82 現在地
「母上の機転で何とか白浪本体壊滅は脱した訳だか、それは同時に、かつて戦局を広げた当の敵国相手に助力を求め、ゆくゆくはその介入を赦す因子となった訳だ。――これを悪手と言わんでどうする」
そこまで珍しく横やりも入れずに黙って聞いていた臥雷が、ゆっくりと口を開いた。
「――なあ、お
食国が視線を向けると、臥雷はううんと両腕を高く
「白皇が
「臥雷」
「いいか姫さん。俺達はな、自分等がこの国において異物だって事は十二分に理解してんだ。俺達がそうしてくれって頼んだワケじゃねぇ。それでも白玉と五邑は持ち込まれないに越したこたなかったんだよ。この件で最大のとばっちりを食ってんのは――
食国が言葉を返せずにいると、「はああ」、と大きな溜息が臥雷の口から零れた。
「
臥雷の言わんとする事の意味がわかるだけに、食国は
食国を陣営に迎えて後、白浪が
禁軍の襲撃を受ける最中、独断で一羽の鳥を飛ばした者がいた。それは日を置かずしてその者の下に帰投を果たす。鳥を肩に、その者は
「――父と話が付きました。我々
驚愕する彼等を前に、
そして、その先頭に立ちはだかったのは、仁王もかくやと言わんばかりの偉丈夫だった。
天に逆巻く総髪は正しく
眼光一つで全てを破壊し尽くしかねない神威。
尋常ならざる
言葉を失った食国の隣から、事もなげに進み出たのは、母だ。
母は、男の前に立ち、男もまた母を見下ろす。
対面は、終始無言の内に終息した。
この男の名を
そして、食国は後に知る。
この時、この偉丈夫の姿を目に映す事ができたのは、自分達母子に限られた事を。神の姿は、「神域眼」を持つ者にしか見えないと言う事を。
そう。この男こそが、宇迦之の父であり、食国の祖父だったのである。
白浪は、大きく戦略を転換せざるを得ない局面に立たされた。かつての白朝がその全総力を傾けた敵対国と手を結ぶ。しかも、自分達が旗印として担ぎ上げた白皇の遺児である食国は、その
宇迦之の母は辺境に住まう
つまり白浪は、先帝の遺児であり、かつ敵国の女王の血を引くという存在を主に掲げる、非常に危うい立場の一団へと成り代わったのである。
この七年、素戔嗚の庇護の下、母もまたこの拠点の増設の陣頭指揮を
食国は表情を険しくしながら卓子の上に肘を預けると、重ねた拳の上に額を置いた。
「現状、僕達は確かに強大になったが、それは
素戔嗚によって、これは敵対勢力ではない、
「だが、得た物の代わりに支払わねばならん代償はその分大きくなる。全てが決した後、素戔嗚とは、白玉引き渡しの交渉を行わねばならない」
食国の言葉に、臥雷は「おうよ」と小さく答える。
「臥雷」
「なんだよ姫さん」
「お前は、素戔嗚を
食国の断言に、臥雷は黙る。食国の目は、そんな様をじっと見据えている。
「お前は、白玉を消失させ、交渉自体を
臥雷が言葉に詰まった。無論、臥雷もそれについて考えなかった訳ではない。しかし行き詰っている事も確かなのだ。
食国は、心底厭そうな顔で小首を傾げた。
「素戔嗚に白玉を渡す訳には決していかないが、だからといって白玉を消せばいいという単純な話では済ませられないんだよ。あれはそう簡単に引き下がったり自身の要求を曲げたりしない。頑迷頑固の身勝手暴君だ」
「ねえ公? 素戔嗚がちょっとでも頭を柔らかくして交渉に応じてくれたりはしないと断言できる根拠をお
「決まっている。僕の祖父だぞ?」
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