野犴は両掌をぎりぎりと握りしめた。食国は、振り返りながら、その様を見る。これが
「お分かりなのでしたら、なぜそんな決断を下された⁉」
「あれは、
ふ、と予想外の言葉に野犴は力を抜いた。
「――
「うん」と食国は小首を傾げて
「
椅子の
「――そんな人間が、たった一つ、懐に入れて放そうとしないもの、それが蘇熊掌だ」
野犴は答え
「周りに流される事も見返る事もなく、己の意志のみを
「公、状況が見えないのですが、一体何をおっしゃりたいのですか?」
食国は、やおら立ちあがると、革帯を解いて上衣を脱ぎ捨てた。
「公?」
怪訝な表情を隠さない野犴に向けて食国が浮かべた表情は、極めて冷たかった。
「――今、
「方丈で、ですか?」
「お前達には内密に、現在の方丈と
「どう、やって……誰に」
「お前達は、宮廷で大膳を務めるという事の重さを理解していない」
「
食国は首肯する。野犴は
これまで、首脳部での会合においても、
しかし、実際はそうではなかったのである。何故としばし
野犴が思い至った事を表情から見て取った食国は、椅子の上で脚と腕を組んで、
「飲食という行為は、
食国は立ち上がると、野犴の前に立ち、その胸に、ばさり、と数束の文を叩き付けた。
「本当は、これをもって悟堂をこちらに引き入れられまいかと手にしていたんだがな、そんな必要もなかった」
「公、これは」
「――この七年をかけて、蘇熊掌は、方丈の
食国が手渡した
「
「それだけ、
「まさか」
「結果から判断すればそうとしか思えんだろうよ。――奴は、こちらが持つ最後の切り札だ。白玉を守り切らねば赤玉の奪還は絶対に成し得ない。かつ赤玉の奪還には四方津が必須。月朝は、こちらに従わざるを得なくなる」
「――公」
「なんだ」
「これを、あれに伝えるおつもりですか」
食国は――
「悟堂自身、こんな形で成される事を望んだわけではないだろう。僕だって出来る事ならこんな酷な事を言いたくない。しかしそうもいかんだろう。――必要が迫れば、伝えざるをえまい」
そこまで口にしてから、食国はふ、と動きを止め、小さく笑った。
「立ち聞きはその辺りでよしたらどうだ?」
野犴が顔を上げると、果たして、大扉がゆっくりと開いた。その先で苦笑していたのは――
「そんなつもりじゃなかったんだがな。正しく
「どの道お前には一切の隠し立てなんてできないんだから、堂々と入ってくればいいのに。構わないから、来てくれ。お前とも話さなきゃいけない事がある」
食国は苦笑して野犴に横目をちらと向ける。
「すまない野犴。どうやらこちらと先に話を済ませないといけないらしい。文には目を通した後、念のためこちらへ戻してくれ」
言外に退出を求める言葉に、野犴は従った。大扉ですれ違う間際に、野犴は臥雷の顔を見たが、そこには取り立てて語るべきものは何もなかった。
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