13 醜穢涯の少女 ※残酷描写あり。
その砦は氷珀とは異なり、その大方が既に朽ちて崩れていた。
城そのものは、ぎりぎりのところで倒壊を
この地は
かつて
無論、その
月人にとっては、過去の事ではないのだから。
砦の地下は、暗い。骨の芯まで凍て付かせそうな氷水が、ひたり、ひたりとその石床をしとどに濡らしている。暗いが真の真暗闇ではない。統治の手は引かれても、囲いが張られたままになっているからだ。
その内で、かすかな空咳が響いた。
薄く開いた瞼の先に、崩れた壁と、練色の空を背負った女の姿が映る。
女は、椅子の背を抱えるようにして
「――まあ、
女の眼には何の感情も伺えなかった。そこに光が差さないのだ。未だ少女と称して差し支えない程に
「あんたたちからしたら、
男の指先がぴくりと動いた。わずかばかりに顔色が変わる。少女はそれを見逃さなかった。
「びっくりするよね。
「ぐっ……」
男は少女の顔を射殺すような眼で睨んだ。その唇の端から血が垂れる。噛み締めた歯が、ぎりりと音を立てて、欠けた。
「
少女は、ゆったりと立ち上がると、男の傍へと歩み寄ってきた。そして、床の上に投げ出された
「――ねえ、女の命を
男の口から絶叫が
「君、本当に辛抱強いよね。あたしが今までこうやってお話させてもらった中でも、一、二を争うくらいに口が堅いわ。月人ってのも、そう考えたらかわいそうだよね。殺してもらえない限り拷問が終わらないんだもん」
少女は男の前でしゃがみこんだまま小首を傾げた。表情は変わらない。至近距離であるのに、これほど彼女が無防備に近付けるのは、男の両手首が
「そう言えば、君達の隊はこれに対応しなかったのかな? 『この一年の間に各地で起きた水源汚染騒動と
「な、に……?」
「そう。半年くらい前かな。文が出回ったはずでしょ? 白浪がやりましたってやつ」
血を拭ったばかりの刃の背を、少女は男の頬にひたり、と押し当てた。
「さっきの極悪極まりない所業を働いた
男の腕が震えた。怒りか。それとも恐怖か。
少女は愛らしく
「怒ったでしょうね。赦せないわよね。無理ないと思う。だって、追い詰めて怒らせるためにやったんだもの」
くすり、と笑ってから、少女は声色と眼の色を暗く凍らせた。
「――白浪の頭領がさ、うちの親玉にご丁寧に名乗ってくれたみたいなんだよね。折角だから、ありがたく利用させてもらったそうよ。
あ、と少女は赤く艶めかしい唇を、ぽかん、と開いた。
「ねぇそう言えば、君を
男は眉間に皺を寄せた。
「それが、どう――」
少女は、薄く目を細めた。微笑んでいた、のかも知れない。
「――君、
男は眼を大きく見開いた。
「捕まえたのは半年くらい前かなぁ? 紅江は
「貴様……きさまら、紅江に何をした……」
「色々お話聞いたら、びっくりじゃない。本当は
声音だけが楽し気に響く。しかし、変わらずその表情に色はない。男の唇が奮える。そこまでの事を、
「彼女には、白玉を捕まえている
少女の顔が、口付けられる程に近く男の顔に寄せられた。ふわりと、甘く脳髄がしびれるような香りが鼻先をくすぐった。
「――そう、君、彼女の三交の、
その瞬間、少女は明白に、花が開くように艶やかな笑みを浮かべた。
「おめでとう。親になるんだね」
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