17 仙鸞八咫と藤之保食
頭上から
鼠花火のように火花を散らしながら旋回する影が降り来たのを目に
頭を吹き飛ばされた
眉間を顰めながら、保食はその破損した頭部を――いや、その頭部を破損させた物を見詰めた。よくよく見れば、どうにも松明とは少し違う。
しかし、保食のその観察は、瞬時に為された物だった。その場は悠長な事を一切許さぬ切迫の状態にある。
保食の推察の外、呆気にとられ硬直した
男は、一瞬で
保食が眼を見張る内に、三人の肉体がその場から雲散霧消してゆく。
「――消えた」
「三人とも、
男が刀を一振り
その男は、未だ青年と少年の端境に留まる、危うい季節の容貌をしていた。
「お前、無事か」
保食は一度深く瞬きをしてから、少年の問いかけにこくりと頷いて見せた。
「――ああ。助かった。ありがとう」
少年はその場で軽く合掌して頭を垂れてから、くい、と顔を上げた。
「あんたら、
単刀直入の問いに、保食は一瞬言葉と態度を誤ったかと身の内を固くしたが、少年は何の含みもなく「俺もだ」と己の身分を明かした。それで一気に――保食の気が抜ける。
「あんた、どうしてあたし達が仙山だと思ったの?」
「仙山が作る散華刀の中には、ちょっと癖が強いけど、とてつもなく強い武器がある。あんた達が持ってたのがそれだった」
保食は、自身の手の内にある太刀を見て、ふっと笑った。
「あっちに倒れてるのが、それの製作者だよ」
「そうか」
何の感慨もなさげにそう呟いてから、少年は保食に向けて手を差し伸べた。保食はにっと笑い、手を預ける。助け起こす力は存外に強かった。見れば、
「俺、弱いからな。今急いで
「弱いって――さっきあんたが使った武器はなんなのさ? あんなとんでもないもの、仙山で見た事ないけど」
「俺が作った。先端に火薬が仕込んである」
「か、やく?」
「炭に、ゆわうとか、他にも色々混ぜて作る。湿気にさえ気を付ければ使い勝手がいい」
二人は各々刀を鞘に納めると、水泥の下へ向かった。
「あんた、仙山のどこにいるの?」
「大本営だ。
「
少年は、そこで
「これで間違いねぇな。あんたやっぱり仙山の人間だ」
「あんたもね。名前を聞いてもいい?」
「八咫だ。
「
保食は水泥の身を助け起こしながら、その口中に
「ねぇあんた。仙鸞ていう事は、
保食の問いにちらと視線を向けたが、八咫はすぐに顔を
「――俺じゃない。親父がそうだった」
ぼそりと、どうでもよさそうにそう呟く。
詳しい事を語りたい様子ではなかったので、保食もそれ以上は追及する事をよした。
「八咫。あんたなんで一人でこんな所にいた?
「言われてる。でもどうしても先に確かめたい事があってさ」
八咫は馬の背に
「なんだこれ」
「
保食はざわりと総毛立つのを抑えられなかった。
「お前まさか、単独で
「実際にこれがあるんかないんかわからんかったからな。俺の勝手で他の奴まで巻き込めんだろ」
八咫は石板を包みなおし、再び厳重に馬の背に括りつけた。
「
「――それは、なんなんだ」
「異地の神話だ」
保食と水泥は怪訝そうな顔で八咫を見た。
「異地の話なのかい?」
「ああ。月朝に読み取られねぇように、全てひらがなとカタカナで書かれてる」
「――で、それが何なんだ?」
「大有りだ。これで――ようやくわかった」
「分かったって、何が」
「どうして、今、こんな事になっているのか、がだ」
「たった五枚の内に、知りたかった全てが偶然にも残されていたっての?」
「いや、持ち帰れなかったものは、その場で組み合わせて見て覚えてきた。全部で三十五種残ってたな。完全に粉砕されちまったものがあったなら、もう分からんが」
「みて? 覚えてきた? 全部?」
「当然だろうっ、て――ああ」
思い出したように八咫は苦笑して見せた。
「すまん、そうだったな。普通の
その言葉の意味を保食が理解するのは、そう先の話ではなかった。
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