83 茨道
「それは――思いの
「
「それは……」
「確実にそうなるという保証がないんだよ。だからその手は選べない。だったら、やはり異地の帝との誓約に
黙り込んだ臥雷をちらと見て、
「――
臥雷が腕を組み、
「――今までずっと黙ってきたのに、今日は珍しくちゃんと教えてくれるんだな」
「私も
珍しく苦虫を噛み潰したような顔をする臥龍の隣で、
「当時、赤玉が失われてより
静かな語りであるが、その言葉が伝える現実は重く生々しい。
食国の目がその場に会した皆のそれに順次
「我々の力だけでは
しん、と冷え込むような沈黙が満ちる。
「その為には
こん、と食国の拳が卓子を軽く叩いた。
「国土消失に勝る災禍はない。白玉の解放の瞬間に、蘇りし五貴人になんとしても素戔嗚を捕縛させねばならない。その為には
場に重い沈黙が満ちる。
「――もう、何が正義だとか、父が正統だったかどうかなんて僕にはどうでもいい。でもな、既に動いてしまった事をなかった事にはできないんだ。ここまで
「では、公はどうなさるおつもりか?」
臥龍の問いに、食国は、苦痛を振り絞るように、とん、と拳を卓子に打ち付けた。
「
「そりゃ口封じするってことかい、お
「そうだ」
ここまで戦局の求める先を食国が断言した事はこれまで一度もなかったのだ。それがこと人命に関わる事であれば尚更である。
「そして――」
固く
分かっている。彼が今そこにいる事は。
分かっていても、進むしかない。
「我々に水源汚染の
「人選は」
「――
臥雷が眼を見張り、戯れに
「本気か」
食国は射るような視線で首肯する。
「母を使者とするならば、素戔嗚も護衛にそれだけのものを割くだろう。
「素戔嗚をも騙して、か」
「そうだ」
臥龍は難しい顔で「そうしてこそ、正統の救国を名乗れる、か」と深い溜息を零した。
「しかし公、これは
「
暗く低い声が、食国の唇から紡がれる。
「――かつて仙山に在籍した、一度目にした物は決して記憶から失われないという男がいる。七年前に焼失した
「公⁉」
背後から大声を上げた
「あれを野犴と共に、お前直属の側近にするという事だな?」
それまでの、にやにやとした表情を封じ、真顔で問う臥雷に「そうだ」と言い切る。
「その、一度見た物を忘れないという男、こちらに素直に従うと思うか?」
食国は、わずか言葉を口の中に留めてから「わからない」と小さく零す。
「――だが、あれを置いて信頼のおける人間は、他にこの世にいない」
「名は」
食国は、ゆっくりと息を吸い込み、万感の思いを込めてその名を口にする。
「
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