8 不干渉地帯
そこからの道中は更に難を極めた。不干渉地帯というのはつまり人がいない訳ではなく、国の管理外の
異なる命の人間達が、共にこの厳しい環境下で
ふと見ると、
「
「
「月朝の罪人……」
「邑から出た者もいるし、
寝棲は、遥か遠い
「――麻硝はな、元々ここの出身だったんだ」
集落に預けていたのは、どうやら旅の具だけではなかったらしい。布を開いて確認している物の中に、明らかに武器らしき物が含まれている。それが並々ならぬ信頼の上に成り立っている事だと言うのは、世事に疎い八咫ですら察しが付く。隊は引き渡された荷の状態をその場で確認すると、運んできたまだ年若い子供らに
「なんだよ」
「いいか。これ程好意的に関わってくれる集落はそう多くはない。
「――わかった」
徒歩で雪の岩山を登るのは八咫には初めての経験であり、それだけで体は痛み、肺は凍て付いた。三日の行程を経て山を越えると、その先には平地が広がっていた。氷だけでなく緑も幾ばくかは見える。それも夏が過ぎれば一面白に覆われるらしい。
平地を進む道々、八咫は寝棲からこの国について更に学んでいった。
「この国は国号を
「つまり、ここ
「そうだ」
「で、夜見国は当時
「うん」
「その簒奪の為に引き起こされたのが
「そういう事だな」
「で、
「そうだ」
「月が簒奪者なのに民衆から統治に当たる賛同を得られたのは、民衆も
「どうした八咫、理解が早いぞ」
「もたもたしてられねぇんだよ、俺は。――一刻も早くあの野郎から
黒く沈んだ
「――本当に、すまんかった」
寝棲の声音が変わった事に気付いた八咫は、小さく溜息を吐いた。
「寝棲が悪い訳じゃねぇのは分かってるよ。ムカつくけどあいつの言う通りだ。俺が無力なのがいかんかったんだ。これから先、自分一人を食わせていけるのかどうかだって分かりゃしねぇ。
「――お前、強い奴だったんだな」
「強くなるしかねぇんだ。頭も、体も、心も。挑発されたままで済ませて
白い息を吐き出しながら、八咫は遠く地平を睨んだ。
「――俺が今一番引っかかってんのは、その赤玉って神に仕えていたような連中が、よりにもよってその赤玉を、異地の帝と誓約して白玉と取り換えるような事を何故良しとしたか、なんだよ」
寝棲がはっとした顔で瞬きをする。
「
無言で聞くしかない寝棲の傍らで、八咫は続ける。
「で、めでたく
「八咫、お前」
「月人だって、皇帝に味方する奴がいたならそれに反感もってる奴等だってたくさんいるはずなんだ。
遠く地平の彼方に微かな影が浮かび上がる。よくよく目を凝らせば、それは十程の天幕だった。そこから馬影が何騎かこちらへ向かってくる。その場に待機していたのは二百。しかしそこは仙山の大本営ではない。極少数の、麻硝達の出迎えに過ぎなかった。
「前に寝棲が言ってた通りに、白浪との交渉を見越して不死石を確保したかったってのは当然あるんだろうけど、麻硝も本来はそっちの内部瓦解とか、朝廷自らが動くのを引き起こす事の方が狙いだったんじゃね? 知らんけど」
麻硝達一団の者達が、馬影に向けて手を振る。
じっと眼を地平に向けて先へと進む八咫は、すでに少年の顔を捨てていた。
彼は今、正に子供時代を捨てて歩き出したのである。
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